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ワインにおける亜硫酸の効用と添加法

やっと来ましたみんな大好き亜硫酸です。
今日から3日間にわたって亜硫酸の効果や添加、亜硫酸の代わりになるものといったテーマで扱っていきます。
明日以降の代替品のパートに関しては、少し詰めが甘い部分もありますが、それでもいいボリュームになっていると思います。

亜硫酸の形態

亜硫酸はワインの生産においてかなり重要な役割を果たす。
その役割は抗酸化作用抗菌作用の2つに大別される。
そしてこの2つの作用を同時に持つ添加物というのは亜硫酸のほかにはなく、それがゆえに代えがたい添加物として利用され続けているのである。

以前ブレタノマイセスの稿で亜硫酸の形態というのに少し触れたときに以下のような図を添付した。
まずこれを少し詳しく見ていこうと思う。

この図は全添加量のうちの亜硫酸の分布を示している。
添加された亜硫酸の一部は結合した形(Bound SO2)、一部は遊離した形(Free SO2)で存在する。

結合亜硫酸Unstable(不安定)な状態のものとStable(安定)な状態のものに分かれる。
ここでいえばアセトアルデヒドと結合したものは不可逆的な結合でできた化合物で、糖などと結合したものは可逆的な結合でできた化合物であるということである。
可逆的な結合の場合、遊離亜硫酸に戻ることができる。

一方で遊離亜硫酸は3種類ある。

上の図を見ると、このうちSO3イオンはワインのpH3-4の下では存在しえないことがわかる。

そのため基本的にワインにおける亜硫酸は、遊離亜硫酸の2種類(分子SO2とHSO3イオン)と結合型の亜硫酸2種類ということになる。

形態別亜硫酸の効用

次の画像はそれらの亜硫酸の種類別の機能を表している。

この表から微生物の抑制や酸化に対して最も効果があるのは分子SO2の状態であり、一方で結合型の亜硫酸はほとんど効果がないことがわかる。

特に発酵前ではアルコール耐性のない非サッカロマイセス種の酵母や微生物、発酵後ではブレタノマイセスや酢酸菌の防除のために分子型と言われるSO2の量をケアしなければならない。

添加量と添加物


基本的な添加量の目安の表もあったので、それも示しておく。


ここで酸の量によって基準の添加量に差が出るのは、pHの差による分子型SO2の量の差だけでなく、低pHにおける微生物の適応と増殖能の低さに起因している。
そのため酸が多く、pHが低い場合は低量の亜硫酸の添加で十分であるとされている。
これは目安量なので、もう少し細かく見ていく。

次の表は分子型SO2の量の算出に利用できる。

この表は分子型SO2の目標値とpHから必要な添加量を算出しているものだ。

またこの量はアセトアルデヒドやアントシアニンの量などにも多少左右されるので、多めに入れておく、または随時計測することが必要だということを頭に入れておかなければならない。

またこの量を一度に入れるとMLFなどで不都合が出てくる。

というのも入れたSO2が不活性化しないと乳酸菌が増殖できず、MLFが進まなくなるからだ。
そのほかに、いかに酵母が亜硫酸耐性をもつといっても多量に添加した場合、増殖に時間がかかってしまうこともある。


そのため次の表を見てほしい。

この表はSO2の添加のタイミングをワイン別に示したものである。
この表では酸化酵素の不活性化のために破砕後、またMLF後と熟成中、そして瓶詰時に添加することを推奨している。

特に赤ワインの熟成時はワインの成分と亜硫酸が結合し、分子型亜硫酸も減少するので、定期的に亜硫酸濃度を計測して、随時添加することで一定以上の濃度を保つことを推奨する(対Brettであれば0.4-0.6mg/Lの分子型SO2)。

最後にこの亜硫酸を添加する際に利用できる種類を一覧にした表があるのでそれを見ていく。


一番上からガス態のもの、粉状のものが3つ、固形のものとなっている。

特に最後の固形の硫黄は樽の燻蒸といって、樽を殺菌する際に燃やして使うものだ。
このとき5gの個体を225Lの樽で燃やすと10-20mg/Lの添加が期待できるとされており、樽を使う前には最低でも5-7gの固形のSを燃焼させる必要があるとしている。

粉状のものは水に溶かして用いるだけなのだが、上の2つはカリウムを含んでいるということに注意したい。

このカリウムはワインの酸と結合し沈殿を引き起こすので、酸の総量が減少する。

これらの亜硫酸が現状一般的ではあるが、畑で酸が保つのが困難な日本の環境においては、これはあまり推奨できないのではなかろうか。

一方で、アンモニウムを含んでいるものはアンモニウム含量が酵母の増殖に影響することを考慮しなければならない。
もしワイナリーで発酵補助としてDAP(リン酸二アンモニウム)を加えているような状態であれば、ここで添加した分を差し引きして考えればいいが、窒素過剰は過増殖を引き起こし、最終的に生存にストレスがかかり、アセトアルデヒド産量が上がることなどがあるので気をつけたい。

恐らくこの亜硫酸水素アンモニウムが普及しないのは値段が高いからであろう。


またこれらの計算は上の表の50%や18%含量という部分の亜硫酸の量を参考にして、この添加物自体の総量を計算しなければならない。

例えば、分子型SO2が枯渇し、現状0mg/LでそれをpH3.5のワインで0.6mg/Lまで引き上げたいとする。

そのとき必要な遊離亜硫酸の量は3つ前の表より、およそ30mg/L必要。
遊離亜硫酸の量は概ね亜硫酸の全添加量の1/3から1/2程で、それをK2S2O5で補う場合、50%含有なので
30*2*2=120 mg/L または 30*3*2=180mg/L
必要となることがわかる。

この粉を10%程度(特に決まりはない)になるように水に溶かし、添加後にはしっかりと混ぜる必要がある
というのも亜硫酸水溶液は比重が重く、攪拌しなければ沈んでしまうからである。

これを亜硫酸の添加時に行い、先に述べたように随時、遊離亜硫酸の量などを計測しながらワイン造りをコントロールしていくことが大事である。


今回は亜硫酸の種類とその効能、添加方法や添加物の種類を取り上げました。
次回から2回は亜硫酸添加を減らすための抗酸化剤と抗菌材についてになります。

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奥村 嘉之/WineHacker
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