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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第50回「悪夢の夜からのリベンジ!高知で酒三昧」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第50回「悪夢の夜からのリベンジ!高知で酒三昧」である。


はじめに

酔いどれ男のさま酔い飲み歩記も50回目となった。節目だけど、いつもと同じエッセイを書く。今回の舞台となるのは高知県高知市。高知すなわち土佐は言わずと知れた酒どころ。おまけに太平洋に面していて魚介類も美味いとくる。

が、好事魔多し。過去、せっかくの高知ひとり旅を「食あたり」で台無しにしてしまった・・・そのリベンジを果たしに、2年越しの高知へとやって来た。1滴も酒が飲めず、美味い物が何も食えなかった2年前の分まで、しっかり飲み食いするぞ。

2月の真冬だったが鼻息荒く、高知龍馬空港に降り立ったのだった。

ひろめ市場「明神丸」~いごっそうオヤジ登場

高知駅に到着し、真っ先に向かったのは日曜市。ここは面白い。野菜、果物、総菜、乾物、干物、日用雑貨など何でも売っている。しかもテントのあちこちから土佐弁が飛び交う。市をぶらりと歩くだけで、一気に土佐っ子気分になる。

昼になった。リベンジだから、いきなり飲み歩き全開といきたい。それには格好の場所がある。それが「ひろめ市場」だ。ここでは食べ歩きもできるし、市場内の店で食事もできる。当然だが飲むことだってできる。

結構混んでいたが、お城下広場というイートインスペースの一角を確保。高知で海の幸ときたら、カツオを食うしかない。藁焼き鰹たたきをウリにしている明神丸で、カツオとウツボの「ダブルたたき」を注文し、田野町の美丈夫と合わせる。

相席は年配のご夫婦。日本酒を手にしているのを見るやいなや、オヤジが「それはどこで買った?」といきなり聞いてくる。明神丸だと答えると、早速便乗して注文していた。おもろいなあ。

「ダブルたたき」を味わう。カツオはさすが本場だけあって美味い。ニンニクとさらし玉ねぎとの相性もいい。一方のウツボ、これは珍味。身は鳥のササミのような淡泊さ、皮はねっとりゼラチン質。今まで食べたことがない感覚だ。

「美味いカツオは暑い時期じゃないと食えない」

いきなりオヤジが口走った。今食っているカツオも十分美味いと思ったのだが、地元の人の言わせると、こんなものではないらしい。たしかに、この時期のカツオは南から北上し始めたばかりの初ガツオ。江戸っ子なら重宝するんだが。

オヤジも悪気があって言ったわけじゃないらしい。それが証拠に「料理屋じゃあ、土地の者となかなか話もできんから、ここはいいけん」と豪快に笑う。オヤジも旅の者と話がしたかったのだ。なるほど、これが土佐の「いごっそう」か。

高知「土佐藩」~個性豊かな郷土料理

ひろめ市場で昼酒は飲んだが、せっかくの高知なので観光もしっかりとさせてもらった。とくに桂浜は、「食あたり」事件の時には行きそびれてしまっていた場所なので、観光という点でもリベンジを果たせたわけだ。

さあ、夜の飲み歩きスタート。まずは土佐の郷土料理をいただこう。土佐料理の名店「土佐藩」に入るとするか。

芸西村の土佐深海と合わせるのは、珍味中の珍味という「のれそれ」。小鉢に入って出てきたが、トコロテンのように見える。一匹つまむと、数センチの細長くて透き通った魚である。これを酢醤油でいただく。

かつては正体不明の稚魚と言われていたそうだ。

聞けば、アナゴの稚魚とのこと。新鮮なうちにしか食べられないので、なかなか入荷されないという。その意味ではラッキーだったかな。味は・・・あるような、無いような。食感はやっぱりトコロテンだな。

ほかにも料理を頼もう。白魚の刺身とハランボ。よくよく考えてみたら、白魚とのれそれって似てなくないか? 酢醤油でいただくのも一緒だしなあ。だが、白魚も旬の時期しか食べられないのでまあいいや。

ハランボはカツオの腹の肉の部分。これは弾力があって食いごたえがありそう。酒を「自由は土佐の山間より」に代えていただく。佐川町にある司牡丹酒造のブランド。今夜はグイグイと飲んでしまいそうだぞ。

高知空港「司高知空港店」~宿題を残して土佐を去る

話は飛んで、早くも2日目の午後。レンタカーでたっぷりと高知県内観光をし、帰りの便に乗るために空港に戻ってきた。フライトの前に、最後の一人酒といくか。いいところに土佐料理店「司高知空港店」があるじゃないか。

昼飯はガッツリ食べているので、ここは珍味でサラリといこう。まずは酒。土佐というより、全国的にもおなじみの酔鯨(高知市)を注文。それから、チャンバラ貝、ウルメイワシの一夜干し、そして「どろめ」をお願いしたが・・・「どろめは入荷していません」という痛恨の返事。

珍味として楽しみにしていたどろめ。旅行中、食べる機会は何度もあったが、それが逆に「どこにでもある」と思い込んでしまったのだろう。ちなみにどろめとはイワシの稚魚、すなわち生しらすのこと。干したものがチリメンジャコとなる。

ガックリしているところに、さらなる難題が。

チャンバラ貝という巻貝の食べ方が分からないのだ。貝の部分は固くて食べられないので、身を引っ張り出さねばならない。そこで役に立つのが爪楊枝である。身を爪楊枝で差して、クルクルと巻くようにすれば、簡単に身が出てくるのだ。

それにしても土佐の酒はスッキリしていて美味い。どろめの代わりに注文した酒盗(カツオの内臓の塩辛)とはドンピシャリ。土佐人が酒好きなのもよくわかる。こんなに酒に合うものばかりだと、飲まずにはいられないだろうな。

でも宿題が残ったぞ。オヤジの言う「美味いカツオ」も、珍味「どろめ」も食っていない。またリベンジしなきゃいけないな。


今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2004年2月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

おまけ

おかげさまで節目の50回目を迎えました。そこで次回、次々回は特別編をお届けします。
まず第1話は「今はなき懐かしの名酒場」。今回のつづきからです。

【予告編】夜の一人酒で「土佐藩」の次に立ち寄った日本酒バー。実は、この店こそ、高知飲み歩きのハイライトだった。いったい、どんな出会いが待ち構えていたのだろうか?


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「ひとり旅で全国を巡ろう!旅道楽ノススメ」→note連載中の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」もヨロシク!
★エッセイで紹介した「高知の悪夢」もコラムに書いています!


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