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いつかの夢の続きを【序章】
ずるい。
私なんか眼中になく、本に夢中だ。
なんかムカつく……。
窓際の席の彼女は、どっからどう見ても地味子。
もっさりした髪型と黒縁メガネ。すっぴんで垢抜けない陰キャの典型だ。
立山美夜子。
別名、図書室の住人。
朝に休み時間、それに放課後と全ての時間において図書室に居るので付いた名前だ。
私は咲洲陽菜。
別名は特にない。
美夜子とは真逆の存在。所謂陽キャグループに所属している。
ある日
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(1)
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〈1〉細い月と芽吹の季節図書室の住人。
彼女の素顔は誰も知らない。
私の秘密も誰も知らないだろう。
クラスでそれなりの立ち位置で、それなりに男子にモテる私が、クラスで一番地味な女子と、彼女の部屋のベッドで抱き合ってるだなんて、誰も知らない。
反則だ。普段との違いが、ギャップがずるい。
そしてそれを受け入れている自分もいる。
美夜子は私の首筋に寝息を当てている。
メガネを
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(2)
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〈2〉彷徨う少女と猫の滑り台大きな猫の滑り台。
なんで猫なんだろうと当時も思ったと思う。
その公園に着いたとき、時刻は22時を回っていた。
「あれ?」
昔の記憶では、滑り台の下は空洞でかくれんぼをしたり、内緒の遊び場みたいな感じで入っていたが、入り口がコンクリートで塞がれてしまっていた。
猫の柄のペイントも随分と禿げていたり薄れていたりと、面影がほんのり残っているくら
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(3)
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〈3〉湯浴みする女神に祈りを捧げる少女「ちょっと、暴れないで……」
「んっ……だ、だってぇ。さっきから、変なところばっかり……あっ!」
「変態。何変な声出してるのよ」
「嘘じゃないもん。さっきからくすぐったいところばかり触ってくるし」
「仕方ないでしょ。洗ってるんだから」
美夜子の手で体の隅々まで磨かれる。
ボディーソープの香りと、美夜子の体温。
これがイヤらし
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(4)
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〈4〉いつか夢の出口へ連れて行って夜明け前に目が覚めた。
ベッドから抜け出して、まだ新鮮な一日の空気を吸いに外へ出た。
大型トラックが大きな息を吐きながら通り過ぎる。
野良猫はひと狩り終えて家路についていた。
薄っすら明るくなる空に、私の大きな息が吸い込まれた。
吸い込む空気が少し冷たく、肺がキュッと締め付けられた気がした。
散歩がてら少し辺りを歩いていた。
まだ明けきら
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(5)
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〈5〉騒々しいくらいに希望を歌ってた鳥たちは、遠くに行ったのか教室に戻ると沙友理が声を掛けてきた。
「陽菜どこ行ってたの?」
「食堂」
「今日お弁当じゃないのか」
「うん」
「どうした? 何かあった?」
「え、なんで?」
「なんか、上の空だからさ」
「んー、人の気に当てられた感じかな」
「あー食堂、争奪戦だもんねぇ」
沙友理はお弁当を食べながら話す。
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(6)
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〈6〉叫ぶよ、嗄れても。弾ける想いを。「お母さん……」
私は絞り出したような声で、そう言うと、母は一瞬目を合わせてから、包帯でぐるぐる巻きになっている左手首を見つめた。
「陽菜……ごめんなさい、迷惑かけて」
「違う。お母さんは悪くないよ」
「いいの。お母さんがこんなんだから……お父さんが他の人に心移りするのも、無理もないわ」
「お母さん、もしかして記憶……」
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(7)
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〈7〉愛は誰かに見せたり、まして誇るようなものではなくて目が覚めると、また夜明け前。
東雲の空はまだ暗い。
とりあえず冷凍のご飯をレンジで温め、昆布の佃煮を乗せて食べた。
フリーズドライの味噌汁が、晩御飯を食べていなかった体に染み渡る。
恐らく、塩分が不足していたのだろう。体の隅々に染み渡る感覚が堪らなかった。
これがよくCMでスープを飲んだりした時に『ほっとする』という
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(8)
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〈8〉悲しみにもなれない名もなき感情は、涙でも流れずに降り積もる「あれ、陽菜今日は早いね」
「日直だからね。それに昨日早退したのもあるし」
「別に早く来たからって、単位にはならないと思うけど……」
「わかってるよー」
私はうつ伏せたまま、沙友理と話していた。
ちらほらと教室内の席が埋まっていく。
健斗も隣で普通に座って台本のチェックをしていた。
美夜子はまだ来てい
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(9)
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〈9〉なぜこんな寂しい場所へ来たんだろう、ひとりでは空が青すぎるのさ教室に戻った私達に待っていたのは、平岡に対する嫉妬だった。
沙友理は平岡に詰め寄り、自分の陽菜を取らないでと言うが、もちろん冗談である。
クラス内ヒエラルキーで私は例外という立場になりつつあるらしい。
なんだかんだで、元人気子役という顔の広さと好感度で、どう立ち回っても私が頂点になってしまうからとのこと
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(10)
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〈10〉やさしいあなたは私の首根を……ガラガラとキャリーケースを引っ張り、左肩には学生鞄を掛け、夜道を歩いていた。
それはまるで、家出娘の様相で、朝歩いた道も少し違って見えた。
歩いているのは訳がある。
考え事をしたかったからだ。
そして、考えが纏まることはなく、私は見慣れた門の前に立っていた。
「何してるの?」
少し息を切らせた美夜子が、スポーツウェア姿で帰宅する
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(11)
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〈11〉もうめぐらせなくてもいいの。しぼんだ肺のままでもね。医師が言うには、失神してしまっただけで、命には影響ないとのことだった。
藤崎さんが頭を下げ倒し、優衣はホテルで反省しているとのことだ。
私は特に気にしていないことと、ことを荒立てるつもりはないことを伝えた。
「ごめんなさい……あの子、最近不安定なの。だからあなたが傍にいれば少しは改善するんじゃないかって……私の
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(12)
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〈12〉じっと両手を見つめて、途中から数え直して午後の授業は瞬きをしたらすぐ終わった。
というよりも、殆ど手に付かず、私は帰路に着いた。
何となく、沙友理や平岡の話に相槌を打ちながら校門の前で別れた。
病院に向かうため、大通りでタクシーを止める。
「ほんと、奇遇ですね」
「あ、この前の……」
また同じ女性ドライバーのタクシーに拾われてしまった。
「病院かな?」
【青春恋愛小説】いつかの夢の続きを(13)
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〈13〉私は私とはぐれるわけにはいかないから食べ始めると、終わりが訪れるのは必然だが、私は刹那の如く食べ終えてしまった。
理由としては美味しすぎたから。
カツオのたたきサラダは、大根と玉ねぎにレタス、そこにポン酢をかけるだけのシンプルなもの。
メインの豚の生姜焼きは甘辛いタレがご飯と合う。
少しマヨネーズと一味唐辛子をかけての味変も絶品だった。
そして味噌汁に素麺が入って