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建築家ヤン・ゲールによる歩行者のための街


ヤン・ゲールのプロフィール

ヤン・ゲール (Jan Gehl、1936-) は、デンマーク・コペンハーゲン生まれの建築家です。デンマーク王立芸術大学建築学部の出身で、デンマークの歩行者志向の都市デザインは、彼の功績の一つです。

歩行者や自転車のための都市計画によって、公共空間のアクティビティを生み出そうことに焦点を当てています。

自動車文化の発展

米国の雑誌記者・作家だったジェイン・ジェイコブズが1961年に発表した、『アメリカ大都市の死と生』では、自動車交通の急増によって、都市空間と都市生活は破壊されると言及し、大きな反響を呼びました。

上海の高速道路

徒歩が交通手段として利用される機会が減少しただけでなく、都市空間が社会面と文化面で果たす役割が狭められてきた。都市空間は昔から住民の出会いの場所、社会的交流の場だったが、その役割が縮小され、脅かされ、排除された。

ヤン・ゲール『人間の街』

都市空間の巨大化

自動車交通と建設技術の発達に伴い、都市は高層化・スプロール化していきました。徒歩移動を中心とした時速5キロの街から自動車移動を中心とした時速60キロの街へと変遷していったのです。

時速60キロのスケールは大きな空間と広い道路、大きな建築、大きな騒音をもたらし、歩行者の目には異様なまでに巨大化しています。あまりに人間のスケールを無視しすぎています。時速60キロの建築の中を歩いても、退屈でつまらないのです。

コペンハーゲンは1960年代初頭、ヨーロッパの都市で最初にこの問題に気付き、都市の自動車交通と駐車場の削減を始めました。

ストロイエ

ストロイエ(Strøget)はコペンハーゲンにある全長約1.1 kmの歩行者専用通りです。

ストロイエの街路(Wikipediaより)

オープンカフェが立ち並び、通りは歩行者で賑わっています。

歩行者のための街

近年、「ウォーカブル」「ウォーカブルシティ」という言葉で歩行者のための街デザイン、都市計画が注目を集めています。

ちなみに2024年に、世界のウォーカブルな都市(歩きやすい都市)トップ10が発表されました。日本の東京は6位にランクインしています。他の9都市がすべてヨーロッパの都市であり、ヨーロッパ以外では、東京が唯一のランクインです。

1. ミュンヘン(ドイツ)
2. ミラノ(イタリア)
3. ワルシャワ(ポーランド)
4. ヘルシンキ(フィンランド)
5. パリ(フランス)
6. 東京(日本)
7. マドリード(スペイン)
8. オスロ(ノルウェー)
9. コペンハーゲン(デンマーク)
10. アムステルダム(オランダ)

4つの目標

➀生き生きした街

街を歩き、自転車に乗る人が増えると、公共空間のアクティビティが増え、生き生きした街になる可能性が高まります。都市は出会いの場所でもあるのです。
生き生きした街に必要なのは高層・高密度開発ではありません。良質で魅力的な都市空間を創造する必要があるのです。

例えば、街のエッジを活用することで、街に賑わいをもたらすことができます。エッジとは建物の街路に面している部分のことです。

ヤン・ゲールは、活動の水準は出来事の数と持続時間の積で表されると主張しました。

ストロイエでは、人々の歩行速度が夏季は冬季よりも35パーセント遅くなる。これは、人数が同じでも街路の活動水準が35パーセント上昇することを意味している。一般に、天気が良いと都市空間の活動水準が劇的に高まる

ヤン・ゲール『人間の街 公共空間のデザイン』

このことから、交通がゆっくりしていると街が生き生きするのです。たとえ人口が減少していても、多くの移動が徒歩で行われれば、自然発生的な滞留が多くみられ、高い水準の活動を維持することができます。

対照的に、自動車中心の都市では、たとえ人口が多くても、交通が高速で、滞留する人がほとんどいません。

➁安全な街

自動車が街に侵入するようになってから、事故率は増加してきました。自動車の誕生によって、都市のスケールと次元は攪乱されてしまったのです。

時速60kmの自動車を中心とした交通空間と都市が整備されることで、時速5kmの徒歩移動をする人間にとって、あまりに人間のスケールを無視した都市空間が誕生してしまったのです。

➂持続可能な街

自動車交通は、騒音や排気ガスといった環境問題を引き起こします。交通体系の大半が「グリーンモビリティ」(徒歩、自転車、公共交通機関)になることで、資源消費を抑え、排出物質を減らし、騒音レベルを下げることができます。

④健康的な街

徒歩や自転車が日常生活の中に組み込まれることで、人々の健康は促進されます。人間は元来、徒歩で移動する生き物です。それが今や自動車でオフィスに向かい、デスクワークをして座っているばかりです。自動車文化は、肥満や身体能力の衰えなどの健康被害を誘発しているのです。


またヤン・ゲール氏は、『人間の街』の中で、歩行者景観に関する12の質的基準についても言及しています。歩行者のための都市における建築・デザインに関する基準です。

歩行者景観に関する12の質的基準

  1. 交通と自己からの保護 ー安全

  2. 犯罪と暴力からの保護 ー治安

  3. 不快な感覚体験からの保護

  4. 歩く機会

  5. たたずみ・滞留する機会

  6. 座る機会

  7. 眺める機会

  8. 会話の機会

  9. 遊びと運動の機会

  10. スケール

  11. 良好な機構を楽しむ機会

  12. 良好な感覚体験


ヤン・ゲールの著書

本記事を書く上で参考にしたヤン・ゲール氏の名著2冊です。

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こちらの記事では「自転車のための都市」について書きましたので,ぜひご覧ください!

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