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はちゃめちゃな映画「たぶん杉沢村」が拓くオカルトコメディの世界

これも杉沢村 あれも杉沢村 たぶん杉沢村 きっと杉沢村〜

そんな歌詞はない。あるのは「たぶん杉沢村」なる映画だ。少し前になるけれども、神戸での試写会に呼んでいただいた。こんな機会でもなければ、この映画に出会うのはきっと、ずっと後になっていただろうなと思う。というのも、去年12月に公開されて以来、その話題はなかなか関西に届かなかったのだ。私が気づいていなかっただけかもしれないけど。

ところがこの春、4/7に1日限定で神戸・元町映画館で関西初上映されるのを皮切りに、4/8・9に京都、5/16には大阪、その後も名古屋・富山・金沢と上映ツアーが続々決まっているらしい。↓こちらが予告編。

「杉沢村って、久しぶりに聞いたなぁ…!」

それが、タイトルを聞いた時の率直な感想だった。杉沢村とは、凄惨な殺人事件の末、地図から消された村として、オカルトブームに乗って2000年ごろから広まった有名な都市伝説だ。オカルトマニアでは全くない私も知っているその名を、このような形で聞くことになるとは。思わず杉沢村の捜索ルポが初めて掲載された古い雑誌を探し出し、購入してしまった。もしそんなチャンスがあるなら、その記事を書いたライター氏に、当時の話を聞いてみたい。

話が逸れた。なお、このあとも話はいちいち逸れる見込みである。

映画「たぶん杉沢村」のメガホンを取ったのは、山口淳太監督。大変失礼ながら初めて耳にするお名前だったので、過去作品などをリサーチするところからだった。ドラマなんかで聞く、一度は言ってみたいセリフ「貴方のことは調べさせていただきました」というやつだ。

油断すると、すぐさま逸れる。

映画の公式サイトでは、イントロダクションとして山口監督と映画について次のように説明されている。

2020年公開の監督作品『ドロステのはてで僕ら』で、第41回ファンタフェストゴールデンバット賞(最優秀賞)、第25回プチョン国際ファンタスティック映画祭NETPAC賞(最優秀アジア映画作品賞)など20以上の海外の映画賞を受賞した世界的に広く評価される 山口淳太監督。

https://foe.motohiro.com/sugisawa/

「ドロステのはてで僕ら」。こちらも、なんとも気になるタイトルだ。ドロステとは、どろんこになって捨て身で向かっていくさま、ではもちろんない。なぜか今、パンサー尾形氏のひたむきな姿が脳裏に浮かんだ。

また逸れた。

ドロステとは「ドロステ効果」と言われる視覚効果で、合わせ鏡にどこまでも像が映し出されていたり、絵の中に同じ絵が描かれその絵にもまた同じ絵が…と続いていくアレのことだ。身近なところでは、このスポンジのパッケージがそうなっている。

出典:キクロン株式会社WEBサイト

当然のたしなみとして、試写会の前にまずは前作を拝見する。ドロステ効果が中心に据えられた物語というのが、なんとも興味深い。私が子どものころ、「合わせ鏡は悪魔を呼び寄せる」と、まことしやかに囁かれていた。ずーーっと続く像をじっと見ていると、どこかに悪魔が姿を現し、それを見てはいけないというものだった。つまり反復する像の中に、パラレルワールドが存在しているということ。「ドロステのはてで僕ら」も、ドロステ効果の中に生み出したパラレルワールドが、運命を変えていくというドタバタ劇だ。

映画の中のセリフ「時間に、殴られた」が、なかなかに象徴的だった。時間という、普段は一切のコントロールができない不可逆に意図が介入したら、何が起きるのか。貪欲でいることの素直さと罪を感じざるを得ないAmazonプライムでレンタルor購入できるので、ご興味あれば、ぜひ。

先ほど引用したイントロダクションはこう続いている。


そんな彼の最新作「たぶん杉沢村」は、自身が所属するヨーロッパ企画が 2015年に舞台上演し「いずれ映像化したい」と考えていた『杉沢村のアポカリプティックサウンド』(作:大歳倫弘<ヨーロッパ企画>)が原作。以前の脚本をベースに大歳氏が新たに書き下ろした、どたばたオカルトコメディ。
キャスト・スタッフは、本広克行による本広組Creative Salon FOEのメンバーを中心に構成。

https://foe.motohiro.com/sugisawa/

そうか、舞台演劇界の方なんだ。

ヨーロッパ企画は、京都を拠点に活動する劇団で、同志社大学の演劇サークル内で結成したとのこと。なるほど。「ドロステ〜」を観ていて感じた大振りなドタバタ感は、舞台役者さんたちのそれだったんだ。「たぶん杉沢村」にも、演劇的な雰囲気がどことなく感じられたので、こちらもヨーロッパ企画の役者さんたちが出演しているのかな?というと、そうではないらしい。

イントロダクション最後の一文。本広組Creative Salon FOEとは、踊る大捜査線シリーズをはじめ、あまりにも多くの映画やドラマ・アニメを手がけたことでよく知られている、本広克行監督主催のクリエイティブサロン。映画業界に携わりたいと、役者やクリエイターだけでなく、主婦や学生、会社員など100名ほどが参加している。

「たぶん杉沢村」の出演者やスタッフは、サロンメンバーが中心ということで、職業としての役者さんは1人だけ。それ以外は演技をしたことすらないという。そんな…いったいどんな映画になっているんだと慄いたけれども、観終わった後の答え合わせではサッパリ外した。周りの反応を観ていても、見抜いた人はそう多くいなかったように思う。シンプルにすごい。

この映画は、界隈ではあまり聞いたことのないオカルトコメディに類されている。「子どものころ夏休みにTVで観ていた、加トちゃんケンちゃんのお化けコントが源流」だと山口監督は言う。ちょっと怖いけど、なんだか可笑しい。笑っちゃうんだけど、どこかでゾッとする。30年近く前に生み出され、支持されたものが、こうして受け継がれている。

個性的な登場人物が次々と出てくる本作。物語は、会社の同僚4人で秘湯を求めての旅行中に、杉沢村伝説の特徴によく似た風景に出会うことから始まる。4人のうち、オカルトマニアの沢村が興奮して大暴走。深い森を分け入って進んだ先にあったのは、果たしてほんとうに杉沢村なのか?その答えは、是非ともご自身の目で。

なお、メインビジュアルにはいくつもの重要なシーンに関係する描写がぎっしりと詰め込まれているものの、この絵をどれだけ眺めたところで結末には辿り着けないであろう、どんでん返し感。「待て待て待て待て…!」と、いったん目の前で起きていることを整理する時間を取りたくなった。

こういった、伏線回収と笑いが怒涛のように押し寄せる作品は、何度か観てあちこち確かめたくなるもので。明日の神戸は、仕事で都合がつかないけれど、京都・大阪のどちらかにいけたらいいなと考えながら、このハイスピードオカルトコメディにそっと添えられていたアポカリプティックサウンド—世界の終焉を告げる天使のラッパになぞらえた怪音の不気味な響きを思い起こしている。


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