みょめも

誰もが経験してそうで、絶対していない世にも奇妙な短編集です。

みょめも

誰もが経験してそうで、絶対していない世にも奇妙な短編集です。

マガジン

  • 妙メモリー

    この世のものとは思えないショートショートが並ぶ世界。

最近の記事

松本のジェネリックの竹本【ショートショート】

高校生の頃、僕には松本という友達がいた。 松本はスポーツも勉強も優秀で常に学年トップだった。 おまけに顔も良い。 ちょうど白い錠剤に目、鼻、口がついたような好青年だった。 異性だけでなく同性からも好かれる人気者で、部活のキャプテンから生徒会長までこなす彼はまさに隙のない男だった。 ところがある日、松本が学校に来ていないことがあった。 朝のホームルームで先生は「松本は風邪で欠席だ」と言った。 次の日も松本は学校を休んだ。 そしてその次の日も。 健康体で皆勤賞常連だった彼が

    • スポンサーがついていた転校生の話【ショートショート】

      これは中学3年生のときの話だ。 東京から転校生がやってきた。 名前を財前さんといった。 艶のあるロングヘアーが特徴的な女の子で、僕らの学校の女子とは少し違う独特なオーラを纏っていた。 そして容姿もさることながら、僕らが1番驚いたのは「スポンサーがついている」ことだった。 彼女の制服には誰もが耳にしたことのあるファッションブランドや飲料水のメーカー、カメラのメーカーなどのロゴがいたるところに貼り付けられていたのだ。 「やっぱり都会から来た子は違うなぁ」 東京から来たとい

      • 夏が飲み会に来た話【ショートショート】

        あれは大学生の頃だった。 当時は何かと理由をつけては飲み会を開き、またしばらくして飲み会を開きと大学生の本分を全うしていた。 じめじめした梅雨の時期に友達内で飲み会を開いたことがあった。 気の知れた仲間ばかりで、みんなの失敗談や下ネタなどを肴に酒も進み、楽しい時間が過ぎていた。 相変わらず話のネタが尽きないな、などと笑っていると、前田が電話で席をたった。 僕らは気にせず笑い話をしていたのだが、しばらくして戻ってきた前田は浮かない顔をしていた。 「あ~のさ、あの、夏が、くる

        • 肩甲骨を洗った日の話【ショートショート】

          あれは就職活動が忙しい大学4年の頃の話だ。 慣れないスーツを着て、あちこちの企業面接に行き、精神的にも肉体的にも疲労が蓄積されていた。 くたくたになりながら帰ると、母の声かけを適当に受け流しそのまま脱衣場というのが慣例だった。 その日も足取り重く帰宅すると、予め緩めていたネクタイと、鉛のプロテクターのようになったスーツ、ワイシャツ、それに肩甲骨を脱いで風呂へ入った。 湯船の中で今日の面接の反省をするのが日課になっており、「あの面接官の問いにどうやって答えたっけ」などと口元ま

        マガジン

        • 妙メモリー
          34本

        記事

          援助交際していたぬいぐるみの富田【ショートショート】

          これは僕が高校生の頃だった。 当時は部活帰りによく繁華街で買い食いしており、富田を見かけたのはそんなときだった。 富田は薄暗い歩道で、足を広げて伸ばす格好で座り込んでいた。 僕は友達に先に帰ってもらい、富田にどうしたのかと話しかけに行こうとした。 すると「こんなところに置いていかれちゃって……」と富田に話しかける女性が現れた。 最初は何事かとぼーっと見ていたが、女性が富田を担ぎ上げると、富田はされるがまま、女性につれていかれてしまった。 次の日、学校で富田と顔を合わせた

          援助交際していたぬいぐるみの富田【ショートショート】

          小石が家にやってきた話【ショートショート】

          小学生の頃、よく石蹴りをしながら通学路を歩いたものだった。 脇道に逸れたり、草むらに入ってしまったりしながら学校まで蹴っていくのだ。 石はどんな形でもいいわけではなくて、石蹴りに適した石というのがあった。 まず大きすぎないこと、他の石とは違うんだぞと気合いが入っていること、そして蹴られてもいい準備ができている、分かりやすく言い換えれば、こちらにお尻を突き出している石であること。 そうした石こそが『蹴られるために生まれてきた石』といえる。 そんな石と目が合った日は暑かろうが雪が

          小石が家にやってきた話【ショートショート】

          少し浮いていたクラスメイトの話【ショートショート】

          「お父さん、風船とんでっちゃったー」 風船が木に引っ掛かっている。 娘が手を離したのだ。 よくある光景といえばそうなのだが、これを見ると決まって小学生の頃を思い出す。 小学校の高学年だった。 僕のクラスには少し変わった子がいた。 浮田(うきた)、といった。 浮田は少しだけ浮いていた。 風船を持って、少しだけ浮いていた。 ただ、浮いているのは本当に少しだけだったので、みんなあまり気にしていなかった。 いつの時代もクラスで浮いてしまう子というのは少なからずいると思う。 浮い

          少し浮いていたクラスメイトの話【ショートショート】

          こばちさんに朗読していただきました。その2

          【耳にタコができた話】を朗読していただきました。 皆様も耳にタコができた事あるのではないでしょうか。 そんな頃の事を思い出しながら聴いてみるといいかもしれません。 しかも!今回は可愛らしいイラストつきになってます。 作:みょめも と書かれているのを見て少し嬉しくなった秋の朝です。

          こばちさんに朗読していただきました。その2

          こばちさんに朗読していただきました。

          この度、私が生み出した問題作のうちの一つである「レーズンパンを隠したときの話」を、こばちさんに朗読していただきました。 この方、とても丁寧に作品を大切に朗読されています。 そして素人耳でも分かるほどの朗読スキルの高さ。 作品に命が吹き込まれた、そんな気がします。 一聴の価値ありです。 普段から赤毛のアンを英語で朗読されていたりするのですが、こちらも耳心地が良いのでぜひ聴いてみることをおすすめします。

          こばちさんに朗読していただきました。

          ウォーリーを見つけたときの話【ショートショート】

          あれは僕が小学生低学年の頃の話だ。 当時、僕は「ウォーリーを探せ!」という絵本が好きでよく見ていた。 「ウォーリーを探せ!」とは、人や物が入り乱れる景色の中からウォーリーという人物を探すゲーム形式の絵本だ。 ウォーリーは、赤と白の縞模様の服と帽子を来てリュックやステッキを持ちながら世界中を旅している、メガネをかけた細身の男の人である。 一見目立ちそうな格好にも思えるが、ひとたび景色に溶け込んでしまうと簡単には見つからないもので、小学生時分にはよく必死になって探していたものだっ

          ウォーリーを見つけたときの話【ショートショート】

          耳にタコができた話【ショートショート】

          あれは僕が中学3年生の頃の話だ。 当時は高校受験へ向けて勉強しなければならない時期だったのだが、どうしても身が入らないこともあった。 そしてそれは夏休みにおきた。 母から100回目の「勉強しなさい」を言われたとき、耳にタコができた。 そりゃあ何回も同じ言葉を聞けばタコの1匹や2匹くらいできるというものだ。 タコとガラス越しに目が合ったので軽く会釈すると、タコは腕を組み、呆れ顔で口を尖らせていた。 誰しも1度は耳にタコができたことがあるかもしれない。 しかし、それでも同じ言

          耳にタコができた話【ショートショート】

          『特上』だった日【ショートショート】

          これは小学生の頃の話だ。 その日は珍しく特上になるとのことだった。 僕の地域ではあまり特上になることがない(そうは言っても年に何回かはある)。 だから特上と分かるやいなや朝からニュースになった。 「今日は特上になるらしいわよー。」 学校へ行こうと玄関で靴を履いているとダイニングキッチンから母が叫んだ。 僕は子どもの頃も大人になってからも特上があまり好きではない。 そもそも特上が好きという人は珍しいと思う。 脂の量が多くて喜ぶ人はあまりいないのではないだろうか。 「トン

          『特上』だった日【ショートショート】

          レーズンパンを隠したときの話【ショートショート】

          小学校の頃の話だ。 当時、僕はレーズンパンが嫌いだった。 ピーマンや人参だって食べられたけど、給食に出てくるレーズンパンだけはどうしても苦手で、よく掃除の時間まで食べさせられていたものだった。 担任の指導方針によっては、食べられないものは「いただきます」をする前に戻して良いとされていたけれど、毎年そんな優しい担任にあたるわけはなかった。 そのときの担任は給食を残すことに厳しかった。 給食の時間が終わろうが、掃除の時間が終わろうが、5時間目の授業が始まろうが、とにかく完食させ

          レーズンパンを隠したときの話【ショートショート】

          クラシックを捕まえていた頃の話【ショートショート】

          小学生の頃は、夏休みになると虫取り網と虫かごを持ってよくクラシックを捕まえていたものだった。 特にクラスメイトの桑田くんはクラシックにとても詳しかったので、家も近所だったこともありクラシック取り仲間として毎日のように遊んでいた。 クラシックはたいてい大きな木の幹にとまっていて大きな音で鳴いているのだけど、桑田くんが言うには鳴き方で種類が違うのだそうだ。 「あれは何て言うクラシック?」 《ジャ ジャ ジャ ジャーン》 木にとまる1匹を指差して聞くと、桑田くんは目を閉じ

          クラシックを捕まえていた頃の話【ショートショート】

          ヒゲ泥棒【ショートショート】

          あれは僕が中学生の頃だったと思う。 ある事件が世間を騒がせた。 言わずと知れた「ヒゲ泥棒事件」である。 連日ニュースで報道されたその事件は僕のいる町で起きた。 当然子供の耳にも入り、学校でも知らない子はいないくらいに有名だった。 大人たちは「そんな卑猥な事件を子供に聞かせるわけにはいかない」と躍起になっていたがその甲斐もなく、町内ではヒゲドロという愛称で親しまれていた。 それでも大人たちは暫くの間、チャンネルを変えたり、食事中にそんな話はやめなさいと注意していたが、とうとう

          ヒゲ泥棒【ショートショート】

          桃太郎を見かけた話【ショートショート】

          これは僕がまだ幼かったころの話だ。 当時、僕たちの家族は、少し歩けば船着き場のある、漁業の盛んな町に住んでいた。 学校が終わると友達と海沿いを下校しながら、船着き場のそばの空き地でよく遊んでいた。 その日もいつものように空き地で走り回っていて、ふと海の傍の定食屋に目をやると海には似つかわしくない格好の人影があった。 桃太郎がいた。 桃太郎は、鯵フライ定食のご飯大盛りを食べていた。 見た瞬間は「あ、桃太郎だ!」と思ったが、見ているうちに本当に桃太郎なのか、こんなところに桃

          桃太郎を見かけた話【ショートショート】