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昨夜みた夢の話 / 制裁について考える

東海道新幹線の車内で、僕は昨夜みた夢のことを思い出していた。

夢の中の僕は旧日本軍だかテロリストだかわからないがとにかく何某かの暴力組織の一員で、捕虜だか脱走兵だかわからないがとにかく何某かの虜囚を拘束する任を帯びていた。僕に捕えられていた彼は僕の名前を知っていたので、元仲間の裏切り者だか何だか、そんな感じだったのだろう。

僕は右手に握っている軍刀で彼を殺すよう上官に命じられた。

その時、これまでの人生で感じたことのない、最悪な気分になったことを鮮烈に覚えている。

僕の背中を嫌な汗が大量に流れ落ちていった(現実の僕もとても嫌な寝汗をかいていた)。
僕はうまく呼吸をすることができなくなった。

いやだ、たのむ!やめてくれ!

そう叫んだのは虜囚ではなく僕だった。

でも僕は上官に逆らえなかった。恐怖に支配された僕に選択の余地は無かったのだ。
僕は足で彼を押さえつけ、地べたに這いつくばる彼の首に軍刀を突き立てた。

彼の首の肉と骨がグヂュッと潰れ、彼の喉に残っていた空気がヒュッと抜けるとても嫌な音がした。軍刀を握る僕の両手にこの上なく不快な感触が電撃的に流れ込んできた。

あまりの気持ち悪さに耐えかねて、夢の中で僕は吐いた。吐きに吐いた。一通り吐ききって、いよいよ僕は錯乱した。

なぜ殺した、なぜ殺させた、なぜ彼は死ななければならなかった、なぜ僕は彼を殺さなければならなかった、なぜ俺に殺させた、わからない、納得できない、理不尽だ、こんなことはあってはならない、なぜ、なぜ、なぜ………………

そして僕は命令した上官を含めその場にいる全員を軍刀で斬り殺そうとした。
もちろんそんなことはできるはずがない。そこは暴力組織で、僕の周りにいるのは武装した兵士たちだ。銃の一斉掃射を受けたんだか銃剣で滅多刺しにされたんだか覚えていないけれど、ともかく僕も惨たらしく殺された。

そこで目が醒めた。

今日から僕は死刑制度に断固反対しようと思う。
誰かの命令で誰かが誰かの命を奪うというのはとんでもないことなのだと、理屈抜きで、そう思ったからだ。

こういう夢を見たということは、僕は真相意識の領域で死刑を徹底的に嫌悪しているのだと思う。
また、暴力、傷害、死によって人を裁くということそのものに強い嫌悪感を抱いているのだと思う。だから僕は死刑だけでなくあらゆる私刑も認めたくない。戦争などもっての他だ。いかなる正義の理屈を並べたところで、戦争なんて結局暴力による裁きの欺瞞でしかない。夢の中で僕は上官を殺害しようとしたけれど、その行動が幸せな結末に繋がる可能性なんて有りはしないのだということを僕は夢の中でもわかっていた。そういうことだ。

現代社会において、人は法によってのみ裁かれるべきだ。そして、その裁きのなかに暴力は要らない。まして死など、もっての他だ。

理屈抜きで、僕はそう思っている。

この考えを人に押し付けるつもりはない。

ただ、僕はこういう夢を見てしまった以上、死刑を肯定することはできなくなってしまった。それだけだ。

そういうこともある。

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