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ワインピープル


東京ワインピープルという小説を読んで色々と「にやり」としてしまうところがあってついこういう形で書き留めることとなった。そして少しワイン入門者には嫌われるであろう記事となっているが許してほしい。

東京ワイン会ピープルはひょんなことからワイン会に参加することになっていくOLの話だ。
この本の主人公はワインの知識がない状態でスタートするので、ワインについてあまり知らない人が読んでも読めるようにはなっているが、知っていた方が面白いのは言うまでもない。
そしてそこに登場するワインは基本的には著名なものが多いが、どれも一癖あっておもしろい。
自分はDRCや五大シャトーなんぞ飲んだことはないけれど、シャトーラグランジュや、シャトーディケムなどは飲んだことがあったので、その辺りの経験も物語に花を添えていたと思う。
ワイン好きなら一度読んで後悔はしないのではないかなと思う本なので、そういった方にはオススメする。

さてここで本題だが、この本を読んで強く思った一本は、登場したワインでも、過去一番おいしいと思ったワインでもなかった。
自分をこの道に引きずり込んだ一本だった。

(ちなみに過去一番おいしいと思ったワインはエジュラン・ジャイエ氏のClos de Vougeot 1995で、その師にあたるアンリ・ジャイエ氏のワインは本書にも出ていた。)

Bordeauxの格付けワインのセカンドに当たるもので名をALTER EGOという。
これはボルドーのシャトーパルメという格付け3級のセカンドワインだ。
ヴィンテージは2003年。このワインがとんでもなく優しくかつ繊細。その上に空間を包み込むような色気さえを帯びていた。
このワインこそが私をワインの世界へ導いた一本だと確信しているし、この一杯がなければ確実に全く違う道を歩いてだろうと思う。

ワイン味わいのコメントなんて言うものはすぐに頭から消えてなくなる。
けれどその空間、一緒に飲んだ人、印象なんていうものは意外と残っているものだ。

このワインは個人的には印象派画家モネの「散歩・日傘をさす女」、ピアノ言えばプーランクの「ノヴェレッテ第3番」のような感じだ。
決して明るすぎず大人な落ち着いた印象を与えるが決して老いた雰囲気は出さない。そこには女性的なおおらかさや少しふくよかさを感じさせる味わいもあった。いかにもBordeauxらしいといえばらしいが、そこにパルメらしさともいえる女性的な味わいをしっかりと練り込んできているような印象だった。
そしてこのワインは数日たっても余韻が消えず、これがワインなのかと感動したものだった。

こういう本を読むとつい頑張って背伸びをしてみたくなり、ウンと背伸びして書いているので、浅学なのが露呈してしまっていることこの上ないが、書きたいことを書くのが現時点でのこの記事の目的なのでかまわない。

そして本当のところこういう独特の印象や言葉でワインを伝えられる人になりたいと思っている。

ワインが持つ引力は時として抗いようのないものとして現れる。
そのタイミングは人によって違うし、一生を通じて現れない人も多くいると思う。
けれど飲まず嫌いをしていなければいつかはその一本に出会えると私は信じている。
そのためにソムリエやインポーターなどが日々頭をひねっているのだから。

そして私は記事を書き終え、あれが自分にとっての神のグラスだったのかもしれないなどと思いながら今日もまたフランスの地でテーブルワインを傾けるのだ。

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奥村 嘉之/WineHacker
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