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「3回同じことを聞いたら」#心に残る上司の言葉・コンテスト参加作品
大昔、ワタクシが会社員として働いていた頃のお話。
女性が多く在籍する経理総務の部門の責任者、ワタクシたちの上司はすでに65歳を超えた男性だったけれど、とにかく女性社員への言葉がけに気をつける人だった。
当時まだ「パワハラ」などという言葉もなかった時代、上司は「これをしておけ」とは絶対に言わず「これをお願いできますか」というセリフをナチュラルに使っていた。
ある日、ワタクシがいつもの書類を整理していたら、上司がワタクシにこう声を掛けてくれた。
「分からないことがあったら聞いて下さい」
これは口癖のように言っていた上司の定番のセリフ。ところがこの時、なぜか上司はさらにこうつけ加えた。
「たとえ知っていても質問するくらいがちょうどいいです。自分が安心できるまで何度でも何度でも聞いて下さいね」
ひょーっ! 3回同じことを聞いたらしつこいって言われますよ、ふつう~!
逆にワタクシ、戸惑った。
これはいつもの業務で難しくもなんともないヤツ。不安になる箇所はひとつもない。何か探してでも訊いた方がいいか、それとも上司が言うように知っていることをわざとらしく確認した方がいいか・・・と悩んでいたら、突如、周囲に化学反応が起こった。
「あの・・・これこの間言われた書類なんですけど・・・」
「あれ、こう思ったのですが、どうでしょう」
聞こうかどうか迷っていたらしき人がドンドン、ドンドン湧いて出て、上司に確認し始めた。それを見たワタクシ呆然。
うそ~ん! それ、今まで黙ってたの? ある意味よく黙っていられたよね? さっさと言いなさいよ~!
そう内心毒づいているワタクシとは別に、上司はシレっとみんなの困りごとを解決していた。
※
「たとえ知っていても質問するくらいがちょうどいいです。自分が安心できるまで何度でも何度でも聞いて下さいね」
という言葉。
それ以降、報告・連絡・相談ができていない、それも何か困りごとを隠していそうなアヤシ~イ人をあぶり出す、魔法の言葉として重宝しているワタクシ。
うけけ。
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