父のシュークリーム、母のさたぱんびん
「さたぱぁんびん」
ある日、YouTubeでちいかわを観ていた。
第165話。ハチワレとちいかわがシーサーと初めて出会う話だ。
(ちいかわとは、作者ナガノさんがSNSで投稿している漫画で、アニメにもなっている。ちいさな生き物たちが、討伐や草むしりなどでお金を稼いで生活している姿を、可愛くときにダークに描いている)
この話で、ハチワレたちに何を食べているのか問われたシーサーが上記のセリフを言うのだが、その言い方がとても可愛い。
小さめの声でぽそっと。のんびりとした調子で言うのだ。
それを観て私は、誰に披露するわけでもないが、ただ可愛くて自分も真似したくなり、一人でぶつぶつ言っていた。当然本物のように可愛くはいかない。
何度も言っていたら、勝手に耳に入って聞き飽きた彼から「もう言っちゃダメ!」と怒られた。
しかたがないので、彼のいないところで練習しよう…
ところで、さたぱんびんってなんだろう。
みたところ沖縄名物のサーターアンダギーのようだが…
気になって調べてみたところ、どうやら同じものらしかった。
沖縄本島ではサーターアンダギー、宮古島ではさたぱんびんというらしい。
ちなみに、
の意味らしい。
なるほど。知らなかった。
そういえば、サーターアンダギーには少し思い出がある。
高校生の頃、修学旅行が沖縄だった。
そのお土産にサーターアンダギーを持ち帰ったのだが、これがとても美味しくて、家族みんなが気に入った。
そうしたら母親にサーターアンダギーブームが到来したのだ。
薄力粉や卵、ベーキングパウダーを使って、おやつの時間になんちゃってサーターアンダギーを作ってくれた。
それは回数を重ねていくと、時折チョコレートをかけたお菓子になった。
そうなるともう、それはまるっこいドーナツだ。
だけど、油の入った鍋からシュワァっと軽く心地良い音を響かせるそれを、母と並んで見ている時間は楽しかった。
食べるのが待ち遠しかったし、母とのそんな時間が好きだった。
そんな懐かしいことを思い出していたら、ふと父とのおやつのことも思い出した。
父はよく仕事終わりに、帰り道にあるビアードパパのシュークリームを買ってきてくれた。
だけど、私はそれがあまり好きではなかった。
何か買ってきてくれるとしたらいつもシュークリームだったから、正直食べ飽きていたのだ。
「ただいま。はい、これ」と言って帰ってきた父の手からビアードパパの袋を受け取ったとき、私は「えー…」という渋い顔をしていたし、ある時には「カスタードがあんまり好きじゃないんだよね…」と言いながら、しぶしぶ食べていた記憶がある。
そんな私に父は何も言わず、ただ黙って隣でシュークリームを食べていた。
だけど、今ならわかる。
人がどんな気持ちで、家族におやつを買って帰るのか。
大人になって、私もちょっと出かけたときなどに、一緒に暮らす彼におやつを買って帰ることがある。
あるいは実家に帰るときもそうだ。父と母にお菓子の手土産を持って行く。
「一緒に美味しいものを食べたいな」
「おやつを食べながら、みんなで楽しくお話ししたいな」
「よろこんでくれたらいいな」
そんな気持ちで、私はおやつを買って帰るのだ。
けして渋い顔が見たいわけじゃない。
いやいや食べてほしいわけじゃない。
そう思うと、当時の私はとても嫌な奴だ。
その頃、ちょっと反抗期で、父という人間が私の中で難しい存在だったというのもあるかもしれない。
父も父でもともと不器用な人だから、年頃の娘への接し方がわからなかっただろうし、4人家族のうち、自分だけ男で、私たち女性陣に難しさや孤立感を感じていたかもしれない。
そんな中でシュークリームを買って、少しでもよろこんでくれたらいいな、という気持ちが父にはあったのではないだろうか。
なのに、私はその気持ちを汲めなかった。
それはちょっとした後悔となって、何かのきっかけで時折顔を出す。
この話しを書こうと思った帰り道、駅にビアードパパがあったので買ってみた。
ひさしぶりに食べたそれは、シュー生地が少し硬めで美味しかった。
だけど、やっぱり私にはカスタードがちょっと多い。
でも、今度は「美味しいね」と言って、食べられる。
だから、いつかまたお父さんが買ってくれたビアードパパのシュークリームが食べたいな、と今は思う。
さたぱぁんびん