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Rush 『Moving Pictures』

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🎧 Rush 『Moving Pictures』

洋楽を聴く方はもちろん、そうでない方もそれとは知らずに聴いているカナダ出身の超メジャーバンドRush。私はこのアルバムしか本格的に聴いた事のないにわかファンだが、以前も書いた通り買ったレコードがものすごい良かったら他の買う気にならないんですよね。このアルバムもそうでした。
ちなみに別のアルバムですが、この曲のイントロがお茶の間では一番おなじみかも。

出会い

1980年に「サウンドストリート」でこの一つ前のアルバム『Permanent Waves』に収録された「The Spirit Of Radio」と「Freewill」を聴いたのが初めてだったと思う。これプログレか?。当時はRushの歴史についてよく知らなかったのでプログレバンドと言われていると聞いて違和感があった。
あとギターのAlex Lifesonは最初女性だと思っていた。

レコード会社

のちに昔のアルバムはプログレだが『Permanent Waves』は売れるアルバムを作れとレコード会社から言われて作ったと雑誌で読み、信念のないバンドだなと思っていた。さらに後でよく聞くとラジオで流せる短い曲を作れと言われラジオの曲を作ったと聞いた(内容は弱冠嫌味っぽい)。実際4分56秒の曲を3分に編集している。まあいろいろあったんでしょうけど、カナダからはるか彼方の日本のラジオでかかってたのだから成功だったんでしょう。今みたいにネットで誰かが勝手に宣伝してくれる時代じゃないし、世界規模になるとラジオしかなかったしね。
しかし、斜めにしか物事が見えない私としては弱冠疑問が。いくら商売とはいえ、そこそこ売れていて且つちょっと哲学的な詩を書くバンドにラジオで流れる曲作れって言う?ハイわかりましたって作る?確かに80年代に入って多くのプログレバンドは姿を消して、Yesは「Owner Of A Loney Heart」を作り、King CrimsonはAdrian Blewを入れて様相を変わってしまい、Peter Gabrielが脱退したGenesisは予想通りただのポップバンドになっていた。とはいえ、だからって時代の流れに合わせたのは元々このバンドがプログレを演ること自体に無理があったのかもしれない。

Led ZeppelinからYesへ

元々Led Zeppelinファンでハードロックバンドを始めたという。確かにファーストアルバム『Rush』は普通のロックで特に1曲目「Finding My Way」の歌い出しはRobert Plantそのものだ。その後Yesの影響でプログレになっているが、なんかなりきれていない。悲しいかな頑張って難解な長い曲にしようとしているハードロックバンドにしか聴こえない。そういう意味でいうと80年代に路線変更したこと(本人たちはそうは思ってないでしょうけど)によって今の偉大な地位を気づけたのだろう。

Neil Peart

ドラマーとして当然素晴らしいのだが、彼が評価されているのはRushの作詞家としてである。車とバイクが好きで1998年にはバイクでアメリカ横断をしている。ただそれは、前年に娘を交通事故で亡くし、その後奥さんを癌で亡くしショックでRushの活動を停止した時だ。残念ながら本人も2020年1月に脳腫瘍で亡くなっている。彼は小説から哲学書までいろんな本を読み、彼の書く詩はその言葉の裏に哲学的な意味があると言われ、当時Rushの詩を研究する会というサークルがある日本の大学もあったという。このアルバムは全曲Neil Peartが担当しており(一部合作)、レコードのライナーノーツにはこのアルバムのレコーディングや曲に関する彼の手記も載っている。1980年の5月から始まり、当初は『Permanent Waves』の後に2枚組のライブアルバムを出す予定だったがスタジオアルバムに急遽変更になったくだりから、1980年12月の完成までの彼の思いが書かれている。その中にアルバム最後の曲「Vital Signs」(意味:医学用語で「生命兆候」、血圧や脈のように生きている兆候を指す)に関する興味深い一節があった。

これはテクノスピークと言われるエレクトロニクスやコンピュータの用語に対する私自身の答えなのである。人間社会の機能、雇用関係において、人間の存在をヒューマンマシーンと呼ぶ事と同様に考えていい。私達が自分達の作った機械に自分達の本性を託すか、それとも機械が不可思議な人間性の掟に単に支配されるのか推し量ってみるのも面白い。

40年近くたった今、人間が情報を打ち込みその答えに人間が従う。時代はAIとなりそのどちらでもあるように思う。

このアルバム

Rushで最も有名な曲と言っても過言ではない「Tom Sawyer」から始まる。初めて聴いた時はその不規則なリズムと唄で、数回聴いても理解できない複雑な曲と感じた。でも今やその変速的な曲もすっかりカラオケで歌っている人がいそうななぐらい変速感を感じなくなった。

「Red Barchetta」は車を走らせ伯父の農場に行く唄だが、一部では近未来社会を歌った歌詞だと言われているが真意はわからない。インストロメンタルの「YYZ」は彼らの地元トロントの空港の認識コードで、曲のイントロはそのモールスコードから取っている。私は最近のアメリカでの「Black Lives Matter」運動のデモや大統領選挙での支持者同士の争いをテレビで見ると、このアルバムの「Witch Hunt」(魔女狩り)の歌詞を思い出す。

Quick to judge           裁くのが早く
Quick to anger           怒るのも早い
Slow to understand        ただ理解するのは遅い

Igonorance and prejudice     無知と偏見
And fear             そして恐怖が
Walk hand in hand        手に手を取って歩いている

最近SNSでの誹謗中傷が話題になり、残念ながら自ら命を絶つ人がいる。
華やかな舞台を指すLime Light。SNSが存在しないはるか昔、チャップリンが同名映画でスターの華やかさと孤独を描いた。同じようにNeil Peartはポップなメロディーの曲「Lime Light」でこのように表現している。

Living in the Limelight     華やかな舞台の上で生きること
The universal dream     そうありたいと望んでいる人にとって
For those who wish to seem  誰もが望む夢
Those who wish to be     そうありたいと思う人は
Must put aside the alienation 疎外感を置いといて  
Get on with the fascination  その魅力に酔わないといけない
The real relation       真の人間関係は
The underlying theme    その下に横たわるテーマ

モノを作る事

Neil Peartは手記の最後にアルバムの完成についてこう言っている。

どれだけ事が長引いても、私達は最後には決まって満足のうちに仕上げをすることができた。だが何にもまして完成したその事ほど嬉しいことはない。特に仕上げたアルバムの全体を初めて通して聴き返すとき、それまでの長かった月日と困難さがウソのようにあっけなく通りすぎてしまうようで、おかしな感じがする。たった40分間の音楽の中に仕込まれた考え、感情、エネルギーがどれほどのものだったか、一体この短いアルバムで表現できるのだろうか。しかしそのとき突如として、演奏者から聴衆の一人になり変わっている自分に気づく。家でこのレコードを聴くリスナーが感じるであろう手応え、反応を自分自身が感じている事に気づくのだ。おそらくアウトプット(ライブなど実際に外に向かっての表現活動)は、こうしたインプット(レコード作りなど、内に向かった蓄積創作活動)の全てに、大きな力を貸してくれるに違いない。ちょうど神が人間の生に力を貸してくれるように。そして聡明なリスナーにとっては、そうしたミュージシャンの経験が自分自身の経験として知覚できるのではないだろうか。

正直に言わせていただくと、作るご苦労はわかりますが好き嫌いには影響しません。言いたい事や表現したい事を理解する努力はしようとしています。でもそれは自分の好奇心です。結果どう捉えるかは聴く側の勝手だと思っています。そして手に取れるジャケット、ライナーノーツ、ケースが存在する場合は作品の一部として大事に扱うよう気をつけています。

最後に、このアルバムが素晴らしいことは聡明なリスナーではない私にもわかります。

遅くなりましたが、RIP Neil Peartさん


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