12年ぶりの21日間の楽園
6月末から7月にかけて3週間、何もしなかった。
息ぐらいはしていたけど、ああ、散歩はけっこうしたかな。4、5駅ぐらい歩いた日もあった。そんぐらいでなんもしなかった。
ちょうど12年前の7月のおわり。出版社から「あなたの書かれた作品。大賞は逃したんですが試しに来年3巻まで出しませんか? もちろん、売れ行きがよければ続けられます」と電話がかかってきた。おかげさまで、それ以来ハッピー&必死。常にどこか緊張。いつもとちがう自分。だからこそ出会える自分。でもやっぱりちょっとヘン。ま、ヘンも味。
作風にもよるけどシリーズというのはテンションという火を絶やしてはならない。暖炉にひたすら薪をくべ続けるようなものである。1巻より2巻、2巻より3巻とどんどん薪の量が多くなってくる。はじめは疲れるが次第に慣れてくるのがちょっと怖い。多作型ではないので時間が空くことはある。けど、何も知らないで業界に飛び込んでしまったからむしろ、空いた時間に仕込まないといけないことがたくさんあった。確定申告の仕方を覚えるのも作家の課題の一つ。劣等生が偏差値60の世界に放り込まれたような日々。
途中でシリーズをもう一つ増やし、暖炉にくべる薪がどっと増えた。話の展開上、二つのシリーズの最終巻をほぼ同時期に出したんだけど、薪マックス。テンションが高すぎていつも頭が痛かった。ファイヤーでボンバー。耳から血が出てもおかしくない感覚。あべし、ひでぶ。ぶへっ。ぷしゅー。
シリーズを終らせれば落ち着くかと思ったが、10年間心血を注いだことのあとになにをやるか。結局そこが見つからないと今度は落ち着かない。しかもまさかなホラーな事件があり昨年は映画ジョーズの有名なBGMみたいな日々だった。
今年になり面白い企画の本を何冊かだし、関係者との対談もほがらかに終え、心のうみをどばーっと出すような原稿を送り(キミノベルから9月発売)7月、パッと時間があいた。本当に何もしなかった。何も考えなかった。毎日口を開けて空をながめていた。恋愛小説を書くと「こんな気持ちになるなんて」と書いたりするが、こんな穏やかな気持ちになれるなんて!と自分で自分にびっくりした。なぜ、こんな穏やかな気持ちで休めたのか。
燃え尽きたのかもしれない。いや、それだけではない。
自信ができた。
人は燃え尽き、自信が出来て初めて休める。
楽園にたどりつける。
もしかしてあしたのジョーの主人公も楽園にたどり着いたのかも。
そして、今、楽園の延長で来年発売の原稿にむきあっている。
以下、自信と楽園をくれた著書たち。絶賛発売中。
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