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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第41回「海軍のまち横須賀のディープ酒場で飲む」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

一人酒ができなくなって幾歳月・・・ついに再開の日を迎えた。が、本当の一人酒はこれからだ。さあ、体験談エッセイを書こう。タイトルは、酔いどれ男のさま酔い飲み歩記。第41回「海軍のまち横須賀のディープ酒場で飲む」である。

はじめに

横須賀と言うと「海軍」とか「アメリカ海兵隊」とかを思い浮かべる。ハイカラなイメージのあるまちで、どぶ板通りという米兵御用達の店が並ぶエリアもある。今宵の酒は、ちょっとお洒落な店で飲むことになるのだろうか。

さもありなん。横須賀は大衆酒場の宝庫であった。さらに小さなバーやスナックが並ぶ若松マーケットというゾーンもあり、そこは「横須賀ブラジャーが飲める店」という怪しげな触れ込みすらある。これは楽しみだぞ。

まずは立ち飲みからスタートするか。

横須賀「ヒトモト酒店」~下見でやって来た店だが・・・

横須賀観光を終えて夕刻になった。まだ夜の飲み歩きには早かったが、下見を兼ねて横須賀中央駅周辺をぶらつく。この界隈、なかなか面白そうな酒場が並んでいる。その中の一軒が営業中だったので、ちょいと入ってみることにしよう。

やって来たのは角打ち「ヒトモト酒店」だ。酒のデパートを銘打っているので、いきなり期待大。では早速、カウンター内にいるベテラン店員の姉さんに生ビールとサラミを頼もう。この店はキャッシュオンである。

店内はご常連のおっさんたちがすでにゴキゲンな様子で飲んでいる。酔っ払いたちの下世話な話を軽々と受け流していく姉さんはかなりのツワモノだ。そんな会話を盗み聞きしながら、カウンターで一人酒を飲むのは楽しい。

そういえば、まだ下見をしている途中だった!

うっかりすると、このまま夜まで居続けてしまいかねない。面白い酒場は長居したくなるのだが、ここはひとまず仕切り直し。軽くシメておこう。

横須賀「天国」~てんくに、と読ませる酒場

ホテルにチェックインし、改めて夜の飲み歩きに出発する。下見を済ませ、良さげな店もチェック済み。選択肢が多いという贅沢な悩みを抱えつつ、最初(厳密には二軒目)に訪れたのは、大衆酒場「天国」である。屋号から察するに酒飲み天国という意味なのか。

いやいや、これで「てんくに」と読ませるのだ。

カウンター中心の店で、早くもお客さんがいっぱい。吉田類さんも訪れたことがある店なので、余計人気があるのかもしれないな。

早速ホッピーを注文するが、この店は氷入りか、氷なしかを選択できる。氷なしで飲むのがツウのようだ。合わせて頼んだのはモツ煮込み、焼きナス。大衆酒場らしいメニューが揃っているのが嬉しい。

このあとも、はしご酒を続けていくつもりなので、ホッピー1杯だけでしのぐ。先ほど寄ったヒトモト酒店といい、この天国といい、軽く飲むだけではもったいないような酒場なのだが、もっともっと面白いところが隠れているような予感がしているのだ。

横須賀「忠孝」~昭和から生き抜いてきた名酒場

続いてやって来たのは居酒屋「忠孝」である。昭和の雰囲気を漂わせるような渋いたたずまいの大衆酒場。店内はほぼ満席状態だったが、カウンターの一角が辛うじて空いており、そこに滑り込んだ。
と、そこに店員さんからひと声。

「焼き物はお時間がかかります~」

この心配り、出来そうでなかなか出来ない。ならばと、ハイボール、オニオンスライスを頂戴し、注文した軟骨、鳥皮、砂肝が焼きあがるのを待つ。ちなみに店の名物「満州焼き」は残念ながら売り切れ。食べてみたかったなあ。

テレビではサッカー中継をやっていたので、待つ間の時間つぶしにはちょうどいい。最初に声掛けをしてくれていたので、時間がかかっても気にしない。ただ、酒の方は待てずに飲み干してしまったので、おかわりの緑茶ハイをいただく。

さっぱりした味わいの焼き鳥は美味い。店は昭和33年創業という。大衆酒場が群雄割拠している横須賀で生き抜いてきたのだから、名酒場には違いない。

横須賀「源氏」~見かけから想像できないサプライズ

ほろ酔いになってきた。フラフラと横須賀中央駅前に戻って来る。実は下見の時から非常に気になっていた店があるのだ。それは、駅前の一等地にもかかわらず、一見するとあばら家かと思わせるような店構えの酒場だった。

酒蔵「源氏」という看板を掲げている。奥の方に明かりが見えるので、店はやっているようだ。酔った勢いと怖いもの見たさで思い切って店内に潜り込む。カウンター中心のようだが、あちこちに物が置いてあり雑然としている。大丈夫だろうか。

待ち構えていたのは年配のオヤジさん。幸い先客もいたので、いざとなったらさっさと出ればいい。ということで日本酒の燗酒、それから黒板に書いてあるシロギスを注文。しばらくしてオヤジさんが徳利と朱塗りの盃を出してきた。お猪口ではなく盃なんだな。

これは、見かけによらずスゴイ店かも!

続いてウナギの肝焼きが登場。「おいおい、注文を間違えたのか」と一瞬思ったが、これが付き出しだった。肝心のシロギスだが、最初に油の入った盃に浮かぶ肝、続いて皿に盛った刺身、そして骨せんべいという、ちょっとしたコースになっていた。

これには驚いた、というより感動した。オヤジさん曰く「魚はすべて食べてもらうようにしている」とのこと。店構えからは到底想像できないようなオヤジさんの料理に対する真摯な姿を垣間見た。もちろん、美味かったことは言うまでもない。

横須賀で飲み歩くと決めてから、酒場をいろいろ下調べしてきたつもりだったが、この店は盲点だった。それもそのはず、オヤジさんは「メディアの取材お断り」を貫き通している。まさしく、正真正銘「知る人ぞ知る」という老舗酒場だった。

オヤジさんの話は面白く、あれやこれやと会話が弾んでいるうちに、いつの間にか徳利3本空けてしまった。もう横須賀ブラジャーは飲めそうにない。でも、いい酒場に巡り合えてよかったよ。

今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2014年9月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。

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