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役所の人事については悲喜交々です。民間企業では、全国転勤含め色々ありますが、役所の場合の一番のネックは「今さら未経験の職務」が頻繁なのです。

未経験職場に異動するというリスク

民間企業の採用広告で「未経験可」と書かれていたら、どう思いますか?
未経験の自分でも優しく教えてくれるんだな、と思いますか?

未経験可の背景にあるのはこんな感じです

・新卒採用や自社では足りない
・他企業と比較されることなく自社の特性で育てたい
・若手を採用したい(給料安くてコスト安)
・そもそも経験者がいるような業種ではない

そうじゃなかったら、即戦力の経験者がいいに決まってますよね。

・教育、習得にかかる時間、コストが少なくて済む
・異動直後のレベルダウンを避け、業務の平準化を図ることができる

でも、役所の場合、特に県庁など比較的大きな組織の場合、業務分野が多すぎるのです。

教育、福祉、産業労働、医療、許認可、まちづくり、交通、住宅・・・

民間で言ったら、「もう職種どころか業界違うでしょ」レベルです。それをひょいひょいと異動させるわけですから、個人のキャリアの積み重ねなんて考えている余裕はないでしょう。

例えば、銀行で支店を異動する場合、場所は変わっても融資担当とか為替担当とか法人営業とか、何となく関連性ありますよね、少なからず。まあ、若手に幅広く職務を経験させて、ジェネラリストに育てることもあるでしょうけど、でも役所ほどの未経験分野をやらせる組織はあまりないのではないかと思います。

役所の人事異動の背景は「属人化による汚職防止」が大きな要因です。わかってますけど、容赦ないですね。

異動前後のスピードダウン

「このポストについてもう3年、この春は異動だな」

そう思ったら、人はどういうアクションを取りますか?

責任感ある人は引継書を丁寧に作るでしょう。でも、その引継書も完全ではありません。なぜなら組織の3割くらいは入れ替わるからです。

かつ、自分が仕掛かっていた業務でも年度またぎそうなものはこの3パターン。責任感ある順に並べてみました。

1)年度内(異動前)に頑張って終わらせる
2)途中まで頑張って手をつけ、途中段階で引き継ぐ
3)もう新しい人に全部お任せしよう(と手をつけない)

異動した直後、いきなり3)のパターンもあるわけです。カオスです。
前後の背景も周りとの関係もわからないのに、仕上げないといけないわけですから。特に年度始めって前年度に何をしたか、新年度にそれをどうするか、的な調査ものとか提出物やたら多いので、もう訳わかりません。

じゃあ、誰かに聞くと言ってもこれがまた聞く相手がなかなかいなかったりします。

とある部署でのお話

これは10年前。
私がとあるポストの係長(現在でいう課長代理)に異動した時のパターンです。

・係長(私、この春異動)
・採用2年目男子(この職場2年目の若手)
・新規採用女子(都庁初めて)
・治療中で仕事休みがち、フルでは任せられない主任(50代)
・再任用60代男性A(週4日勤務)
・再任用60代男性B(週4日勤務)

この場合、私と新卒の女性が「未経験」です。若手男子、再任用男性2名に聞くしかありませんでした。

でも、係長ポストとそうでない(ヒラの)ポストでは、仕事の中身もだいぶ違います。そして、この職場の場合、前任の係長がとにかく一人でガンガン進めるタイプだったために、若手に聞いても、再任用のお二人に聞いても(普通なら担当が知っておくべき事項なのに)

「それは係長が一人でやっていたからわかりませーん」
つまり

「人が適切に育っていなかった」

やばい、この組織・・・メンバーに作業しかやらせてなかったのかも・・・(だから係長、すごく残業してたのね、納得)

異動直後は組織を変えるチャンス

その後、私がこの職場で徹底したのは

「若手にどんどん任せて、彼らの経験値を高めながらリスクを分散しよう」
「再任用のベテランの有する知識や経験もどんどん共有しよう」

業務を平準化するためには、予算要求や決算まで共有させるので、1年近く要しました。自分の業務を全体から俯瞰させる習慣づけを担当レベルまで経験させることができました。優秀な若手は、役所のルーティンに退屈してしまうこともありますので(よくある「こんなことをするために試験を突破したわけではないギャップ」)、主任レベルの仕事を任せてみると案外そつなくこなします。むしろ、自分は主任級の仕事を任せられたという自信もつき、双方の信頼関係も深くなります。

ベテランのお二方も、ご無理ない範囲でどんどん働いてもらいました。私にとっては大先輩ですから、当然「リスペクト」を忘れずに!

異動当初は「前の係長さんは全部やってくれてたんだけどなぁ」などお小言もいただきましたが、そこはとにかく丁寧に「すみません、私が異動してきてよくわからないので、先輩方のお力を貸してください」と頭を下げました。

「異動してきてよくわからないので」は頻繁に使うのは好ましいやり方ではないと思いますが、ここぞという時(4月2週くらいまでの効力)に使うのは、枕詞としてはありだと思ってます。

そして、翌春、2年目若手男子は3年目となり、別部署に異動となりました。その際、部の予算決算を担当することになり、「未経験で異動しないで担当させてもらえて本当によかった」と後から言っていました。

でも、また次の人(またしても新卒採用)が来るわけです。

もうひな鳥を育てる親鳥の気持ちで、育ったら巣立つ、という感じでしたが、少なくとも、異動直後の春より、1年後のチームのスキルは向上したと自信を持って言えます。

異動もポジティブに受け止める

いまだに「人事異動の仕組み、なんとかならないものか」という気持ちはありますが、そう簡単に何とかならないのだとしたら、異動をポジティブに受け止めるしかないと思っています。上司であっても、部下であっても、その部署で一番新しい人が最も新鮮に「外の立場で」業務を眺められるわけです。当然改善できるチャンスと捉えていくのがベストだと思います。

前年同様に留まらず、「今年自分はこれを成し遂げた」と言えるようなネタを早めに探して、小さな達成感をチームで共有していくことで、チームが強くなっていきます。ということで、皆様のご無事を祈っています。



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