【創作BL】視線の先には / ロイルカ
「それでねー、その時イーサンが……」
椅子に前後ろに大股を広げてまたがった状態で、ルカはロイに話しかけていた。にこにこと笑顔のルカに対し、ロイは眉間にしわを寄せて何か考えている様子だった。しかしルカはロイの様子は大して気にする風もなく、話を続ける。
「ほんっと、イーサンって頭が固いっていうか、融通が利かないよね~」
「……」
「あれ? 聞いてる?」
「……っ、あ、あぁ……聞いている」
もちろん、ロイはルカの話など聞いていなかった。さらに話を続けるルカに対し、ロイの視線はルカの太ももにあった。
自分でも、どうかしている、とは思っている。しかし視線は無意識のうちにそこにいってしまう。
自分が太ももフェチで、おまけにいわゆる絶対領域に目がないことは認める。……認めるが、同性のそれにまで興奮しているらしい事実は、認めたくなかった。
そもそもなぜルカは男のくせにショートパンツにニーハイソックスという格好をしているんだよと、心の中の自分が目の前の相手に責任転嫁し始めて、違う、そうじゃないだろ、とロイはぶんぶんと首を横に振った。表情豊かに今日の出来事を話しているルカには、幸か不幸かロイの不審な行動は目についていなかった。
「そうだ!」
突然、何かを思い立ったルカが、ぴょん、と席を立つ。
「ちょっとボクのピアノ聞いてくれない?」
「ピアノ?」
「今練習してる曲、ちょっと難しいとこがあってさ。ひとりで弾いてる時は弾けるんだけど、人前だとなんか弾けなくて」
ね、ダメかな?
二人の身長差のせいもあって、自然と上目遣いで聞かれて、ロイは頷くほかなかった。
「ありがとう!」
お礼を言うなり、ルカは早速鞄から楽譜を取り出してピアノへ駆け寄る。そして譜面台に楽譜を置くと、早速椅子に腰を下ろした。
にっこり、口元に笑みが浮かんだ瞬間、鍵盤の上を白い指がなでた。そしてすぐに手が、指が、踊りだす。
つい先ほどまで練習していた、聞き慣れた旋律が室内に響く。
イントロが終わると、ロイは無意識のうちに歌詞を口ずさんでいた。
時々ちらりと楽譜を見やるルカの表情は、真剣というより楽しそうに見えた。
――以前、ルカが言っていた。自分は何よりピアノが好きなのだと。
物心つく前からピアノを弾いていて、ピアノに専念するためにスポーツはほとんどしたことがないらしい。ハルに野球観戦に誘われた時、ルールが分からないから、と断っていた。
ロイはそれを、不幸だな、と心のどこかでぼんやり思っていた。本人はああ言っているけれど、ピアノにルカを縛り付けているだけなのではないかと。そのために他のことを縛るのは、違うのではないかと。
――結局、かわいそうなのは、それをかわいそうだと決め付けている自分だ。
普段の練習では、なかなかじっくり見ることができないルカの伴奏。ピアノを弾いているルカは活き活きとしていて、楽しそうに弾くもんだ、と、ロイが視線を少し下にずらした時だった。
かすかに動いた、ルカの右太もも――否、絶対領域。
ペダルを踏むたびに動くそこに、ロイの視線がくぎ付けになるのは、言うまでもないわけで。
「やった! ノーミスで弾けた!」
「……」
「ノーミスで弾けたの、はじめてかも! ……あれ? ロイ?」
「……っ、な、なんだ?」
「ボクの演奏、なんか変なところあった?」
「い、いや? 別に?」
「そ? ならいいけど……。それとも具合でも悪いの?」
ようやくロイの様子がおかしいことに気付いたルカが質問攻めをしはじめたが、まさか演奏中ずっとルカの太ももを見ていたとは、さすがに言えなかった。