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ワインにおける亜硫酸の代替法-抗酸化剤編


亜硫酸が抗酸化作用と抗菌作用の両方を持つ唯一無二の添加物であるということを以前の稿で述べました。

一方でトレンドとしてナチュラルワインといったものや、減亜硫酸ワインといったものがあるのもまた事実です。

ではどのようにして減亜硫酸ワインというのを作るのでしょうか。

亜硫酸を減らすだけでも減亜硫酸ワインはできますが、減亜硫酸という環境下でいかにしてワイン造りをコントロールしていくかということが重要です。

ここでは減亜硫酸環境下での微生物や酸化に対しての対処法を見ていきましょう。

亜硫酸というトピック


そもそもなぜ亜硫酸がこれほどまでにワイン業界で話題になるのだろうか。
亜硫酸ワインだから二日酔いがひどい、頭が痛くなる、健康に悪いなど。
様々な亜硫酸にまつわる話があるが、それの科学的根拠が示されている場合は少ない。
自然派ワインを推す本などでもそういうことが見受けられる。

その事実関係に関しては裏を取れていないのでここで大きく取り上げることはしないが、これだけ亜硫酸というものに世間が注目しているということは疑う余地はないであろう。

その亜硫酸の添加は基本的にはワインの醸造に於いて避けることができないとされている。
亜硫酸に変わる効用を持つものがないのである。

これは前稿でも説明したが、亜硫酸の効用は2つ。

抗酸化作用と抗菌作用だ。

その両方に変わるものはないが、片方なら担える添加物や醸造法がある。
今回は抗酸化の方を担える技術を紹介していきたい。

アスコルビン酸(ビタミンC)

アスコルビン酸はビタミンCと同義であり、この抗酸化能は以前も紹介した。

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この酸化反応が起こることでキノンをカテコールに戻すことができる。

これは亜硫酸添加でも同じ機能が見られるが、その役割を担うことができるのだ。

数度にわたってキノンについては説明しているが、キノンはワインの褐色化やアルデヒド生成などに影響する物質である。

この物質の還元剤としての能力は亜硫酸よりもはるかに強く、アスコルビン酸を添加した場合、酸素分子やキノンは速やかにアスコルビン酸の方と反応する。

そのため抗酸化剤としてのアスコルビン酸は亜硫酸添加を減らすことに有用ではあるが、一方で常に亜硫酸と共に用いられなければならないとされている。

それはアスコルビン酸が酸化される際に過酸化水素が生成されるからであり、その過酸化水素をキャッチするには亜硫酸が必要になるからである。

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ここで少し立ち止まってみよう。

カテコールは酸化されることによってキノンと過酸化水素を生成する。
そのキノンをカテコールに戻すことができるアスコルビン酸。
ただそのアスコルビン酸が酸化されることで過酸化水素が生成される。
過酸化水素はかなり酸化作用の強い分子である。
過酸化水素だらけではないか。

アスコルビン酸は本当に効果的なのだろうか?

ある研究ではアスコルビン酸は、一時的にワインが褐色化することや黄色くなることを防ぐということが言われているが、それはかなり短期的(数日から数週間)なものであり、以降むしろ過酸化水素の生成により酸化が促され、より黄色や褐色が強い状態になると言われている。

そしてこの短期間の効果をより長く持続させようと思うと過酸化水素を還元できるSO2の添加量を増やす必要が出てくる。

結果としてアスコルビン酸はSO2の濃度を下げるどころか上げなくてはならなくなるのである。

アスコルビン酸の利用を考えている場合は少し考え直すことも悪くないように思う。


発酵時の栄養管理


発酵時の栄養管理は酵母のSO₂の生成量に関わると共に、遊離亜硫酸と結合するアセトアルデヒドやピルビン酸などの生成量にも関わってくる。

そもそもアセトアルデヒドは酵母の代謝の一部に出てくるもので、アルコールの1つ手前の物質だ。

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酵母に関するより詳しい情報はこちらも参照してほしい。

このアセトアルデヒドはSO₂と結合しやすいことから、SO₂の添加量が多いときに酵母が自分の周りの環境を改善しようと多量に生産する。

また一方で酢酸菌の存在も忘れてはいけない。

彼らは嫌気的な条件下でも生き残り、アルコールを酸化してアセトアルデヒドにすることができる。

こういった条件でアセトアルデヒドが発酵中に多く生産されると、亜硫酸を添加しても、遊離態が全然増えないということになりかねない。

そのためこういった点でも発酵をスムーズに、汚染されることなく進めるというのが亜硫酸添加を少なくすることに役立つのである。

ちなみに余談であるが、亜硫酸無添加ワインに亜硫酸が入っていないわけではないということを聞いたことがある方はいるだろうか。

これは酵母が亜硫酸を生成することができるからであり、その量が異常に多い場合というのは、恐らく酢酸菌がアセトアルデヒドを多量に生産するなどの環境要因に起因し、外的環境のアセトアルデヒド濃度を減らしたい酵母が亜硫酸を作り出していると考えられている。


ガス充填


ガス充填は以前取り上げたのでさらっと流すが、窒素、二酸化炭素、アルゴンといったガスをタンクに充填する方法である。

これはタンク間でのワインの移動や、滓引きの際に用いられ、大きく移動する場合はタンクの下から全体に充填し液体と置換するイメージ、上からガスでカバーする場合は二酸化炭素など空気より比重の重い気体で、ワインの表層付近の気体を置換すイメージで行われる。

これは物理的に酸素を遮断する方法であり、これによって酸化が防ぐことができる。

また昨今の還元的醸造法ではタンクや樽の酸素を置換するだけにとどまらず、プレス中のワインの液面にガスをとどまらせることやボトリングライン、ポンプの中も一度ガス充填するなどという方法も取られているようである。


ハイパーオキシジェネーション

ハイパーオキシジェネーションという手法を聞いたことがあるだろうか。

意図的に酸化させてしまうことで将来の酸化のリスクを減らす
というのがこの手法の根源にある。

酸化される、酸化によって着色する分子というのはある程度限られている。

特に白ワインであればカテキンなどの酸化によりキサンチンになる物質、カテコールなど重合しメラニンとなる物質などがある。

これらを意図的に過度の酸化に晒すことで、褐色化、沈殿化させてしまい、その後濾過にかけることでそれらの物質を取り除いてしまうのである。

この手法は将来の酸化のリスクを低減させるだけでなく、カテキンなどの渋みの低減といったメリットもあるが、これは単純に酸化させるというだけでは出来ないというのがネックだ。

というのも100mg/Lほどのフラボノイドでは一度の酸素飽和、つまり9mg/Lほどの酸素で十分だとしているものの、同一タンクで循環させるだけであれば3-4mg/Lの酸素しか供給できない。

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おそらくこれを続けていればいずれは過酸化状態にはなるだろう。

ただ基本的には循環させる場合でも、ポンプのラインにガスを吹きこむディフーザーが必要で、そういったディフーザーであればタンクの底からでも直接混ぜながらガスの添加ができ、一度で飽和状態までもっていくことができる。

フローテーションという方法もある。フローテーションは本来窒素ガスなんかを用いて、澱を噴き上げ清澄するのに使われる手法だ。
ここで酸素を使って噴き上げることも選択肢の1つだという。

澱熟成

澱はかなり還元力の高いと言われている。

還元力が高いというのは逆に言えば、ワイン中の他の物質より酸化されやすいということである。

そして澱の大部分は酵母の残渣やフェノール類が結合したもので構成されている。
かといって酵母が酸化されるわけではないことはわかるだろう。

では酵母の残渣がなぜ還元力を持つのだろうか。

単純に言うと、酵母の残渣は熟成中に細胞膜が分解(自己消化という)され、その過程で放出する化学物質の中に還元力のある分子が存在するのである。

例えば硫黄化合物であるH₂Sやグルタチオンなどがそれにあたる。

基本的にイオン態で酵母から放出される硫黄化合物は、還元状態でH2Sの形で存在しており、それが酸化されることで硫化臭をなくすことができる。

一方でグルタチオンはアミノ酸由来の化合物だ。

グルタチオンは以前の稿にも出てきたが、3つのアミノ酸の結合した分子で、その中に含硫アミノ酸であるシステインを含む。

以前紹介したときはブドウに含まれる抗酸化剤という立ち位置であったが、これは実は酵母も産生することができる。

そしてこの分子は酸化状態に大きな影響を持つキノンと結合することができGRP(下図)という抗酸化の物質を形成する。

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ただ実際の滓熟成で一番重視されているのはマンノプロテインという多糖類の化合物である。
もう一度言うが、プロテインという名だがタンパク質ではなく多糖類だ。

この化合物は酵母の細胞膜にあり、抗酸化に貢献するということはないが、ワインに様々な影響を与える。

一般的に言われているのは以下のような点である。
・タンパク質のワイン溶液中での安定化
・色調の安定化
・酒石酸の安定化
・香りの持続性の向上
・ボディ感、ワインの口当たりのスムースさ、広がりの向上
・渋みの低減
・スパークリングワインの泡の細かさの向上

安定化というのはタンパク質がコロイド状になったり、酸が結合して析出したりするのを防ぐということである。

特に酒石酸が析出してコルクがきらきら光って見えるというのを経験したことがある人もいるかもしれない。

これは品質上問題があるというわけではないが、ワインの下に滓が溜まるのをあまり好まない人がいるように、見た目に影響が出るので安定化のプロセスを経て出荷されることが多いのだ。

またこの赤ワインの澱というのは避けることができないが、こちらの酸の析出はCold Stabilizationという過程を経ることで避けることができる。

そしてそのCold Stabilizationをしなくてもボトル内で析出しない可能性を上げてくれるというのが安定化という単語の持つ意味合いだ。

またそういった安定化のみならず味わいにも大きく寄与すると言われており、赤ワインでは一般的に、白ワインでは意識的にこのマンノプロテインの恩恵を得ようと滓熟成をすることがある。

不活性酵母

不活性酵母は醸造における添加物の1つだ。
これは酵母自身の栄養となったり、色や硫化臭を吸着したりする働きがある。
これは案外使っているワイナリーも多いのではないだろうか。

これはまず先に挙げた養分管理の部分と関わってくる。

不活性酵母はDAPなどの無機窒素ではないので、有機態窒素と無機態窒素のバランスをとるときに重宝する。

無機態窒素は酵母に利用されやすく、増殖能を上げるがその時に有機態窒素が少ないと、アミノ酸を欠乏するというストレスに晒されるといった状況になり、結果として窒素飢餓を起こすといったことになりかねない。

こういった状況を避けるためYANの少ないブドウでは無機態窒素だけでなくこういった添加物を用いることが推奨されている。

つまり先の発酵を円滑に進めることで亜硫酸添加を減らせるという部分に繋がっているのだ。

また不活性酵母も酵母であるので、酵母の残渣としての役割を果たす。
こちらは先の滓熟成のところと同様である。

不活性酵母の細胞膜のマンノプロテインによるワインの質の向上、酵母内のグルタチオンの放出による抗酸化の働きなどがもたらされる。

不活性酵母自体はそれ以外にも酵母が利用しやすい形で脂肪酸を与え、環境ストレスへの耐性を高めたり、細胞の代謝系の活性化などに寄与したりすると言われているが、それはまた別の話であり、現状ファクトが足りていないので、ニーズがあれば調べなおすことにする。


醸造用タンニン/フェノール化合物/オークチップ

醸造用タンニンというのも添加物の1つだ。

これも抗酸化剤として働くということは想像に難くないと思う。

そもそも酸化したら困るものがタンニンやアントシアニンといったフラボノイド化合物であるなら、それのダミーを用意するといったイメージだろう。

この醸造用タンニンが率先して酸化されるというわけではないと思うが、多量のタンニンおよびフェノール化合物は、抗菌作用や酵素の失活などにも寄与するという点からも評価されている。

一方で、タンニンはかなりワイン自体の味わいを変える可能性があるので、十二分に小実験をしたうえで添加しなければならない。

この醸造用タンニンは現状ではLaffort社やLallemend社のカタログにはないが、もしかすると将来的に添加物として出てくるようになるかもしれない。

ただその根源にフェノール化合物が多いことということがあるのだとすれば、オークチップでの代用が可能なのではないかと思う。

もちろんオーク樽でももちろんフェノール化合物は抽出されるのだが、オーク自身が酸化を促すような構造であるということもあり、抗酸化として取り上げるべきではないと判断したので、オークチップでの代用という風な表現にしている。

ボトル栓

ボトリングの栓に関しては数回にわたって色々な側面から取り上げているので、深く説明する必要はないと思うが、栓の選択とヘッドスペースの気体の量というのは一考するに値する。
抗酸化という文脈ではスクリューキャップ、ガス置換などがボトリングでの焦点になるだろう。


以上が抗酸化に関する技術と添加物でした。
色々と亜硫酸を代替する方法は出てきています。ただどれも亜硫酸を添加するという手軽さと、その効用に勝てないでいるのが現実です。
そのため一部のこだわった自然派の生産者のみが亜硫酸を減らす努力をしているという感じだと思います。

次回は抗微生物の効用を代替する手法、添加物を見ていきたいと思います。

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奥村 嘉之/WineHacker
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