「人生終わった。」と思った僕が、再起したフランス旅
「僕の人生、もう終わりだ・・・・・・。」あのときは、確かにそう思っていた。
忘れもしない卒業を控えた大学院修士2年の春、僕は就活に失敗した。教授の勘違いと、地元を離れることを許さなかった親の猛反対により、貴重な大学推薦の機会を不意にしてしまったのだ。
なんとか地元の中小企業に就職を決めたものの、仲の良かった友人たちはみんな大手企業に就職し、僕はすっかり自信を失くしてしまっていた。
おまけに親が奨学金のほとんどを生活費に使っていたことが判明。卒業と同時に1000万ちょっとの借金を抱えることになった。
ところで、学生時代あなたは、素直な優等生タイプだったろうか?それとも、度々問題を起こす不良タイプだったろうか?
僕自身は非常に従順な学生だった。いつも先生や親の期待に応えようと一生懸命だった。それが良いことだと信じていた。
「それなのに・・・・・・。」
彼らは僕の将来なんてこれっぽっちも考えてくれてなかったのではないか、何も悪いことなんてしてないのにどうして僕だけこんな惨めな思いをしなければならないのかと、周りの人や自分のこれまでの生き方を恨んでばかりいた。
「このままではいけない。なんとかこの状況を打破しなければ!」
もがいてはいたが、なにも変わらないまま1年近くが過ぎた。
『国際学会のご案内』
きっかけは卒業後も退会せずに所属したままになっていた学会からの案内メールだった。内容はフランスのリヨンで国際学会が開催されること、オンラインでの参加登録受付がまもなく始まるというものだった。
「国際学会・・・・・・。学生時代にあこがれていた夢の舞台。今回は発表は無理だけど、せめて雰囲気だけでも味わいたい。」
そう思うといてもたってもいられず、上司に「学会に行きたい!」と直談判していた。始めは渋い顔をしていた上司だったが、最後には「有給を使って自費で行くなら、俺は文句は言わん。」と一週間の有給を許可してくれた。
こうして、人生で2度目の海外旅行、そして人生初の海外ひとり旅が決定した。
親は「ひとりで海外に行くなんて、危なすぎる!」と反対していたが、今回は押し切ることにした。
あなたはひとりで海外旅行に行かれたことがあるだろうか?
ご想像の通り、それは今まで先生や親の言うことを聞くだけだった僕には厳しいものだった。
初日、飛行機が遅れてしまいリヨンのサン=テグジュペリ国際空港に到着したのは夜の9時を過ぎたころだった。外は真っ暗。雨がしとしと降っていた。
トラムに乗って市内まで移動。ここからホテルまではすぐのはずなのに、駅の案内表示や地図はすべてフランス語のみ。自分が駅のどこにいるのかさえ分からない。日本で印刷してきたホテルへの地図は雨にぬれたせいで、インクがにじんでしまい読めなくなった。
それでも、近くの人にホテルの場所を聞く勇気がなくて、延々と駅の周りをうろうろしてなんとかホテルをみつけることができた。
翌日からの数日間は楽しみにしていた学会発表。英語がほとんど聞き取れず、自分の実力不足を痛感した。それでもずっと話を聞いている内にすこしずつ慣れてきて、学会3日目に行われたポスターセッションでは、発表者に直接質問して議論を深めたり、今の仕事や学生時代の研究について話すことができた。
学会終了後はちょっとだけフランス観光。リヨンからフランスの新幹線TGVに乗って、一気にアルザス地方のコルマールへ移動。
大好きな映画『ハウルの動く城』のモデルの地と言われる美しい町並みがすばらしかった。
また、アルザスワインがとてもおいしくて、あまりの感動に、日本ではお酒がおいしいなんて思ったこともなかったのに、ついボトル2本をお土産に買ってしまった。
最終日は電車を乗り継いでバーゼル(Basel)まで行き、バーゼルの空港から飛行機に乗る予定だった。日本で手配した電車のチケットにも『Basel』と印字されている。
最後の乗り換え駅でバーゼル行きの電車を待っていたとき、電光掲示板を確認したら『Basel』行きの電車が一本もなかった。すべて『Bale』行きとなっている。乗車予定だった電車も『Bale』行きだった。あわてて近くを通りかかった駅員さんに確認したら、『Basel』はフランス語では『Bale』だと笑顔で教えてくれた。
おかげで無事空港に到着でき、出発ゲートの前に集まっていた日本人観光客の姿を見たときの安心感は今でも忘れられない。
海外ひとり旅では、トラブルの対処やホテル選び、チップをどうするか、観光の予定など様々なことを自分の価値判断で決めないといけない場面が日本で生活しているときよりも格段に増える。この旅行を通して自分もやればできるではないかと、 少し自信を取り戻すことができた。
フランス旅以降、年に最低1度は海外へ行き、様々なことに挑戦してきた。例えば、パラオでスキューバダイビングのライセンスを取ったり、ハワイでホノルルマラソンを完走(完歩?)したり、オーストラリアでスカイダイビングをしたり。
もちろんうまくいったことばかりではなくて、台湾では犬に追いかられるし、シドニーで宿泊したホステルでは相部屋だった男性が夜中に女性を連れ込んでsexを始めるし、バンコクでは家に泊めてくれた人がゲイで夜中に襲われそうになるし、ひどいホームシックになったこともある。
でも、良いも悪いも含めてこれらの経験を通じて自分のことを少しずつだけど分かってきたし、徐々に自信を取り戻していくこともできた。
そして数年前には転職を決意し、現在は自分にとってより理想的な仕事に携わることができている。旅行好きの友達もたくさんできた。今、僕は幸せだ。
だから、もしあなたが現状のあなたの人生に満足していないのなら、僕は旅に出ることをおススメしたい。きっとそれはあなたの人生をより良くするための原動力になるであろうから。