かまどキッチン『海2』のあとに
かまどキッチン『海2』終演しました。ありがとうございました。
かまどキッチン『海2』と約1ヶ月半ほど付き合ってきました。
この作品でいうところの海ってのは、凪もない、分断もない、争いもない、すべてが溶け合った状態のこと。
理想的な風景であり、僕も、恐らく多くの人も、そんな、海になりたい、という気持ちを抱いたことがあるんじゃないかと思う。
でも、海になる、つまり分断も争いもない状態を作るためには、そこに至るまでに分断も争いもあるということで、【海】からこぼれ落ちる価値観や人間が存在することを無視することになると思うんですよね。
『海2』でも、結局海になっても争いは繰り返された。
【海】は、【多様性】とほぼ同義なんじゃないかと思う。
「分断も争いもない世界」「多様性を認め合う社会」は、「どっかの誰かが思う分断も争いもない世界」「どっかの誰かにとっての多様性を認め合う社会」であって、結局その言葉からこぼれる多様な価値観や人間が存在することを認めない。
海になりたいと思う一方で、僕の定義する【海】からこぼれ落ちる価値観や人間がいるということを忘れてはいけないし、そもそも【海】になんてなれない、【海】になる過程でたくさんの分断、争い、暴力、排除が生まれることを見ないフリしてはいけない。
『海2』に関わっているうちに、【海になりたい】と【海になりたくない(なってはいけない?)】この両方が自分の中に共存していることを認識した。
すべてを多様性という言葉に一括りにするのではない、すべてが溶け合わない、そんな状態で、誰かを傷つけることなく、言葉を交わし、ともに生きていくことはできるだろうか。そもそもこんな考え方も傲慢な気もする。僕はいつでも傷つける側に立ってる。その立場から降りることはできない。「溶け合わなくていい」が自身の加害性を正当化する言い訳にだけはならないよう慎重に考えていきたい。
まだ言葉にはなっていないけど、すべてが溶け合わずとも生きていくためのヒントを、この『海2』の創作に関わったことで、得ることができた気がしている。この種を育てていければなと思う。
出演
浦田すみれ
緒方壮哉(libido:)
佐藤真喜子
松﨑義邦(東京デスロック)
山田遥野(青年団)
スタッフ
作演出 児玉健吾*
音楽 坂田機械*
ドラマトゥルク 佃直哉*
演出助手 大野創(アーバン野蛮人)池田衣穂(劇団行動力)
音響 おにぎり海人*
舞台監督 河井朗(ルサンチカ/青年団)
宣伝美術 得地弘基(お布団/東京デスロック)
イラスト 坂田機械*
撮影 マコトオカザキ
制作 黒澤たける 河野遥(ヌトミック)かまどキッチン
映像 松尾佑一郎
プロデュース 佃直哉*
助成:公益財団法人東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京
*=かまどキッチン所属