食品ロスに関する企業の取り組み
昨今、国内外において、食品ロスに関する関心は高まっています。国内では行政面で食品ロス削減推進法が制定され、ビジネスの面でも食品ロスを活用するトレンドが顕著に見られています🔍
本記事では、食品ロスの定義や国内外での動き、および、企業が食品ロスに対する取り組みを行う際の留意点について解説いたします✨
食品ロスに対するビジネスにおける取組
昨今、食品ロスを活用する企業の動きが活発になっています。
例えば、アサヒグループホールディングス(以下アサヒGHD)は2021年10月下旬に食パンの耳を原材料としたクラフトビール「蔵前WHITE」を発売しました(*1)。原料の全てがパンの耳で代用できるわけではなく、あくまでも原料の一部を代用している形で、割合としては全原料の約12%になり、風味付けという意味合いが強いといえますが、アサヒGHDはこのような廃棄食品を活用する「アップサイクルビール」の取り組みを全国各地の地ビール造りで生かすことを検討しています🍞
他にも、蒸留酒開発スタートアップであるエシカル・スピリッツは、全国の酒蔵で廃棄される酒かすなどを原料にジンの生産を行っています。同社のジンは世界的な品評会で受賞をするなど評価も高く、2021年は2020年と比べて商品の売上本数が6倍以上になりました(*2)。 このように近年、企業が食品ロスを活用する動きが活発になってきています🍶
食品ロスの定義について
昨今、食品ロスという言葉はよく使われている一方で、フードロスや食品廃棄物など、類似する言葉も多く、その定義について曖昧な方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ここでは食品ロスの定義についてご説明したいと思います。
国際連合食糧農業機関(FAO)が発表しているSOFA(The State of Food and Agriculture, 2019)(*3)では、フードロスとフードウェイストという2つの定義付けを行っています。
フードロス
まず、フードロスに関しては下記のように定義づけられています。
すなわち、フードロスとは、「小売業者、食品サービス事業者、消費者を除くフードサプライチェーンの中で、食品供給者の判断や行動によって生じる食品の量または質の低下」のことであり、消費者による食べ残しや、レストランなどの飲食店で出される「ロス」と呼ばれる食料の余り、スーパーマーケットなどで出る売れ残りによる廃棄物は含まれないことになります。
上述の引用にも記載がある通り、小売レベルで失われたものは含まれず、収穫後から小売に至るまでに失われている部分をフードロスと定義しています。
フードウェイスト
一方、フードウェイストについては下記のように定義づけられています(*4)。
すなわち、フードウェイストとは、「フードロスの定義で除外されていた小売業者、食品サービス事業者、消費者の判断や行動によって生じる食品の量または質の低下」のことを指し示しています。
具体的には、形や大きさ、色などが最適とは思えない生鮮食品が選別作業中にサプライチェーンから取り除かれてしまったり、賞味期限が近い、あるいは過ぎてしまった食品がこう利点や消費者によって廃棄されてしまったり、家庭において食べられるにも関わらず廃棄されてしまったりなどの例が挙げられます🚮
日本において扱われている「食品ロス」
日本における「食品ロス」については、上記2つの定義を総合したもので、食品ロスの削減の推進に関する基本的な方針において「本来食べられるにもかかわらず捨てられる食品」と定義されています(*5)。
農林水産省はこの食品ロスを「事業系食品ロス」と「家庭系食品ロス」に大別しており、前者を事業活動に伴って発生する食品ロスのこととし、食品製造業、食品卸売業、食品小売業、外食産業の4種に分けて定義付けを行っています。
食品廃棄物という言葉については、食品ロスの上位概念にあたり、農林水産省は「廃棄される食品の中で、まだ食べられる食べ物と、食品加工の段階で出る肉や魚の骨などの元々食べられない部分の両方を合わせて食品廃棄物といいます」と述べています(*6)。すなわち、「食品ロス+非可食部のロス」が食品廃棄物が指し示す範囲となります。
食品ロスに対する世界での意識の高まり
食品ロスに対する意識は世界全体で高まっています。2015年9月の国連サミットにおいて加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された、持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)(以下、SDGs)では、Food loss and wasteについて言及されています(*7)。
第12の目標である「つくる責任 つかう責任」におけるターゲット12.3において、「2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食料の廃棄を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食料の損失を減少させる。」という目標が掲げられています(*8)。12.3ではFood LossとFood Wasteについての指標が紹介され、それぞれ分かれて評価されるべきとされています。
サブ項目として、12.3.1.a のFood Loss Indexについては、「食品ロス指数(FLI)は、生産から小売に到達するまでで発生する食品ロスに着目しています。主要10品目のバスケットについて、国ごとに基準期間と比較したロスの割合の変化を測定しています。FLIは、SDGsターゲット12.3に対する進捗の測定に貢献します。」と記載されています。
サブ項目の12.3.1.bのFood Waste Indexについては、「小売レベルと消費レベルで構成されるフードウェイストの測定に関する提案が現在作成中です。国連環境計画がこのサブ指標を主導しています。」と記載されています。
また、米国の非営利組織ReFEDが主催している「食品ロス解決サミット2022」(2022 Food Waste Solution Summit)といった国際会議が開催されており、食品企業、資金提供者、プロバイダー、イノベーター、政策立案者、非営利団体などが集まり、2030年までに食品ロスを50%削減するという共通の目標(SDGs12.3)に向けて、その解決策の導入を推進する議論が行われています(*9)。
日本における食品ロスに関する意識の高まり
日本においても食品ロスに関する意識は高まりを見せています。2021年6月1日に農林水産省が発表したプレスリリース(*10)では、食品ロス削減に向け、農林水産省、消費者庁、環境省、一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会が連携し、小売店舗が消費者に対して、商品棚の手前にある商品を選ぶ「てまえどり」を呼びかける取り組みを行うことが発表されました🛒
また、食品ロスに関しては法律も制定されています🧑⚖️
2019年5月31日に公布され、2019年10月1日に施行された比較的新しい法律である食品ロス削減推進法は、食品ロスの削減に関して国や地方公共団体等の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他食品ロスの削減に関する施策の基本となる事項を定めること等により、食品ロスの削減を総合的に推進することを目的としています(*11)。
この法律では、事業者と消費者が食品ロスの削減に対して求められる姿勢についても言及されています。第5条では、「事業者は,その事業活動に関し,国又は地方公共団体が実施する食品ロスの削減に関する施策に協力するように努めるとともに,食品ロスの削減について積極的に取り組むよう努めるものとすること」、第6条では、「消費者は,食品ロスの削減の重要性についての理解と関心を深めるとともに,食品の購入又は調理の方法を改善することにより食品ロスの削減について自主的に取り組むよう努めるものとすること」とされています(*12)。
食品ロスに対して企業が求められる姿
このように、食品ロスに対する国内外の関心が高まる中で、企業も食品ロスについて対策を講じることが求められています💡
上場している企業にとっては、これまでのグローバルの関心の変化から、投資家の選定基準の変化に対応する必要があります。ESG評価機関であるGRIは「GRI306:廃棄物」(*13)において、農業やサービス業界においては食品廃棄物について報告するよう求めています。
一方、上場・非上場に関わらず、食品業界は消費者と非常に密接なかかわりを持ちます。その中でいかに消費者を魅了するかは非常に重要であると言えるでしょう。
しかしながら、食品ロスに対する企業努力が消費者に届きづらい現状があります。その理由として、現在企業努力の発信方法が、企業サイトに掲載することやIRに載せるなど限定的であり、なかなか消費者に見えづらいことがあります。
こうした消費者に見えづらいという課題に対して、弊社サービス「Myエコものさし」では商品のサプライチェーンごとの取り組みをライフサイクルアセスメント(LCA)に基づいて評価してスコア化を行うことで、企業のエコへの取り組みを「見える化」して消費者にわかりやすい情報にして届ける一助を担っています👀
ISOでも定められ国際的にも認知されているライフサイクルアセスメント(LCA)は、原材料の調達から製造、加工、流通、販売、廃棄にわたる製品のライフサイクルから、製品が環境に与える影響を定量的に評価する環境影響評価手法です(*14)。
LCA では、製品のライフスタイルにおける各ステップをモデル化することで、生産にかかる資源やその過程で発生する廃棄物や排出物の量を推測し、独自の指標から環境負荷を算出します。また、製品の環境宣言や認証制度などによるマーケティング戦略に貢献します(*15)。
自社製品に対してLCAによる評価を得ることで、自社の製品が競合製品も含む食品市場の中で、環境面でどのような位置づけにあるかを把握し客観性をもって市場に発信することができます。
本記事では食品ロスにおけるトレンドをご紹介しましたが、クオンクロップでは、外資系戦略コンサルティングファーム出身者を中心としたESG 経営データ分析の専門家チーム及び独自の分析ノウハウを有するシステムを活用し、各企業が「選ばれる」ために必要十分なESG 活動を把握し改善を支援する「ESG/SDGs 経営度360°診断&改善支援」・「My エコものさし」等のサービスを提供しております。
分析検討チームが社内に既にあり、ESG 経営を既に推進している企業様における分析の効率化のみでなく、ESG 経営分析のチームは現状ないものの、これからESG 経営に舵を切る必要性を感じておられる、比較的企業規模が小さい企業様に対しても活用いただけるサービスです。ESG 経営の効率的な加速のための、科学的かつ効率的な分析アプローチにご関心のある企業様は、是非クオンクロップまでお気軽にお問い合わせください。
クオンクロップESGグローバルトレンド調査部
引用
*1 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC255BB0V20C22A1000000/
*2 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC255BB0V20C22A1000000/
*3 https://www.fao.org/3/ca6030en/ca6030en.pdf
*4 https://www.fao.org/3/ca6030en/ca6030en.pdf
*5 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_research/white_paper/2020/white_paper_131.html
*6 https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2010/spe1_01.html
*8 https://www.fao.org/sustainable-development-goals/indicators/1231/en/
*9 https://news.yahoo.co.jp/byline/iderumi/20220608-00298143
*10 https://www.maff.go.jp/j/press/shokusan/kankyoi/210601.html)
*11 https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/information/food_loss/promote/
*13 https://www.globalreporting.org/standards/media/2573/gri-306-waste-2020.pdf
*14 https://www.nikkakyo.org/sites/default/files/ICCA_LCA_Executive_Guid.pdf