令和、浅草の枯れたランウェイを灯す釜飯屋の提灯は本当に綺麗だった。
思い返せば、
この物語の始まりはキャッシュレス時代の令和にPASMOを忘れ
「切符」を買った時から始まっていた気がする。
改札機に吸い込まれる切符のあの音が
今年初めて聞いた蝉の声よりも懐かしく、
同時にあの頃の日常が私の頭をよぎった──。
―
「・・・うッッ」
地上に出た途端に向けられた、西日という名のスポットライト。
今日は今年初の猛暑と言われただけあって、17時をすぎてもその日差しは衰えるところを知らない。
ここは東京駅から15分。
コロナ禍の中、初めての遠出として私が選んだ場所であり、日本屈指の観光地でもある。
そう、浅草だ。
こんなご時世に出かけることは由々しき事態なのは重々承知だが、
観光地の現状が知りたい気持ち(建前)と、そろそろ真面目に美味い外食がしたい気持ち(本音)がいり混じった動機は……やっぱり誇れるものでは無いが、ソワソワ、ソワソワ。
心做しか、緊張しているみたいだ。
ところが
その緊張もつかの間、瞬時に私の顔はこわばった。
―
あまりの眩しさに目を細めながら辺りを見渡すと、そこには私が知ってる浅草とは程遠い、別世界が広がっていた。
雷門東部商店会アーケード天井から降り注ぐ、ドライミストの靄から見え隠れする程度の人並みに、ほとんどシャターを閉めた仲見世通り。
ここは本当に浅草なのか・・・?
活気ある浅草は一体どこへ行ったのだろう。まてよ?私が「切符」で来てしまったが故に、もしかしたパラレルワールドに迷い込んでしまったのかもしれない・・・・!!!!!!!!!!!!!!
なんて、SFチックな可能性すら疑ってしまうほど、私はこの現状が飲み込めなかった。いや、飲み込みたくなかった。
ピコン、ピコン、ピコン。
渡る横断歩道。
いつもより近くに感じるこのスカイツリーも、消滅都市のシンボルにしか見えない。
蒼く、綺麗で、澄んでいて。
もの哀しい表情でそれを見つめる私の顔は、きっとあそこに立つ、人力車の兄ちゃんと同じ表情をしているのだろう。
―
とはいえ、通常あるもの(人)がない。
だだそれだけで、普段見つけることのできない、「奥ゆかしい浅草」と言う、新しい一面を体感できていることは、視点を変えればかなり贅沢だ。
オレンジ色の西日に包まれた街全体は温かく、年季の入った建築に、手書きで書かれたお詫び文の用紙がヒラヒラ揺れる。
チリンッ…
「あっっ」
時折聞こえる風鈴の音色には趣が濃縮されて脳に届く。
だが、風情だけでは腹は満たされない。
道を曲がれば休業、休業、休業・・・・
美味い店は一体いずこへ・・・!!!!
でも、
この観光客数では1日店を開けているほうが赤字になっちゃうよね…
女子大生の頭でさえ、飲食店の裏側が容易に想像付くだけに、心苦しく、今回は諦めようと思う気持ちがどんどん、どんどん膨らんでいった。
―
それから20分。
とぼとぼと背を丸めながら、
足取りは元来た駅に向かい、完全に匙を投げかけたその時、私の視界に何かが見切った。
「ちょう、ちん・・・?」
そう、それは明かりを灯す提灯。
飲食店において「明かり」は「店の営業」を意味するものでもある。
もしかしてあそこなら…!!!と、私は神にもすがる思いで提灯目がけ脚を走らせた。
ハァ、ハァ、ッッッ…ッハァ………
渋い紫の暖簾に、手入れの行き届いた松の木。
これは完全にクロだ。
私の老舗レーダーがビンビン反応しているのがわかる。
・・・そして、決定打となったのは日焼けした窓ガラス越しにみた宣材写真。
かに、うに、ほたて、えび、五目にアワビ、松茸
なななななななんだこれれえぇぇえええええ!!!//////////
は、反則だ!絶対美味しい…!!!!!!!
あああ…!私は帰ろうとしていたのに…!
え?だから一体何屋なのかって??
寿司屋?
定食屋?
んんや。
ここは釜飯屋。
―
「かしこまりました、しばらくお待ちくださいませ。」
私が注文したのは瓶ビールにホタテの釜飯。
釜飯は注文してから炊き上げるらしく、だいたい20分の待ち時間を告げられた。
美味いものが食べれるなら何分だって待てる。
それに、
この火照った体を冷やすには20分は丁度良い。
しっかしまーーーー広い(笑)
ワンフロア丸々貸切という絶好の機会?なんだろが、あまりにも広すぎると、それはそれで、少し寂しい気もする。
「あっ、いいの発~見♪」
お品書きとともに挟まれたシミの多い団扇。
これもまた何千回、何万回も人の手で使われたのだろう。少し見ただけで想像が果てしなく続くヴィンテージはやっぱり好きだ。
―
「はいはい、お待ちどうさま〜」
キタァァァァァァァァァァア!!!!!!!!!!!!!!!!!
散々焦らされた釜飯!私の釜飯ィ!!//////////
まっ、まずはこれだ!!!!
トクットクットクッッッ〜
…とグラスにビールをそそぎいれ、最高のタイミングでクイッといけるようにスタンバイ(思考回路がのんべい)。
そして手汗をよく拭いたら、、、
パカッ…………
「うわぁぁぁ………!!!!!!!!!!!!/////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////////」
ふわっと湧き上がる湯気が消えると、見えてくるのは染み染みに染みた大ぶりのホタテの貝柱!!!!!!
ひとつ、ふたつ、みっつ、、ぁぁあ!!//////////
\だぐざん”おる!!!!!!/
こんなの初めてサンタクロースにプレゼントを貰ったような喜びと感動と何も変わらない。いやそれ以上のビジュアル的破壊力がある。
強く握りしめたしゃもじでご飯をかき混ぜる。
そして時折
ガリっっ
とおこげに当たるこの感じ。
あーーーーゾワゾワするぐらい興奮する←
ふぅ……/////心拍数を極限にまで上げながら、ようやくお茶碗によそり終えた。
ゴクリ…
ありがとうっっっ…!!!!いただきます!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
「うまァ……………泣」
2月ぶりの外食……2月ぶりの上手いご飯……
はぁ、、、これは余計沁みる………。
目頭を抑えながら、私はひと噛みひと噛みを丁寧に味わった。
ほどよい食感のお米に香ばしいだし醤油。
ご飯だけ食べても十分満足できるほど複雑な味わいはそうそう家庭では再現できない…
それにこのホタテェエエ!!
お、お前はなんでそんなに美味しいんだ……?
もうわからん、わからんぐらい美味い…。
しっかり味がつけられている割には、調味料とどっこいどっこいに貝柱本来の味がいい勝負を口の中で繰り広げている。
・・・こんなにまぁ大きく育ちゃって…(ホタテを箸で持ちながら)
これを丸々ひとつ食べてしまうのは1粒5000円のチョコレートボンボンを食べるレベルに勿体ない。
、、、、が。
パクっ…
モグモグモグモグ…
ゴクッ、ゴクッ、ゴクッ、、。。。。。
「ッターー!!!!!!!!半端なーー!!!!!!!!!!!!!!!!///////////////////////////////////////////////////////////////////////////」
このホタテを酒のつまみとして食べちゃうなんて…私は前世に一体どれほど徳を積んだんだ・・・・・・?
「なんかもう辛い……泣」
美味し過ぎると人の情緒は乱れることを今日学んだ。
混乱する頭を必死に宥めながら、私はまたひと口、ご飯を口に運んだ。
驚いた。
椎茸にはほとんど調味料が着いていないみたいだ。
塩味ひとつもなく、感じるのは椎茸の濃厚な風味だけ。
ホタテよりも肉厚だけあって、ムリっとした噛みごたえが最高だ・・・。
鼻に抜ける山の幸。
下で味わう海の幸。
令和最大の喜びを、私は感じている。
「外食産業ってやっぱ偉大だな・・・。」
―
店を出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。
夜になれば、浅草のランウェイを店の明かりがキラキラ彩る所も、今じゃ一層静けさを増すばかり。
しかし、静けさの中に熱だけは消えずにそこにある。
この温かさはなんだろう。
日中の日差しによってアスファルトに残る熱なのか、
それとも、
長年染み付いた、浅草の人情なのか。
そんなことを考えながら、ふとあの釜飯屋を振り返った。
すると、夕方見た時よりも一層美しく、提灯が燿るのを見た。
「綺麗。」
お父さんは、暗がりを照らす光のような人になって欲しいと願いを込めて、私に「ひかり」という名前をつけたそうだ。
太陽のような光ではなく、この釜飯屋の提灯のような。
それがどうゆう意味か、あまりよく分からなかったが、私はようやくその意味を理解した。
暗闇に灯る光は、人々の希望となる。
私は今でもあの日見た提灯を思い出す。
これから先、どんなことをするべきなのか。
地に足をつけて、暗がりに飲まれぬように。
そして私も提灯になれるように。
今日行ったお店は「麻鳥」でした。
まだ私が幼稚園児だったころ、初めて浅草に家族で遊びに行きまして。その時に食べたのが釜飯でした。けれど釜飯と言われてもピンとこず、「要するにご飯ってことでしょ?(ぷんぷん)」と舐めた口をきいてですね、親の反対も押し切って、私釜飯専門店で「マグロ丼」を食べたんですよ…。(苦笑)ご飯よりもマグロの方が贅沢と思っていたんですねーwwwまぁそのマグロ丼も美味しかったのですが、お父さんのウニの釜飯を食べたらも、もう!それが引くほど美味しくて!!!その時凄く後悔したのを覚えてます…(笑)その時の思い出が、あの提灯をつるす店が釜飯屋だとわかった瞬間思い出しました。その店にはマグロ丼がなかったので「あ~家族と来たところじゃ無いのか~」と思ったのですが、この記事を書くにあってHPを確認したら、ラッッララララランチメニューにあったんですよ・・・マグロ丼が・・・・(驚愕)こんなの運命感じるしかないですよね!?21歳になってようやく、あの頃のリベンジがでしました。めでたしめでたし♡
今週は更新が遅れて申し訳ありませんでした!
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