大発明家と大統領
政治的正しさを求めすぎて完全に独裁国と化したアメリカ。言うまでもないが、大統領を務めているのは黒人女性五十歳。過剰な黒人優遇の風潮の中、突然、三十歳黒人の大発明家が誕生した。
ある日、大発明家は自分の発明品を用いて大統領宅に侵入し、大統領を拘束する。
かつて大統領は、有名企業でポリコレ最高責任者を務めたことがあり、当然、激怒して銃を構える。
「お前は何者だ! ポリコレ違反者は撃つぞ!」
怒った大統領の顔を見て、大発明家はより一層ニヤリと笑う。さらに大発明家は大人一人が入れる機械を出し、大統領に見せる。そして楽しそうな表情を浮かべながら、大統領を機械の中へ押し込み、扉を閉めてコントローラーのスイッチを押す。
「何をする! 早くここから出せ!」
大統領は扉を叩き大声で叫んだ。何分か経ち、ようやく大発明家が扉を開けてくれた。しかし、大発明家は大統領を見て大喜びしていた。大発明家のふざけた態度には、流石の大統領も怒りを爆発させる。
「お前は一体、何をした!」
大発明家は鏡を取り出し、大統領の姿を映す。機械から出てきた大統領はなんと、黒人男性二十一歳に変身していたのだ。
「この体は私のものだ! お前には絶対触らせない!」
大統領は叫び、男の力で大発明家を威圧しようとしたものの、拘束を破れず再び機械の中へ閉じ込められてしまう。
それから何十分もの間、アジア人の美少年や白人の両性具有など、別の姿へ何度も強制変身させられた。
「この機械を使えば、自分の人種や性別を簡単に変更できる」
自身の体を弄ぶ大発明家に、大統領はついに我慢ならなくなった。
「お前は何者だ! 性自認を言え!」
大発明家の胸元を掴んで、性自認を無理矢理聞き出すが、大発明家の口からは意外な言葉が。
「私は何者でもない。だからこそ、何にでもなれる」
大発明家は笑い、自身も機械の中へ入る。機械の中でコントローラーを操作し、そばかすの小柄な白人や背高なアジア人に変身しながら、話を続ける。
「つまり、最初の黒い肌も本来の姿ではない。それに性別もない。これまでの私は、この社会で生きていく中で作られた仮の姿に過ぎない。それは、あなたも含めた他すべての人間にも言えること。そして白人も黒人もアジア人も、最後には骨になり空気になり、所詮消えてしまう。すべての人間は透明人間なのだ」
最後に大発明家は自身の本来の姿をカミングアウトする。その姿は本当に人間ではなく、そしてさらに、何者でもなかった。言葉で言い表すならば、白くも黒くもない、究極のジェンダーフリーかつ、誰もがそこに行き着くような最高にユニバーサルな姿であった。
彼、いや彼女、いやいや、大発明家のそれを見た大統領はますます混乱した。しばらく経ち冷静さを取り戻した時には、大統領の虚無感を覚えていた。
「黒人だから白人だからで騒ぐなんて何てくだらないことだろう」
わけがわからず、もう、すべてがどうでも良くなった大統領。
一連の事件がきっかけとなり、大統領のポリコレ独裁は廃止され、アメリカは再び自由を取り戻すのであった。
おわり
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