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高知初ワイナリー!ミシマファームワイナリー探訪記
先日高知県の土佐町にあるミシマファームワイナリーに伺ってきました。
ワイナリーとの出会いはこの”note”。
私がせっせと専門記事を書いているのを面白く思って頂けたようで、初めはマガジン(更新停止中)の購入とそのお礼メールから始まったように思います。
そんなミシマファームワイナリーさんとオーナーさんである山中敏雄さんについて今回は紹介させていただきます(夫婦で営農されているのですが、今回は残念ながらこずえさんにはお会いできませんでした)。
ミシマファームとワイナリー
ミシマファームワイナリーさんは元々ミシマファーム、つまりブドウ栽培農家として存在していました。
しかし高知県のブドウ農家。
山梨県や長野県などとは違い、特にこれといった地域のブランド力もなく、なかなか値が付かないのが高知のブドウ農家の現状です。
そんな中でも特に、ミシマファームさんのブドウはかなり希少価値の高い無農薬であったにも関わらず、それでもなかなか見向きもされなかったそうです。
そんな中で「外からの風」を吹き込んだのが、私が今回お会いしてきたオーナーさんの山中敏雄さんです。
山中さんは元々福井県出身の方で、仕事でも高知県にいらっしゃったわけではなかったと言います。
また農家になるなんて全く予期してなかったとも仰っていたので、まさに青天の霹靂といった感じだったのでしょう。
そんな敏雄さんが結婚を機に、土佐町に住むようになりブドウ農家の未来や土佐町の未来について考えるうちに、とにかくなにかもっと新しいことが必要だと考えるに至ったそうです。
その答えが「高知県初のワイナリー」でした。
しかし、ワイナリーを作るというのは一朝一夕にできるものではありません。
特にワインに関する書類など土佐町の行政側も作成したことがあるわけもなく、全てのステップに時間がかかってしまいます。
さらには色々な方面から反対があったことも言うまでもありません。
こういったところを押し切るパワーがあったのは、きっと山中さんが「外様」であり、並々ならぬ熱量を持った方だったからなのだろうと思います。
そういった行政の説得から事務手続きまで全てを終え、ワイナリーを竣工したのはつい昨年の6月だと言います。
その時点でワイナリー構想を思い立ってから4年ほどの歳月が経っていたそうです。
ミシマワイナリーとしての歩み
そして去年がワインとしても初ビンテージということなので、許可が下りてすぐ醸造所は去年から稼働しはじめたということになります。
といっても実はワインのビンテージは2017からあって、それはその年のブドウが良作だったためになんとか果汁を置いておきたいと苦心した結果の冷凍保存によるものだそうです。
それでも生産量は0.3haほどの畑からで年間2000L。ボトルの本数にして3000本程度だと言えます。
これは実は行政側がワイン醸造特区として認可できる最低ロットなのです。
とはいえ、現在も畑を拡大させているみたいなので、これから生産量と共に設備もどんどんグレードアップさせていきたいそうです。
そんな現状の設備はこちら。
下の写真の発酵管理の部屋以外にもストックルームや、外のプレス機など、都度移動させながら一年を通しての作業を行っています。
写真はポリのタンクとステンのタンク。
発酵が旺盛な時の温度管理が昨年の悩みだったそうです。
特に温度の上昇による酵母の過増殖、それに伴う栄養不足と発酵停滞などが今後改善していくポイントだと仰っていました。
そんな今年は酵母の品種を変えて、管理がしやすくなったとも言います。
ちなみにステンのタンクは容量可変の蓋があるタイプで、ロゼワインや白ワインの酸化を少しでも緩和しようと少量生産のワイナリーならではの工夫が見られます。
こういった少量生産ならではの苦労もある一方で、胸を張って少量生産の利点を活かした手法も取り入れています。
「手除梗」がその1つで、もう1つは「洗い」の工程です。
手除梗は日本ではちらほら見かける工程ですが、その名の通り除梗の作業を手で行います。
手といっても実際には1粒ずつ採るわけではなく、房を目の粗めの篩の上で転がすように行います。
この工程は一般的な除梗より粒が保たれるので、酸化のリスクなどに晒されにくくなり、またその後の破砕や抽出の度合いによっては果皮からの成分抽出が抑えられるので、柔らかなワインになります。
また正直「洗い」に関しては、私はワイナリーでやっているのを見たことがありません。
ちらとスペインのリアス・バイシャスのワイナリーで潮風問題でしているとかいう噂を聞いたことがあるぐらいです。
ワインの潮風問題についてはこちら
ここの部分はワイナリーとしてより、農家として口に入れるものに責任を持っているという印象を受けました。
というのも日本の農薬の基準は諸外国に比べかなり緩く、ワインに関してもかなり緩くしか規制されていないと言います。
それは病果になりやすいから。
湿気や雨が多いからという環境要因もあるでしょう。
そこを敢えて無農薬で作っているわけですから、病果がないというわけにはいきません。
もちろん健全なブドウを選果はしますが、それに加えて洗浄を行うことで、より消費者に対しての安全性を求めていこうという姿勢が伺えます。
これに関しても、少量生産でなければ到底成し得ない部分ではないかと思います。
これが実際に味わいにどう影響しているのかというのは正直定かではありませんが、だからこそやっていく意味もあります。
さらには、こういった情報をオープンにすることを厭わない姿勢が小さなワイナリーの差別化、ファンの定着などに繋がっていくのだろうなと思います。
これからのワイナリーとファーム。
「ファームがあり、そこにワイナリーができ、ワインが造れた。」
しかし、それだけでは不十分だと山中さんは言います。
「どうやったってワイナリーの生産量には限りがあるし、ワインを造るだけなら別にフランスでもアメリカでも山梨でもいい。」
実際に私も、ワイン造りにもっと適した気候のところがあるというのは事実だと思いますし、だからこそ日本でワインを造る理由と言うのを常に考えなければならないなと思っています。
だからこそここにある「必然性」を山中さんは追い求めます。
その「必然性」を形にするものの1つに私が宿泊した地蔵庵があります。
この古民家は300年の歴史を誇る建物で、ワイナリーの横にあります。
日中は休憩所として開放しており、夜間は宿泊施設として機能しています。
そしてその中には縁側や畳、吹き抜けの天井など歴史を感じさせるものが並んでいます。
こういった宿泊施設を含めワイナリーの周り全体を1つのアクティビティとして成立させたいと山中さんは言います。
その中では、今ある喫茶だけでなく、BBQやツリーハウス、ワイン風呂なんかもやってみたいと仰っていました。
私自身も、そうやって積み上げたアクティビティはきっと世界に1つしかないものになり得るし、それによってワイナリーはそこになければならない必然性を持つというところには共感しています。
しかし、何をするにしてもまだまだ長い道のりが待っています。
例年のように襲ってくる異常気象、醸造技術の向上とワインの品質の安定化、ブドウの生産量の増加。
1つ取っても簡単なことはありません。
それでも自分たちが今どこにいて、何をしていかなければならないのか、他には出せない個性を造り、どのように価値を造っていくのかというのを真摯に考え続ける姿勢がその道を切り拓くことになっていくのだと思います。
今回訪ねたミシマファームワイナリーさんのホームページとワインの写真です。
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