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26曲目: 海援隊「二流の人」と平山万佐子について、など

曲名:二流の人
アーティスト:海援隊
作詞:武田鉄矢
作曲:中牟田俊男
初出盤の発売年:1979年
収録CD:全曲集 [POCH-1115]
※ジャケットや帯などに記載されたタイトルがバラバラで、どれが正式なタイトルなのか分かりませんでした。ジャケットは上の画像(左側)のとおりです。こりゃまた、何という写真!

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海援隊の昔のライヴ盤だったと思うが、この曲を演る前に武田鉄矢が琵琶とその奏者を紹介するシーンが収録されていたはずである。
もう何十年も聞いていないので、下記のやり取りは筆者の記憶を元にしている。実際は少し違っていると思うが、平にご容赦のほどを。

「琵琶というんですか、変わった楽器ですね。失礼ですが、お名前は?」
「ひらやままさこ、です」
「平山さん、ですね。今日はよろしくお願いします」

筆者はこの紹介の仕方に異議を唱えたいわけではない(繰り返すが、あくまで記憶による再現)。琵琶奏者の方に興味があるだけである。

70年代のロックが好きな方なら、レオン・ラッセルが1975年に出した『Will O' The Wisp』(邦題『鬼火』)に収録されている「Can't Get Over Losing You」で平山が演奏しているのを覚えておられるかもしれない(なお、尺八は村岡実)。これはレオンが1973年に来日した時にレコーディング・セッションに呼ばれたと聞く。
異国の響きに惹かれて未消化のままアルバムに入れただけで、曲の本編とはあんまり関係ないかな、というのが筆者の率直な感想。

また、映画『犬神家の一族』のサントラ盤(1976年)に収録されている2曲目「怨念」でも彼女の琵琶の音が聞ける。前半はステレオタイプな琵琶の使い方だと思わなくもないが、曲の後半では文字通り「フュージョン」な展開を見せる。ただ、好きかと問われるとちょっと。。。どこのシーンで使われていたかもまったく記憶にない。
筆者の持っているCD [CPC8-3001] には楽器と奏者のクレジットしかないため詳細は分からないが、当時はファーストコール(一番最初に依頼されることが多いスタジオ・ミュージシャン)の琵琶奏者だったのかもしれない。

あとは、昔『ライブ夢空間: 四谷コタン物語』(三上左京:著、社会思想社)という老舗のライヴハウスの本を読んていた時に、70年代後半によくライヴをやっていた人として名前が出てきたのを覚えているくらいである。この本はもう手放してしまったので、これまた確認ができないのだが。
他にも、70年代にあれこれ出ていた異種格闘技系フュージョン(?)のアルバムに参加しているかもしれないが(筆者は耳にしたことがない)、本業はあくまで雅楽・邦楽の奏者なのだと思う。前述したとおり、ネットで調べてもうまく情報が掬い取れない。

彼女のちゃんとしたディスコグラフィも見つけられなかった。レコード・コレクターズ誌などで記事になったことがあるのかもしれないが、筆者は目にしたことがない。誰かが丁寧にまとめてくれるといいな、と思う。

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海援隊とはしばらくご無沙汰していたのだが、2000何年だったか、日本のロック/ポップスに興味が戻った(きっかけとなった大塚愛の話はまた今度)際に上記のCDを聞いて、この曲と再会した。

今回、筆者が取り上げるスタジオ・ヴァージョンの方の「ベン、、、ベン、、ベン、ベンベンベン」(琵琶といえばコレ、な音)というイントロも平山本人が弾いたものかどうか、ベストCDにはクレジットがないので分からない。
その後はエレキギターによるちょっぴりプログレっぽいフレーズが引き継ぐものの、曲のサウンド自体は70年代的なフォークロックと呼べそうだ。ドラムスとベースに加えて、エレキのリズムギターが普通のコードを刻み、そこへ過剰気味にエフェクターをかけた「ポワーンポワーン」と鳴るリードギターが乗っかる。

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歌の主人公が黒田官兵衛であることと曲タイトルから考えて、坂口安吾の同名小説が下敷きになっていることは間違いない。
筆者はあまり歴史の精度を信じていない人なので、ネットどころかラジオもない戦国時代の武将がどれだけ世の状況を俯瞰して見ることができたのか、いぶかしく思っている。この歌詞の内容もあくまで尾びれやら背びれやらが大量についた伝記を元にしたフィクションであり、真偽のほどは気にせず聞いているのだが、背景の知識があると面白く聞けるという感覚はよく分かる。
テレビはほとんど見ないので、大河ドラマ『軍師官兵衛』も未見なのだが、筆者がわずかながら知っている彼の逸話は演劇要素満載で、忠臣蔵の「七段目」と同じくらい好きだ。
黒田官兵衛の死因も諸説あるが、梅毒説も強い。本当なのかもしれないし、そうでないかもしれない。

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この時期の「敗者を描いた歌」といえば、アリスの「チャンピオン」があった(谷村新司のご冥福を)。
当時、武田鉄矢はこの曲に結構影響されていたらしく、海援隊の「あんたが大将」シングル盤ジャケットの下に小さく、(You are the King of Kings)の記載があるのはファンには知られた話だけれども、「二流の人」の主人公もある意味ではそうである。また、ヴァースの途中でBメロに移る際に聞かせるリズム・アレンジにも「チャンピオン」のオマージュが入っていないだろうか?

例の琵琶はエンディングでも少し聞けるが、やはりとってつけた感は否めない。あくまで飛び道具であり、効果音的な使い方だと感じる。
もっとも、武田鉄矢が日本史における「じゃない方」の一人である黒田官兵衛を語る効果音としては、例のいかにもな琵琶の音はピッタリではないだろうか。

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資料も少ないので、あやふやなままここまで書き進めてしまったが、さて、琵琶奏者である平山万佐子は現在どうしているのだろうか?
今でも録音やライヴ活動をしているのか、SNSをまったくせず最新情報の収集能力に欠ける筆者には知る由もないが、NHK-FMの「邦楽百番」をマメにチェックしていれば、年に何度か琵琶の曲が聞ける。運がよければ、その時に彼女の演奏が聞けるかもしれない。


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