初めて味がわからなかった。だぶん美味しかったんだと思う。
私は毎週水曜日、記事を書いている。
内容は全て食にまつわるモノで、おすすめのお店と共に、食べた時に感じた思いを綴っているのだが、それもあともう少しで1年を迎えようとしている。
長い長い道のりだった(笑)
ポストする日を間違えたり、投稿直前でまるっと記事を消してしまったり。
あと、外食を記事の主として進めていただけに、コロナの一件でしばらくネタ消失した時は本当にきつかった…(震え声)
とはいっても!
当初は自分の思い描いていた活動をひょんな出会いによって始めることになり、期待とやる気で満ちあふれていた。
『dancyuのエッセイストになる。』
何度も何度も口に出して唱えた私の夢。
はやりごっご遊びはいくつになっても楽しいもんで、投稿件数が増えるごとに、「いつか私の文が掲載される日が来るのでは!?」
…なんて、夢みがちな私はひとり盛り上がっていたのが懐かしい。
しかし、そんな夢から覚めるのに、時間はかからなかった。
現実はそう甘くない。
前までは溢れるように出てきた言葉をただ紡ぐだけでよかったこの記事も、今ではひねり出さないと出てこない。
「まずいな・・・。」
Backspaceを押して、白紙になった画面を見つめる時間がなにより苦しかった。
せっかく自分で長所だと思っていたこの感受性も、
今ではちょっぴり自信が無い。
そんな時、私に追い打ちをかけるように辛い出来事があったのだ。
詳しいことは言えないが、それはあまりにもショッキングで立ち上がれないものだった。
しかし水曜日は憎くも毎週やってくる。
記事を書くために、私は食べに、街へでた。
今思うと、この時から既に、記事を書くために食べに行くようになっていた。
でも、好きなことを仕事にするということは、雨の日も風の日もこうやって向き合うものなんだろうか。
これが当たり前なんだろうか。
―
「あっ、すみません。」
ここは新宿で、今ので4回目のすみませんだ。
コロナが蔓延する生活にも慣れてたのか、こうやって肩と肩がぶつかるほど新宿には人が戻りつつある。
私が行きたかったその店も、売り上げ好調の賑わいぶりで、ランチタイムの天丼が売り切れてしまわないか心配になった。
ガラガラガラ・・・・
「いらっしゃいませ!お一人様ですね、お席ご案内いたします。」
席に着き、一息付く前に、メニューをひとさし。
「こっこれ、お願いします・・!」
はい、かしこまりましたと微笑む店員さんは大人の余裕があった。
落ち着きがない子と思われただろうか…なんて心配も一瞬湧いたが、それよりもなによりも、お目当てのものがあったことが嬉しい。
・・・・大丈夫、嬉しい。
ショックな出来事で私の心に覆い被さった、重く黒い雲。
運ばれてきたこのお水でどうにかはらえないか、
そんな思いで、私は
ゴクッ
と勢いよく飲み込んだ。
―
「わぁ・・・・!」
どんなに凹んでいても、揚げたての天ぷらは、耳をすませばパチパチと弾けるような音が聞こえてきそう。
丼にはさぞ新鮮な油の海で泳いでいたであろうエビにいか、かき揚げに穴子達は茶色のたれに所々色づいている。
な、なんと贅沢の極地・・・ッッッッッ
こみ上げるありがたさに、自然と手を合わせ「いただきますッッッ…」と消えるように呟いた。
まずはエビをかぶり。
・・・
「あれ?」
何かがおかしい。
慌てて、私は追うように大好物(タレに染まった茶色お米)をほおばった。
「・・・・あれれれれれれ?????」
味がしない。
―――
―
私は天丼が大好きだ。
あまじょっぱいたれにサクサクの天ぷらがマッチング。しかも、絶妙な油の火加減で、素材が一層甘く感じるんだ。
なのに、なのに、、、!!!!
私は真っ向に天丼を味わうことが出来なかった。
最初はコロナかと思った。
コロナは味覚症状が無くなることで有名だったから。
でも、あの時はコロナでもなんでもない。
私には美味しいものを素直に受け止めるだけのココロが用意できていなかったのだ。
ふと、ドラマの一場面を思い出した。
主人公が落ちこんでる時、誰かがそっとうまいもんを差し出して、それを食べるとそたんに泣きながら「うまい…!うまいよ…!」と呟いてる所。
そんな姿を見て、きまって「うまいと感じるなら、お前はまだ大丈夫だ。」と言うんだ。
私はこの時初めて気づいた。
美味いものは無敵じゃない。
感じる心、楽しむ余裕、味わう精神。
キモチを整えてから食すことが、食べる側のできる最低限のマナーなのかもしれない。
私はあの天丼に悪いことをしてしまった。
もう一度、ここへ食べに行きたい。
その時は、みんなが読むだけでヨダレが出るような鬼の食レポを。
今日のお店は「つな八」でした。