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#5 はじめての一人旅

実家に入り浸り、勉強もバイトもせず社会の役に立たず生きる夏休み。

以前Instagramで見かけた地元のお洒落なカフェに行ってみようと、ぐだぐだしていた自分をたたき起こして出かけた。最寄駅から電車で一時間半。一日で電車代に三千円を費やした。

そしてこの日私は、初めて無人駅なるものに降り立った。券売機も無いのにどうやって帰るのだろうと思いつつ辺りを見回すと、そこにはジブリに出てきそうな、どこまでもまっすぐに続く線路と青い空。人一人いない駅に蝉の声だけが鳴り響く、懐かしさすら覚える光景であった。

暑かったこともあり、お目当てのカフェに向かうまでの道でもほとんど人に会わなかった。田畑が広がっている中にぽつりぽつりと農家のおばあちゃんが見える程度。田舎育ちの私にとってはこのくらい人が少ないほうが落ち着くのかもしれないと気づかされた。関東の大学の傍に住んでいると、夜でも国道からバイクの雄叫びが聞こえる。それもそれでいいのかもしれないけれど。

昼前に目的地に到着。ヤマモ味噌醤油醸造元。

長年続く味噌と醤油の醸造に加え、二階ではアートの展示も行われている不思議な場所だった。アートを通して醸造蔵の歴史や創業時の時間を紐解き、それらを継承することを目指していらっしゃるのだとか(公式サイトより)

建物自体は創業当時から同じ造りなのか、二階のアートスペースに行く階段を上るとき、みしりみしりと音がした。私の体重で壊れたらどうしようと一抹の不安を覚えた。カフェスペースの本棚に並べられた本やレコード、レトロな家具、窓から見える日本庭園はどれも、醸造元の歴史を物語っていた。しかし店員のお兄さんたちが立つ厨房は、高級なレストランのようにきらきらしていて現代的。店のコンセプトがこれほどまでに凝縮された濃密な空間に、未熟な私はただ息を呑むしかなかった。店の醤油や味噌を使用したデザートは、洋菓子の材料のみでは味わえない深みがあるような気がした。

その後、行く予定のなかったお店にも立ち寄った。セレクトショップとカフェがひとつになっているお店「momotose」。

道にはあんなに人がいなかったのに、このお店に入ると平日にもかかわらずお客さんがいっぱいいた。こんなところにこんな素敵なお店があったなんて、と感じさせるような、住宅街に佇む隠れ家的お店といったところか。そして最後に地元のお菓子屋さんに立ち寄り、優しい雰囲気のおかみさんからお土産に「ごますり餅」を買った。(帰宅後に家族と食べたが、これがまた絶品であった)

同じ県に住んでいても、知らないことがあるものだなぁと思う。高校の部活の遠征でしか県内で移動することはなかったし、観光をする暇もほとんどなかった。Go To キャンペーンの可否が議論されるけれど、同じ県にもこんなに素敵な場所があることに、一体どれくらいの人が気づいているのだろう。世間の夏休みはもう終わったが、もっとたくさんの隠れ家的観光地が日の目を浴びる時が来ることを願った、そんなプチ旅であった。

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