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東京

東京の街が好きだ。
人々が不干渉なのがいい、終電が遅いのもいい、都市と自然のバランスがいい、コロッケそばも美味しい、渋谷のネズミはこわい。
確たる何かがある訳ではないが、何となく大好きだ。


上京したきっかけは、当時婚約状態にあった恋人に言われるがまま、目的もなく付いて来ただけであり、今に至るまで東京に住んでいる目的はない。
その恋人は上京して半年足らずで先輩美容師に寝取られることになるのだが、終わった色恋を蒸し返すほど野暮なことはないのでここでは割愛する。
蛇足ながら、その元恋人は先輩美容師とも別れ、単身N.Y.へ移住し、ブラジル人と付き合っているそうだ。
本当にたくましい。


初めて東京で住んだ場所は東京メトロ南北線東大前駅と都営地下鉄三田線白山駅の中間に位置するザ・文京区で、今考えるとものすごいところに住んだものだと感心する。
ただ、この場所が自分自身の東京のイメージを決定付けていると考えると、あながち間違った選択ではなかったように思う。
上野、秋葉原、御茶ノ水、根津、千駄木、水道橋、飯田橋、それと鶯谷、とにかく東京が好きになって然るべき場所に自転車で気軽に赴けたので毎日が本当に楽しかった。


あと、東京で一番意外だったことは、東京出身者にいい奴が多かったことだ。
地元にいるころは東京の人間は冷たい、他の地域を見下しているという先入観を持っていたが、接してみるとどうだろう、まるで逆であった。
東京出身の人ほど他の地域への敬意を持っているし、東京出身の人ほど他の地域の人を許容する懐の深さがある。
よくよく考えてみると、東京は家康公が拓いて以来、他の地域から人を受け入れ続けており、それが彼らのスタンダードなんだなと合点がいった。


上京して15年余り、ここのところ自分でもはっとすることが多い。
一例を挙げると、マクドナルドのことをマックと呼べるようになった。
地元大阪ではマクド呼称が一般的であり、それは東京の地でも大阪出身者のマクドナショナリズムが幅を利かせていた。
そんな様子が恥ずかしく、とは言えマックとも呼べない友達以上恋人未満のような関係が15年続いた結果、晴れてマックと呼べるようになったことは自分の中で一つのアイデンティティとなった。
これで俺も立派な東京都民だと。


先日、くるりの「東京」を聴いていてふと気が付いた。
これは地元にいる別れた恋人への想いを歌った曲ではなく、母親に向けた曲ではないかと。
そう考えると酔いも相まってぽろぽろと涙がこぼれた。
東京の生活は楽しくて快適だけど、あなたがいない。


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