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秋の星座を想えば

「あれは白鳥座。カシオペア座に、あれはスバル星群!」

「木星が今日も綺麗やなぁ。あれは土星?」

首が痛いくらいに顔を上げて広い夜空を仰ぎながら母との会話。

ちょうど1年前、2023年の秋。里帰り出産のため実家に帰っていた私は、夜な夜な母と夜の散歩に出かけた。臨月を迎えて出産が近づき、しっかり動いてくださいと健診の度に言われたり、出産を経験した友達からも幾度となく言われたのだ。とにかく動けと。

39歳での高齢出産。また実家での生活が半年近く予定され、私はどことなく昔の自分に戻ったような感覚だった。いくつになっても母に甘えてしまい、父にはぶっきらぼうに話す。思えばいつだって私はわがままで自由奔放で、そんな私に時々口うるさく言われることもあったけど、そこには愛があった。

そんな母と母になる自分が想像もできないまま、秋の夜空を見上げながら地元の田舎道を歩いたあの時間はとても尊いものだったなと振り返り思う。地元の空は広い。さえぎるものもなく、建物は増えるどころか減っていくような場所なのだ。

「飛行機がたくさん飛んでるんよ。1日に何個も見るよ。」

星を見ながら飛行機の数を数えるのも習慣になった。

「あれは関空かな?あっちは東京?海外もあるか?」

四国の空の上空は思ったよりも飛行機の通り道になっていた。昔はよく飛行機に乗ってあちこち行っていたなぁなんて。若かりし頃の自分に思いをはせたりしていた。

秋の夜の空気感は寒すぎず冷たい。そんな心地良さもありながら、重たいお腹を抱えて歩いたあの日々。隣には母がいて家に帰れば父がぐうたらな格好でテレビを見ている。変わらない愛おしい日常。

そしてまた秋が巡り、私は母になり来月で1歳になる息子の育児に奮闘している。めまぐるしくも全てが愛おしい。小さき我が子の笑顔、泣き顔、あどけない表情すべてが。これも永遠には続かないこの瞬間の最大の贈り物なのだ。また同時に育児を通して自分の小さな頃に見たもの、聞いた物、触れたものをどことなく思い出す瞬間がある。母になり自分の両親が与えてくれたものを思い出す作業もまた可笑しくもあたたかいものだ。

実家から遠く離れた土地で私は私の家族と生きている。時々、昔がとても恋しい。変わらない日常がずっとずっと当たり前に続くと思っていた小さな頃。大人になった今はそれはずっとは続かないことに気付いて胸がキュンと痛くなる。順繰りの世界はその順番を静かに待っているのだ。

秋の夜長を想い、あの日の夜の木星の輝きを思い出す。広い宙に包まれて、数えた星座の名前。私達を見下ろしていたもうひとつの世界。ここからじゃ見えない星が今も生まれた場所では光輝いているだろう。

紡いでいこう、こうやって。過ぎた戻らない日々も、巡りくる未来へも。忘れないでいよう、こんな風に。立ち止まり、思い出そう。私も君も1人じゃないことを。家族はいつもそばに、心にいることを。

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