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成長の痛みを乗り越えた、ある人事の挑戦。
2025年12月5日、
株式会社Hubbleは、総額7億円のシリーズBラウンド資金調達ファーストクローズを実施したことを発表した。
資金調達のニュースは喜ばしいことであり、これをきっかけにもっと多くの人に会社、プロダクト、社員のことを知って欲しいと思う。会社としてはまだまだ未熟なので、ちょっと実際より大きく見えているかもしれないが、それでも、このタイミングくらい大きく見えても良いだろう。
その一方、裏側では、表に出してない様々な”痛み”に立ち向かっている。
今回は、人事としてシリーズAからBの場にいた私が、noteのリレー掲載のバトンをつなぐという形で書いてみたいと思う。
はじめに
私は、2021年3月にHubbleで1人目人事として入社した。
その当時の社員数は、役員含めて10名。
11人目の社員として入ったが、その後3年と10ヶ月をかけて、正社員は54名*となり、業務委託など含めると総勢80名を超える組織となっていった(*2024年12月16日時点)。
大幅に人は増えたが、巷で起こるような組織崩壊は起きず、自分で言うのもなんだが、極めて健全な組織づくりができている。
正社員に限らず、業務委託等で入る人からも、
「Hubbleっていい会社ですね」
と言われることが多い。
しかも初日に。
「いい会社」というのは何なのかは人それぞれだと思うが、オフィスに入った雰囲気、Slackで歓迎された時、仲間との何気ない会話など、言葉では表しきれない良さがあるからだと思う。
これは、ハイブリッド勤務やフルフレックスなどの柔軟な働き方を認め、採用においても、"良い人"だけを採用する。そして、成長はみんなに還元する。といった、社長の想いが良かった証でもある。
Hubbleは、社員がほとんど辞めない。
これに賛否両論があることは事実だが、採用が難しい昨今においては、離職対策や人材育成に舵を切るより、何もしなくとも人が辞めないということの方が、ずっと大事だ。
とはいえ、会社が成長すると、少しずつ歪みが生じていく。
この歪みは、身体の姿勢と一緒で、普通に仕事をしていると気がつかない。その歪みが、いつか痛みに変わってしまう。
そして、痛みに気づいた時には、もう遅い。
だから、"歪み"が"痛み"になる前に、誰かが気づかないといけない。
今このフェーズでは採用が非常に大事だ。
ただ、採用という入口だけ頑張ったとしても、組織づくりに向き合わなければ、バケツの底に穴が空いているような状態で、すぐに人が辞めてしまったり、せっかく採用した人が活躍できなかったりする。
Hubbleにおいては、シリーズAからBに向かう途中、心理的安全性とカルチャーの醸成はできていたものの、属人的なマネジメントと、それによるマネジメント層の役割や権限にはかなり不明確な部分もあった。
従業員の人数が変われば、マネジメントや職責も変わるはずなのに、今まで通り進めていた。
だとすると、それは、組織のどこかに必ず歪みが生じている。
マネジメントに関わることには色々口を出してきたし、時には厳しい指摘もしたので、嫌なやつと思われているだろうが、ずっとそうやってバケツの底に穴を開けない組織づくりに向き合っていた。
人事の諸先輩方から、「人事の仕事とはそういうものじゃない」と、後日お叱りのメッセージをいただくことになるかもしれないが、私のHubbleにおける人事の仕事の根底には、採用だけ、制度だけの"点"ではなく、"線"でみた組織づくりがある。
さて、"はじめに"なのに、だいぶ長くなってしまったが…
入社して1年1ヶ月後の2022年4月には、シリーズAの資金調達を発表した。
ここに至るストーリーは前回のnoteに記している。そのため、今回はそこの話は割愛し、シリーズAのリリースから2年と9ヶ月で成長の痛みにぶつかり、人事として乗り越えてきた軌跡の部分を記していきたい。
ただ、勘違いされては困るので最初にお伝えしておくと、今回の挑戦は主に私がやったことになっているが、実際には一人では当然できるわけもなく、一緒に組織づくりを行なっていった人たちと一緒に作っていった共創の軌跡である。そして何よりも、同じコーポレートのメンバーたちがいたからこそであることをご理解を。
痛み① カルチャーは維持できない
強い組織をつくっていくには、カルチャーの醸成が欠かせない。
しかし、これと逆行するように、人が増えれば増えるほど、元々あったカルチャーは少しずつ希薄化していく。
「育ってきた環境が違うから、好き嫌いも否めない」の某曲の歌詞じゃないけれど、バックグラウンドが違えば、考え方が違うのも当然のことで、いくら元々のカルチャーを維持したいと思っても、残念ながら維持することはできない。
実際にHubbleにおいても、社員が20名を超えたくらいから、少しずつ入社する人が変わってきた。言語化するのは難しいが、何が変わったかというと、”層”が変わってきた感じだ。
だからと言って、
スタートアップ感がなくなったわけでもなく、
ネガティブな要素も思い当たらない。
むしろ、新しい人たちが入ることで、新しいカルチャーがつくられていった、とさえ思っている。
新しいカルチャーがつくられるとはどういうことかというと、
最初は、みんなが無意識に思っていた共通認識が、少しずつズレていく。そして、そこに感じた違和感は、再度共通認識をつくっていくことによって、新しいカルチャーとしてつくられていくこと。これにより、以前の共通認識と少しだけ異なったり、再言語化で新たに見える側面も出てくる。
Hubbleは、人の入れ替わりも少なかったので、少しずつ新しいカルチャーが固まっていった。
組織は大きくなっていくと、勝手に変化していく。
小さな変化が至る所で。
その変化に抗うことは、決して”正”ではなくて、その変化に対して、新たな形を作っていくことが大事だと思っている。
だから、
カルチャーを維持することなんてできない。
新しく入ってきた人と、新しいカルチャーをまたつくっていけばいい。
秘伝のタレのようなもので、日々継ぎ足されていくもの。
でも根本の味は決して変わることがない。
Hubbleのカルチャーは、これからも日々updateされる。
マネジメントメンバーに対して、
「(今の)カルチャーに合った人を採用しよう」
とか、カルチャーを維持しようとする発言を声高々にはしなかった。もちろん、古くから大切にしているカルチャーに合わない人は、お断りしていくのは前提として。
周りから、「人事なのにカルチャーとか気にしてないの?」と思われたかもしれないが、カルチャーは会社が決めるものではなく、そこにいる働く人たちが決めていくものだと思っている。だから、気にしていないわけではなく、誰かが決めるべきものではないのだ、と。
痛み② 計画通りに人材は採用できない
シリーズAを超えると、次に襲ってくる痛みは採用の強化。
事業が成長してくると、それに伴って、人材の需要が降ってわいたように増えてくる。しかも、採用基準が今までより厳しく。もちろん、全く前触れがないことはないのだが、それでも降ってわいてくる。
しかし、近年の人材採用の難易度は年々上がっており、かつ、人が増えて組織化してくると、専門性を持った人を求めるようになるので、少しでもズレると採用につながらなかったりする。
計画通りに採用ができない。
それでも、まだ3-4年前の採用市況であればなんとかなったが、今は少し前の成功体験が全くと言っていいほど成功しない。
ダイレクトリクルーティングや人材紹介会社の活用など不変なものはあれど、脚光を浴びたスタートアップの過去の採用手法は、もはや歴史の教科書レベルになっている。時代は令和になって、まだ6年しか経っていないというのにこの6年の変化が凄まじい。
今までは、採用数が増えれば、採用担当を増員し、リソースさえ投下すればなんとかなったが、今は人が増えても解決しない。1人でやっていたのを2人に増やしても採用数は倍にはならず、足し算が通用しない世界線。
だから、採用においては、普通にやっていては戦えない。
普通じゃない、をやらなければならない。
採用基準を下げたり、正社員にこだわらなかったり、育成前提で未経験を狙ったり、既存社員より大きく高い給与を出したりすれば、採用の枠はある程度埋まるかもしれない。
ただ、それをやると既存社員との軋轢が生まれ、会社の中になんともいえない空気ができてしまう。コストが上がり、生産性の低い組織になってしまう。
そして結果的に、人は採用したのに大して成長していない、という悪循環が生まれる。
ここで採用基準を下げるのはもってのほかで、
勇気を持って、抗わなくてはならない。
私は、いつも心の中のリトル山岸に問いかける。
そうすると、「採用基準は絶対に下げるな」と。
botのようにいつも同じ答えしか返ってこない。
普通じゃないをやるには、普通のことを徹底すること。
予算増やしても、体制強化しても、人材紹介会社の成功報酬をあげても、これから採用がどんどん難しくなっていく中では、特効薬にはならない。
もし、書類選考に時間がかかっていたり、面接のフィードバックを社内で共有できていなかったり、戦略もなくオファー面談に臨んでいるとしたら…
残念ながら、
普通じゃないどころか、普通すらできていない。
組織が大きくなると、面接をする人の責任範囲が広がってきて、採用の優先順位が下がりがちになる。これを、忙しそうだから…と一歩引いてしまったら、採用には絶対につながらない。
いかに採用の優先順位を上げていくか、今後も課題である。
痛み③ 現場が理解できない
候補者との面接において、
「自分は人事だから、現場のことはよくわかりません。次は現場の人と話をしてもらうので、そこで詳しく聞いてください。」
という人がいる。
実際に働いたこともないのに、知ったかぶりで伝えても、候補者に失礼と思っている人も多い。確かにその通りで、候補者にそのように思って、あえて説明をしないのならいいが、実際の現場のことがわからない人事も多い。
HubbleのPurpose&Valuesには、「圧倒的顧客理解」というのがあるが、人事にとっては、社員もお客様とほぼ同様。だから、実際に働く社員のことはもちろん、その社員が働く現場のことがわからずして、何ができるの?という考えが私にはある。
しかし、人が増えていくにつれ、MTGの参加メンバーにも制限がかかってくるし、現場で使用するSaaSのアカウントは(費用がかかることもあり)人事には付与されないので、現場が見えにくくなってきた。
今まで見えたものが見えなくなる。
組織が大きくなればなるほど起こる痛み(成長痛みたいなもの)だが、現場の理解が採用の精度を上げるので、距離ができてしまうのは痛かった。
そして、自分が現場を理解できなければ、当然メンバーにも伝わらない。
途中から、私は他の会議も外れていくことになるので、はじめにから説明してきた、組織づくりと採用がうまくできないことを意味していた。
だから、今まで以上に他社のことを調査したし、関連する書籍を大量に読み漁り、社内の会話や商談もこっそり聞き続けた。必要に応じて、Salesforceの画面も見せてもらったり、手間をかけて申し訳ないと思いつつ、抽出データとかもこっそりもらったりもした。
社員10名の頃からいたので、Hubbleの社員のことは、全員の顔と名前どころか、経歴、出身地、趣味、家族、交友関係など、(気持ち悪いくらい)全て頭の中に叩き込んでいる。あとは、ちょっとした現場の情報さえあれば、現場を理解できると踏んだ。
結果的になんとかなっているが、私はたまたま事前知識があったこと、また社員のことをよく知っているから良かったが、他の人には再現性がない。
これをどう解決していくかが、次の課題だ。
「どうせ人事だからわからないでしょ?」
というコミュニケーションを取られたくないし、そんなことが起こらない世界を自分は作っていきたい。
最後に
先日、銀シャリ橋本似の社員に、
「山岸さんって、セールスの売上見込みのシートを3日に1回くらい見てますよね?」と言われて、自分の行動がバレてしまってドキッとした。
隠しておこうと思ったが、履歴が残るから仕方ない。
とりあえず、手元にあったみかんを渡して口止めを試みた。
でも、おしゃべりな彼のことだ。
きっと誰かにしゃべるだろう。
ほんとに最後になりますが、
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