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“遂行機能障害”を理解する② ~関連障害Action Disorganization Syndromeについて~

日常的多段階行為の遂行機能障害を捉えるにあたって“Action Disorganization Syndrome”を理解することは有益であり、障害像を説明する際に役立つことが多い。いくつかの文献を引用しつつまとめてみる。

1, Action Disorganization Syndrome(ADS)とは?

Action Disorganization Syndrome(以下ADS)はSchwartz ら(1991)によって提唱された、前頭葉損傷に起因する動作障害の1つであり、「日常的な多くのステップを含む課題を遂行することの困難」をいう。日常的多段階行為の遂行機能障害と言い換えることもできそうである。
日常的な行為の手順において、物品の使用が不適切、行動の構成要素が脱落する、他の行動が混入する、行動順序を誤る、1 つのステップを反復する、などの誤りが出現し、目的行為が障害される状態である。
失行症との差異が気になるところである。Humphreys ら(1998)はADSの基本障害について、意味システム内の知識である「物品表象は正常に活性化」されており、対象物の選択の誤りは、「行動の構成要素と物品表象との結合の障害」であると考えていた。ここにヒントがありそうである。(※失行に関しても、使用失行・概念失行・観念失行など、学者によって定義する範囲が異なり、線引きするのは難しい印象である…)。

2, ADSの具体的症状

ADS の具体的な症状として、Schwartz ら(1991)は対象の代用、道具の代用、先取り、省略、質的誤り、場所の代用の6 通りに、Humphreys ら(1998)は意味的誤り、順序エラー、保続、付加、手順の省略、道具の省略、質、空間的誤りの8 通りに分類している。
爲季ら(2009)は共通して「使用対象の誤り、順序過程の誤り、省略、質的誤り、空間的誤り」に分類されるとしている。

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使用対象の誤りは、本来使用する物品の代わりに、意味的に類似した物品を誤って選択する場合であり、順序過程の誤りは、適切な手順が乱れたり保続が出現したりすることで目的行為が達成できない状態であり、省略は手順や使用すべき物品が省略され、質的誤りは時間や量の判断を誤り、空間的誤りは対象を誤った場所に置いてしまう症状である。

3, ADSの神経心理学モデル

Humphreys ら(1998)は,目的行為はスキーマ階層になっていると考えた。例えば「歯磨き」の場合、「歯磨き」という目的行為のスキーマが上位水準で表象され、その下の階層に「歯を磨く」、「うがいをする」という基礎水準のスキーマが表象される。さらにその下の階層に「歯ブラシを取る」、「コップに水を入れる」など細分された下位水準にスキーマが表象される。このように上位に表象された概念から波及する下位水準のスキーマが正しい配列で表象し、実行されることで目的行為が達成されると考えた。

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一方で、Shallice ら(1989)は、目的行為の達成には、注意の制御機能(supervisory attention system :以下SAS)が適切に機能することが必要であると述べている。一般に日常生活場面での慣れた行為では、スケジューリングシステム(contention scheduling system :以下CSS)で適切なスキーマが選択されて行為が遂行されるが、慣れない場面ではSAS によりCSS で選択されたスキーマの表象を監視し、抑制する機能が働き、目的行為が達成される。

爲季ら(2009)は目的行為の達成過程をHumphreys ら(1998)の階層モデルと,Shallice ら(1989)の注意の制御機能モデルを使ってADSの認知神経心理モデルを示している。上位水準で目的行為のスキーマが表象され、上位水準のスキーマに対するスキーマが基礎水準におけるCSS で正しく選択され表象される。さらに基礎水準のスキーマに対するスキーマが下位水準におけるCSS で正しく選択され表象される。そして各水準のすべてのスキーマの正誤をSAS が監視・抑制する。

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各症状を上図のモデルで説明すると、以下のようになる。

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以上のようにADS は目的行為の概念は保たれているが基礎水準、下位水準のCSS におけるスキーマが誤って表象されたり省略されたりし、さらにSAS が正しく機能せず、誤った表象が修正されない結果、生じると考えられている。

【引用文献・書籍】
種村純:遂行機能の臨床.高次脳機能研究,28(3): 312-319,2008.
爲季周平・阿部泰昌・山田裕子・林司央子・種村純:Action disorganization syndrome(ADS)を呈した脳梁離断症候群の一例.高次脳機能研究,29(3):348-355,2009
鎌倉矩子・本田留美:高次脳機能障害の作業療法.三輪書店,2010
石合純夫:高次脳機能障害学第2版.医歯薬出版株式会社,2012

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