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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第66回「冬の北陸グルメを満喫した30代のオレ」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第66回「冬の北陸グルメを満喫した30代のオレ」である。


はじめに

第65回で富山での一人酒について書いた。コウバコガニも当たり前のように注文していたのだが、20年前はその存在すら知らなかった。それも当然。その頃、まだ30代のオレは飲み歩きとは無縁の単なる「美味しいものが食べたい若造」だった。

そんなわけで今回は四半世紀以上前の一人酒について書く。行先は北陸。季節は冬の12月。当時北陸は2度目だったが、ひとり旅で巡るのは初めて。まだ北陸新幹線も開業前で、長野県からは意外に遠い。同じ北信越でひとくくりにされるのにもかかわらず。

若造を待ち受けているのは、どんな旬のグルメなのかな?

氷見市「川喜」~期待し過ぎの期待外れ感

30代の頃は店をはしごして飲み歩いていないので、1日目の夜、2日目の昼、夜とそれぞれ別の一人酒を書かせてもらう。まずは1日目。宿泊したのは富山県氷見市である。富山といえば「キトキト」の魚介類。キトキト=新鮮という意味だ。

酒場探しの前に、ちょっと寄り道。湊川に架かる橋に「忍者ハットリくん」のからくり時計があり、定時に合わせて見学する。ハットリくんはじめ、キャラクターたちが登場し、水しぶきを上げながらの忍術合戦を繰り広げるというパフォーマンス。

面白い。さすが藤子不二雄A先生のふるさとだな。

ハットリくんも見学したし、酒場を探すか。寿司割烹「川喜」が良さそうだ。氷見には漁港があり、富山湾の海の幸が水揚げされる。冬の時期で真っ先に思い浮かぶのは寒ブリ、それからズワイガニ。早速、地酒とおまかせ料理の「氷見の味」コースを注文しよう。

刺身の盛り合わせが出てきた。当然だが、天然ブリが入っているだろう。数点盛りのようで、タイ、イカ、アマエビ、中トロ・・・あれ? ラインナップは申し分ないが、お目当てのブリが無い。まあいいか。

盛り合わせ以外の料理もなかなかいい。ナマコの酢の物はコリコリした歯触りがよく、タラコと里芋の煮つけも美味い。これは酒が進む。調子よくなってきたところで、板前さんが「次は焼き物ですよ」と一言。これはブリカマを期待しちゃうぞ。

・・・が、焼き物はシマダイだった。

シマダイがいけないのではない。ブリを期待し過ぎたからガッカリしている自分がいた。ちなみにシマダイはブリの定置網に入ってくる「外道」だそうで、そのせいか市場にはあまり出回らないとか。今考えると、これぞまさにご当地ならではの味覚なんだよ。

それにしても、どうして旬のブリが出てこないのだろう。その理由が板前さんとの会話で判明した。この日は魚市場が休日だったことに加え、シケでブリ漁ができなかったらしい。いくら旬でも無い袖は振れないというわけだ。

それでもシメにはブリの棒寿司を頂戴した。身は締まっているが、味わい深いブリの身が酢飯に合って美味しい。
今日のところはこれで満足しておこう。

近江町市場「刺身屋」~2日ごしの天然ブリ!

2日目は氷見市から石川県金沢市に移動し、金沢観光をする。お昼にさしかかってきたので、金沢いや北陸の台所とまで言われる近江町市場へと足を運ぼう。市場内には飲食店も点在していると聞く。市場なのだから当然、海の幸もあるだろう。

店先の品書きに「天然ブリの刺身」の文字発見!

市場食堂っぽい「刺身屋」。これは入るしかないだろう。実は近江町市場に来れば、天然ブリがあるという確信があった。なぜなら、朝早起きして氷見漁港の魚市場を見学し、水揚げされた大漁のブリをこの目で見てきたからだ。

早速、天然ブリの刺身、ブリカマの焼き物を冷酒・福正宗と合わせてみよう。この店は魚屋さんが経営しているので期待が膨らむ。見るからに脂がノリノリの天然ブリが来た。一切れつまんで口に入れてみると・・・

「甘い、とろける、旨い」。

語彙が貧弱かもしれないが、感想はこれしかない。こんなに旨いブリを食べたのは初めてだった。さらに追い打ちをかけてきたのがブリカマ、こちらはものすごい脂の乗りにビックリ。昼から酒がどんどん進んでしまうぞ。

ほろ酔い気分で刺身屋を出ると、近くの魚屋の店頭でドジョウの串焼きを売っていたので、思わず1本買ってその場でパクつく。さらに丼物の店でアマエビ10匹が乗ったアマエビ丼を平らげた。まあ、追加で酒を飲まなかっただけいいか。

金沢「田村」~正体不明のカニは絶品だった

今宵は温泉付きのシティホテルに宿を取った。素泊まりなので、夜は近くの店で一杯やろうと目論んでいた。金沢といえば香林坊や片町といった繁華街が有名だが、以前団体旅行で来た時に香林坊で飲んでいる。海の幸さえあれば、近場でも十分だ。

お目当ての居酒屋割烹「田村」に到着。運良く席が空いていたのでカウンターに陣取り、まずは有名ブランドの地酒「天狗の舞」を所望。そして、寒ブリと並ぶ北陸の冬の味覚を代表するズワイガニをいただくとしよう。

すると板前さん、「ズワイガニより、こちらがおススメだよ」と一声。

こちら、というのはズワイガニの雌。なんだか小さくて貧弱じゃないか。だが板前さんは「12月いっぱいしか食べられないからね」と追い打ちをかける。なら頼んでみるか。ちなみにカニの名称を言ってくれたが、よく聞き取れなかった。

今なら、これが「コウバコ(香箱)」だとすぐ分かる。コウバコの最大の魅力は、カニの身、カニ味噌、内子、外子がすべて味わえるところにある。冬の北陸では絶対欠かせない旬の味覚なのだが、初めての出会いがこの時。板前さん、ありがとう。

ブリの方も「今朝は大漁だった」とのことで、昼に続いてブリたたきを頂戴する。自家製のイカの塩辛、シメに「しめサンマ」もいただきながら、地酒に合わせる。板前さんともよもやま話ができ、腰を落ち着けて金沢の一人酒を堪能した。

まるで「吉田類の酒場放浪記」のような一夜だったな(笑)

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは1997年12月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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→note連載中の「酔いどれ男のさま酔い飲み歩記」もヨロシク!


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マイケルオズ@日々挑戦する還暦兄さん(フリーランスライター)
noteでは連載コラム、エッセイをほぼ毎日書いています。フリーランスのライターとして活動中ですが、お仕事が・・・ご支援よろしくお願いいたします!