2020年楽曲10選 人間歌唱編(レビュー)
〇本稿のオープニングはジェニーハイによる世相を反映する楽曲『ジェニーハイウォッシュ』でお送りいたします。みんなまだまだ手を洗おうね。
こんにちは。名南奈美です。タイトルの通り、人間歌唱による楽曲限定の2020年10選をやっていこうと思います。
2020年に発表されたものであること、なるべく作家やコンテンツ被りはしないことに気をつけて選びました。全部いい曲だから聞いてくださいね。それでは↓
●HATENA(歌:生田鷹司/作詞・作曲:堀江晶太/編曲:PENGUIN RESEARCH)
PENGUIN RESEARCHも様々な趣向の楽曲がありますが、私は声優業も兼ねる生田鷹司さんの声質や演出力がふんだんに発揮されているような曲が一番すきです。『watseland』とか『逆襲』とか他にも色々。『HATENA』の魅力も胸の底から吐き出すような「なんのために」や「僕は変われるんですか」、言いたいことがとめどなく溢れてたまらなくなっているような「ん゛ぅぅぅ絶望と希望がいつか終わってもつまんねえやつにはなんなよ」など聞きどころたっぷりですごく楽しいです。
そうしたエモーショナル方面の魅力でいくと二番サビ後の『それでも闘う者達へ』『方位磁針』を『近日公開第二章』のギターをBGMにかけあわせるパートが、2ndアルバムを経たPENGUIN RESEARCHの新曲として完璧なまとめ方でありこれからへの期待感をすごく抱かせてくれる素晴らしいアイデアだと思います。
演奏陣は今回もしっかりとロックンロールを感じさせてくれる音色のギターや芯の太いドラムなど最高ですが、オルガンの活躍具合がとくに気に入っています。「絶望と希望が~」のパートのただならぬ鳴らし方がとてもロックですね。PENGUIN RESEARCH最強。
●世界はファンシー(歌:斎藤宏介/作詞・作曲:田淵智也/編曲:UNISON SQUARE GARDEN)
早口ロック大好き。カラオケで挑戦してみましたが舌が回りませんでした。これ歌いあげる斎藤さんめちゃくちゃすごい。
超活舌とすごく良い声に特異なワードセンスとキャッチーなメロディセンス、なんかもう大正解なドラムがとても心地よくてばりアガる。「某日 とかく喝采を浴びせ 緩んだところを一気に詰める ほだして ほだして じわり欺いて正面からアポイントも省く 担当者が不在ならばその間に 口実作って以上終了だ」のところ歌いかたも速度も歌詞も何もかも最高じゃないですか? というか歌詞の主人公となる人物の性格がすごく私の思春期ハートにストレートかますカッコよさなんですよ……10選入りは確実でした。
UNISON SQUARE GARDENさんが期間限定でMVのフル尺を公開していたとき対象曲を聴き漁って良いじゃないの~ってなって、『大冒険をよろしく』とかで田淵さんの作詞センスほんといいな……ってなって、それから『Patrick Vegee』にハマってサブスクで何べんも通しで聴きまくって最近もまだまだ聴いているので、たぶん来年くらいに他のアルバムもいっぱい聴くと思います。ゆっくり楽しんでいきます。
●Once Upon A Time In TOKYO(歌・作詞・作曲:majiko/編曲:majiko、木下哲、永田こーせー)
あまりにも衝撃的。majikoさんのオリジナル楽曲にはジャジーなナンバーもこれまでにもたくさんあったんですけれど、これは私にとっては最高傑作なカッコよさと切なさがある作品で、もうずっと突き刺さっています。
とりあえず作編曲面から語っていこうと思うんですけれど、もう全体的に惜しみない緩急と踊りたさが凄まじいですね。ドラムのグルーヴ感(意味よく知らない)とかBメロの色っぽいベースとかホーン隊のパッパッパラッパ!なリズムとか。あとサビでも刻むように吹かれているホイッスルが、一番サビ終えて二番Aメロに繋ぐまでのあたりでサンバみたいなフレーズを鳴らしていて高揚感が半端ない。Aメロ前半は一番も二番もボーカルとドラムだけで空間を作っていて本当に緩急……うま……。ラスサビ前の落ちサビを締める(きゃー)(きゃー)(きゃー)(きゃあああああああ!)を聴いたときマジモンの天才の発想だと思いました。
そんなアゲアゲナンバーなんですけど作詞面では恋愛への憧憬や恋の寂しさが甘く切なく書かれていてそのギャップにすごく萌える……「いつの世も出会いは突然でロマンチックで…そんなのって素敵」「何で恋してる人はあんなに綺麗なんだろう」「目が合う理由 必死で調べて今日も寝れなくなるのかもね」とかめちゃ可愛くありませんか? 可愛い歌詞を甘くも感情的な声で歌いあげられるとたまらなくなる。すごくすきです。
●一触即発☆禅ガール(歌:高槻かなこ/作詞・作曲:れるりり/編曲:KanadeUK、Tom-H@ck)
れるりりさんの10周年アルバム『羞恥心に殺される』、そのDisc2収録のアレンジカバー音源です。Disc2、美しさやお洒落さが重視されている編曲が多いなかでのこれ、大ウケしました。ドコドコドコドコで始まるサビのドラムが本当にドコドコしてるのギャグすぎてだいすき。高槻かなこさんもハリのある元気な声で歌っていて、『一触即発☆禅ガール』の公式REMIXとしてこれ以上があるかと思うような完成度だと思います。あと「おかけになった電話は~」パート、電話が多すぎてそれもウケました。
全体的に往年のVOCAROCKを彷彿とさせる悪そうなギターと動きまくるキーボードセクションがツボです。Disc2では『厨病激発ボーイ』もVOCAROCK方向の進化を遂げていますが、流行の分析から生まれた『脳漿炸裂ガール』の続編である『一触即発☆禅ガール』が2020年らしからぬハードなロックアレンジで再誕することに面白みを感じた部分もあるのでこちらになりました。
●Crush Your Mic -Rule the Stage track.3-(歌:Bad Ass Temple、どついたれ本舗/作詞・作編曲:井手コウジ)
去年くらいに楽曲『Alternative Rap Battle』でピンときてからずっとヒプノシスマイク楽曲を追ってきました。今年もアニメや劇の曲がたくさん発表されるなど盛り上がっていた印象ですが、そのなかでも劇第三弾の楽曲『Crush Your Mic』が一番お気に入りです。観劇はしていませんが単純にかっこよくて面白いなあという感じです。
ナゴヤの二、三番手のリリックにソロ曲からの引用があるのも燃えましたが、やはりオオサカパート終了後のラップバトルパートがすごく面白いですね。ドラマトラックで使われてきたヒプノシスマイク起動音が盛り込まれているのも素敵ですが、バトルをするにあたってディスられた側のチームメイトが庇うように返すところにこのコンテンツらしい友情を感じますし、「学がないのはお前やろ中二病」とかの一回聞いてみたかったディスを聞けて大満足でした。劇の曲ということで声優さんではなく俳優さんが歌っているのですが違和感なく聞けるのもすごいなと思います。
あと劇の主題歌楽曲、どれもスラップベースやシンセサイザーが前に出てくる曲調でとってもすきです。ロックなヒップホップ。
ところで天谷奴零の「読み切るGame 最終幕 絵、描いたのはMasterMind」のラスボスっぽさすごくよくないですか? 物語上の立ち位置がそのままリリックの余裕や存在感に直結してるのズルでは……。
●イキそう(歌・作詞:般若 Track By DJ BAKU)
ヒプノシスマイクからの流れでヒップホップを色々と漁ったりフォロワーさんにおすすめ教えてもらったりもした結果、般若さんの『イキそう』が一番鬼リピしたので取り上げました。
トラックのサンプリング元にTimmy Trumpetの『Freaks』という楽曲があるそうです。大物感のあるビートに乗せてすらすらと「悪ふざけ」的なリリックをかましてくるその攻撃力が気持ちいい。「これクソ以下の曲 日月火水木 お主とお主のクルーの親の顔面トマホークチョップ」「寝る前にぬるま湯につかりながら観るみたいな8Mile モノマネから入る それもわかる まぁそこんとこ踏まえて訴える」「アーティスト YouTuber 主催側 ここで1回グーチョキパー」あたりの踏み方がとても好みで、文章としては「俺にはこれしかねーとか負けられねぇとか 知るかよサボんな働け本当に普通に金稼げ」が聴いててシャキっとしちゃう強さがあって最高。
般若さんの『12發』というアルバムに収録されている楽曲なのですが、そのアルバムの一曲目『INTRO』もとてもキレキレで素敵なのでよければ聴いてください。
●Decollete(歌・作詞作曲:米津玄師/編曲:米津玄師、坂東祐大)
話題作『SYTAY SHEEP』収録曲。『感電』『カムパネルラ』『PLACEBO』『優しい人』『カナリヤ』と迷ったのですが、この曲を聴いて久しぶりにアコーディオンの魅力を思い出した記憶があるのでこの曲で。あと今年はこういうビートの音楽をよく聴いていたので。
私はストリングスではチェロが一番色っぽいと思っているのですが、この曲の二番後のチェロもまたセクシーですね。女の人の深呼吸のような溜め息のような音に負けないエロスがそこにあると思います。米津さん自身の声での「ばぁん、ばぁん、ばぁん、ばぁん」の気だるさもすきです。米津さんのこういう気だるいメロディや空気感の楽曲がとても好みで、今年はサブスクが解禁されたのもあってこの曲と一緒に『クランベリーとパンケーキ』『でしょましょ』をよく聴いていました。
アルバム『STRAY SHEEP』はいっぱい売れたわけですけれど、それだけ売れれば小学生で『STRAY SHEEP』を聴いている人もいっぱいいそうですよね。で、うっかり『Decollete』を一番気に入っちゃって毎日聴いてる少年少女がいるかもしれませんね。なんかそれ怖いですね。
●アンチテーゼ(歌:夏川椎菜/作詞・作編曲:すりぃ)
ボカロpが人間歌唱用に書いた音楽ならではのよさがあると常日頃から思っていて、あんまりうまく言語化ができないんですけれど、なんでしょう、ボカロでウケる編曲かつ肉声に映える音楽であることが多いからですかね? とにかくそういうのいいなって思います。今年はすりぃさん、Syudouさん、あと下半期はAyaseさんあたりが多くなってきている印象で、最近の歌い手の告知とか見るにKanariaさんもその枠に入りそうな雰囲気ですね。
ぼからん掲示板のサブ欄とか見るとボカロ界隈の人の提供案件をチェックしやすいことに気がついて今年は積極的に新しいものを聴いていたのですが、その部門では『アンチテーゼ』がずば抜けて好みだなあという結論に至りました。だってめっちゃキャッチーでボカロpっぽい曲なんですもん。今まで聴いてきたカウベルが鳴ってる音楽部門でもだいぶ上位です。
動きまくるキーボード、入りまくるキメ、サビの説得力、二番後の「限界で」での爆発とその過程がすごく親しみを感じるよさです。あとラスサビ後半を全力で印象に残るように作る感じの曲もはちゃめちゃにすきなので、もう全部いいですね。歌詞のテーマも救われたい一匹オオカミ的なものでロックでよいです。
●シンガーソングライター(歌・作詞作曲:大森靖子/編曲:鈴木大記)
Kintsugi版(歌詞が数行違うバージョン)と迷いましたが配信シングル版のほうでいきます。「STOP THE MUSIC」「刺さる音楽なんて聴くな お前のことは歌ってない」と敢えて歌う精神は『音楽を捨てよ、そして音楽へ』における「音楽は魔法ではない でも、音楽は」に通ずるものを感じて、ひとりの人間として変化し更新されていきながらも大森靖子さんの根っこの性格のようなものはぶれていないのだということが伝わる貴いそれだなあと思いました。鈴木大記(ANCHOR)さんが編曲時に大森靖子さんの過去楽曲のフレーズを七曲ぶん仕込んだことも絡まり、「これまで」と「現在」を表す一曲として完成されている気がします(ちなみにパブサしてたら大森靖子さんのファンの方にすべて言い当ててるっぽい人がいてびっくりしました)。
大森靖子さんはなんだかんだ炎上経験の多いアーティストで元信者アンチなんてのもそこそこいらっしゃるタイプなのですが、「アンチも神もおまえ自身 僕はここにいる肉の塊さ」という一文はそのことを踏まえて聴くとすごくロックというかざっくりさっぱりしてていいな……と思います。「共感こそ些細な感情を無視して殺すから」というのも含めて、他者や作品に対しての自己解釈とかって結局は、自分の願望の投影であったり情報取得と内心的なアウトプット時の無意識な取捨選択であったりが大なり小なりされているものなのだと肝に銘じていきたいですね。というこの文章も大なり小なりそれがあるんですけれど。大な気がする。
鈴木ANCHORさん近頃よくサビ入りでポァァァーン(キャスで訊いたらクラッシュシンバルをなんか加工した音らしいです)っていうの入れがちなんですけれど、個人的には『シンガーソングライター』のサビ入りが一番効果的に作用した印象があります。作詞作曲も編曲もすごくすきな曲です、という話でした。
●あれから(絶望少女達2020)(歌:大槻ケンヂと絶望少女達/作詞:大槻ケンヂ/作曲:NARASAKI/編曲:特撮)
今年もまあメディアでも暗いこと色々とあったわけですけれど、だからこそなのかなんなのか、私は「生きてればGood Job」と謳ってくれるこの楽曲に救われていたと思います。この曲のいいところは「生きているだけでいい仕事 そーんじゃ死んだらハイそれまでよって? 記憶の中で生きてれば」としっかり当然の疑問に対するアンサーを提示し、しかもそのアンサーに「変なツボとか売んないで」と冷や水を浴びせる冷静さがある部分なんですよね。私みたいにすぐ冷めたこと考えちゃう人間には先に冷めてもらうことがとても心地よかったです。
ところで私の相互さんみんな過去曲から歌詞とか回収するやつすきだと思うんですけれど、この曲は「大槻ケンヂと絶望少女達」楽曲を四曲ほど回収しています。すべて解説するのは野暮というものですが、『林檎もぎれビーム!』の「変わったあなたを誰に見せたい? あからさまに見くびったやつ あいつらにだ!(二番サビに入る)」を「あきらめたなんてことではないのさ 時が過ぎて わかりあう ああ あいつらも同じって(二番サビに入る)」として回収しているのが時間の経過、人生の経過を感じてチョベリグ。あと曲調で言うと後半のピアノやストリングスは『林檎もぎれビーム』、ラスサビ後の展開は『空想ルンバ』および『空想ルンバらっぷ』の回収なのかなと。
「大槻ケンヂと絶望少女達」楽曲の引用回収というと『メビウス荒野~絶望伝説エピソード1~』の印象も強いですが、あのハジケまくり楽曲に時間の経過と『さよなら!絶望先生』の要素を加えたから優しく切ないハードロックが完成したのかもしれませんね。
『人として軸がぶれている』『空想ルンバ』『林檎もぎれビーム!』『さよなら!絶望先生』を聴いたことがあるかどうかで印象がだいぶ違うと思うので、よければセットで聴いてください。
おわりですよ~
今年もいっぱいいい曲が出ましたね。『23時の春雷少女』や『大冒険をよろしく』、『絆(ヒプノシスマイク)』、『地獄屋八丁荒らし』、『No.7』や『Theater of Life』、嵐の新譜の楽曲などなど他にも候補が多くて選ぶのが大変でした。ボカロと分けて本当によかったと思います。
来年もきっといい曲がいっぱい出るので、いっぱい手を洗って生き延びていきましょう。それでは。
(ボカロ編もよろしくお願いします)
○本稿のエンディングは__(アンダーバー)さんによる『謎のエンディング』でお送りします。ありがとうございました。
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