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【シンフォニック=レイン】全ルートクリア感想。考察で「幸せ」を解釈する楽しさ

【シンフォニック=レイン】は神ゲーである。

以前プレイ中、あるいはクリア直後の生の感想としてこのゲームの感想記事をいくつか上げた。今回は全ルートクリアということで熱の篭ったクリア直後の当時よりも冷静かつ全てを俯瞰した上での感想記事となる。

ネタバレなし総評

まず統括としての評価だが、総合的に見て非常に素晴らしいゲームだった。やはりストーリーがずば抜けて良好であった。読み物としての楽しさ求める人、ストーリーの考察をしたい人、鬱ゲーが好きな人は確実にマスト。特にストーリー、キャラの考察に関してはかなり深く楽しめるクオリティがここにある。
タイトルにも記した通りこのゲームにおける「幸せ」は与えられるものではない。考察し、解釈するものなのだ。考察すれば、このストーリーにとってなにが幸せなのかが見える。その考察が本当に楽しい作品であった。

序盤から数多の伏線とミスリードを貼り、終盤に解放されるルートで明かされる多くの真実とそれを利用したストーリーはとても読み応えがあり良かった。
このゲームは謎に対する誘導が圧倒的に巧妙であった。見やすいところに小さな謎を用意してそちらへ目が行くよう仕向け、より大きな謎を隠す。
わかりやすい古典的かつ王道のトリックを見やすいところへ置いておき、本当に悟られたくないトリックを隠すというストーリーの構成は素晴らしかった。更に前者のトリックにおいても、「そうだとは思っていたがそこまでとは思っていなかった」という想像を越えてくる要素がぼこぼこ湧いてくる為、読んでいて陳腐に感じなかった。

ストーリーは本当に素晴らしいものであったが、基本的に所謂鬱ゲーと呼ばれる類の暗くじめっとした話が多い。特にストーリーやキャラの設定を解釈をしないとこれのどこがグッドエンドなのだろうという展開が多い為、手放しに幸せな話を求める人にはオススメしにくい。
一部ルート除いて概ねがそのように暗い為、限りなく唯一と言ってもいいハッピーエンド(ゲーム内比)は逆に暗い話が好きな人から見たらあまり評価の高くなりそうなものではない。こちらはネタバレ込みで後述する。
基本的には鬱ゲーが好きな人や、ストーリーの面白さを求める人は十二分に楽しめるであろう。ただし、順当に純愛ゲームのような甘い日々を過ごす時間は限りなく少ない為にここへ重きを求める人には向き不向きがある。そこに関しては存在しないこともないので束の間の安寧のような時間として噛みしめることができるか否かにもよる。
だからこそ鬱ゲーとしては非常に良質で安易な展開でなくしっかり作り込まれた鬱展開を楽しむことができる。どちらかと言えば胸くそが悪いというよりは「救われない」類の暗さであったことを明記しておく。

このゲームの感想として賛否挙げられる大きな要素である音ゲー部分については別に些事であると感じた。私のプレイしたSwitch版ではオートプレイ設定をデフォで使用できる為、それを使用してやらないという選択肢を取れば問題ないだけだからだ。
そもそもが音ゲーではないためにそこで評価を下げるのはナンセンスな気もするが純粋にミニゲームとしてあまり面白くなかったというのも事実である。なのでそもそも視界に大きく映さないのが賢明だ。

総じてやはり多くのルートでストーリーが非常に良かったし読み物としてとても面白かった。これぞ00年代のギャルゲーといった感じの鬱ゲーらしさを存分に味わうことができる為、ぜひ手にとってもらいたい。


以下よりネタバレをふんだんに詰め込んだ各ルートの総評等を行う。そのため未プレイはここまでで本編に取り掛かってほしい。







ネタバレあり総評

メイン3人からal fineまでは完全に最強のゲームであった。特にどのルートが~とかでなく、個人的には最後のルートを除いた全てのストーリーが素晴らしくスペシャルに面白かった。

トルタルートは表裏含めた叙述トリックが秀逸であった。双子の入れ替わりトリックというわかりやすい部分に目を向けさせて、クリスの気が狂ってしまっているという方向に意識を向けさせい伏線の構成は素晴らしい。他のルートにおけるトルタの立ち回りの不審点もそれに拍車をかけており良い。
また、al fineにて視点をトルタに移すことでクリスのことを客観的に見ることができる。今までがクリスの主観のみだったのでこれにより彼がどれほど壊れた醜い人間であるかを客観的に知ることができる。この経験により今まで見てきた世界はがらっと変わる。

この世界には魔力というものが存在しているから、雨が降り続けているという設定にもあまり違和感を持たない。魔力が存在しているのだから音の妖精がいてもおかしくない。そういった巧妙な世界観への視点のリードがとても良かった。
序盤に明かされてもそりゃそうだよなとなるような設定をその世界で過ごす時間が増えてから明かす。それによりそれはそうだけど、と納得は行くが受け取めるのに多くの衝撃を伴う情報と化す。
al fineから他のルートを思い返すことで、クリスとトルタがいかに滑稽かということをまざまざと思い知ることができる。
トルタとペアを組むようアルの手紙で誘導するシーンなど特にそうだ。それらを筆頭に結局のところクリスという男は愛しているだなんだと言いながらもアルとトルタの違いも見抜けない、本質を見抜くことのできない哀れな男なのだ。
そういったクリスに対する印象の転換も含め、本当にキャラの扱いとストーリーがとても巧かったと感じた。

以下より個別ルートの感想に入る。

フォーニルート


求めない なにひとつも only love

【fay】 岡崎律子

個人的には最後に解放されるアルルートというかフォーニルートには否定的だ。全ルート通してどれもそうであったがこのルートは特にクリスの行き当たりばったり感が強く、ストーリーに必然性をあまり感じられない。
恐らく最後に解放される話だからせめてハッピーエンドをと思ったのであろうか。それ以上に今までのストーリーが現実的かつ無慈悲な話が多かったから多くの出来事をファンタジー、もっと陳腐な言い方で言うのであれば説明しようのない奇跡で解決するこのルートはあまり好みではない。

フォーニがアルの幽体離脱、あるいはその魂の化身であるとするのであれば。そこに歌が上手くクリスと史上のアンサンブルをすることができる、という現実のアルとかけ離れた彼女の理想が織り込まれていることにあまり納得がいかない。ついぞ作中においてフォーニの存在が明確になんであるのか明言されないこともその疑問に拍車をかける。
「天使の歌声」が周り、あるいは特定の人物にだけ聞こえることも説明がなくすっきりしなかった。フォルテール奏者にだけというわけでもなさそうだし、なによりも卒業公演の歌がトルタに聞こえていたのか分からないのもどうかと思う。

もっと根本的な話になるが、私はアルが救われることそのものにすら懐疑的である。いかんせん本編で出番がなかった為に印象も薄ければ、トルタルートにおけるアルとの決別が非常にストーリーとして良かったからだ。
私はずっとフォーニはおかしくなったクリスの生み出したイマジナリーフレンドだと思っていた。なのでどこまで行ってもまだクリスの頭はおかしくなったままなのではないか? という疑いがついてまわる。フォーニルートにおいてクリスはほとんど他人と関わりを持たない。そのせいで変化が分かりにくく、それでいてターニングポイントのようなものも目立たない。

上記のような理由から私はフォーニルートに対してはどちらかと言えば否定的な意見を持っている。ただこれに対しては私の好みでなかったという点が大きい。
そのため、最後の最後にもたらされるハッピーエンドというところでこれが有終の美に相応しいと考える人も多いはずだ。私としてはトルタ視点の真エンドくらいがちょうどよかったのでまあなんともといったところだ。

al fine(トルタルート込)


好きよ キライよ いいえ 愛してる

【秘密】 岡崎律子


視点変えを絡めた叙述トリックと伏線回収、そしてこちらの想像の上を行くトルタの内面の脆さ儚さ醜さそして可愛らしさ。
全体通して罪悪感と欲望とのせめぎ合いと葛藤はとても良かった。ちゃんと罪に対しての罰と報い、そして赦しがしっかりしていたストーリーは流石に素晴らしかった。
クリスの為に苦心する反面、ふとした拍子に何度も何度も全てを打ち明けて楽になりたいと願うトルタの強がりと弱さの描写も非常に素晴らしい。
第三者の視点から見ても手放しに幸せになってもらいたいと素直に思わせてくれないほどの嘘と欲望の応酬はトルタに対して複雑な感情をもたせ、キャラ造形を深めている。
なんだかんだでal fineでクリスに全てを打ち明ける方の真エンドではきちんと赦されてトルタなりの幸せの形を手にしているハッピーエンドなのも良かった。

トルタのテーマソングの1つである【秘密】の歌詞もこれが普通のトルタルートをやっただけとal fineをやってから見るのとで全く歌詞の深みが違ってくるのも作り込みの深さを感じられて良い。
上げ出せばきりがないのだが【見つめているだけでも 罪に思える】といった罪悪感の描写はトルタの行いとその迷いを知ってからだと重みが増し好みだ。

ファルルート


誰も知らない心 見抜いてくれたら…

【雨のmusique】 岡崎律子


ストーリーの構成、特にファルの内面に関する話において衝撃度もさながら、その展開の全てに理由付けができる必然性がしっかりしていたのが非常に素晴らしかった。
なぜ卒業公演前日に全てを打ち明ける必要があったのか、なぜクリスでなければならなかったのか。そしてなによりも雨の止んだクリスをわざわざアルの元へ連れて行くのか。これらはファルルートだけでは全てを理解できない、だがal fineまでやって全ての謎が明らかになれば全部気持ちよくジグソーパズルのように収まる。このカタルシスはかなり突出して気持ちよかった。
ファルの目的の為に選んだ生き方から一切ブレない強さと、そんな汚い自分を肯定してほしいと思う弱さのコントラストはあまりに芸術点が高く美しい。強くて弱いところもあるが、卒業公演後にファルを肯定したクリスに情をかけない。そこで共依存に陥らず、あくまでも自分が高く跳ぶための翼の1つとし利用し続ける。時折弱さが見えるからこそ、そういった本質的なブレない強さが際立つ。これらのキャラ造形が本当に良かった。

クリスにとっての「絶対」であるアルが無償の愛を与える人間であるのに対し、ファルは損得や利用価値でしか人を測らない打算の愛だ。ファルはトルタ以上にアルとは対照的、正反対の存在として存在している。だから最後もファルと一緒ではクリスは真実を受け取れ決めない。思い出さなく良い、という答えに辿り着く。そしてファルの手中でいつの日か、自分より利用価値のある他の存在が現れ捨てられるその日まで彼女の世界で飼われ続ける。
個人的にはこういったクリスの扱いが一貫して徹底したのも高評価であった。これにより、ファルの本心と彼女における愛の価値観などを考えることができるからだ。
ファルについては究極的にはやはり「そんな自分を肯定してほしい」と思っているというアクセントが本当に素晴らしい点である。このほんの少しの弱さを見せることが、彼女本来の持つ打算的で利己的な強さを引き立てて際立たせる。
あるいはファルが打ち明けるより先に、彼女の本心をクリスが見抜けていたら全ては変わっていたかも知れない。だがやはりクリスには本質を見抜けない。だからファルはファルのまま、不変であり続ける。
そういったストーリーの良さに加え、強さと弱さのバランスによるキャラの趣深さが非常に素晴らしいルートであった。ともすれば1番好きなルートであるやも知れない。

リセルート


そして 明日は希望

【リセエンヌ】 岡崎律子


このストーリーにおいては、序盤からクリスの行先が体制的に見て不幸であると示唆する要素が多かったことだ。それは周囲の人間からの忠告という形で見て取れる。
利己的で現実主義者であるファル、そしてグラーヴェと同じ立場の貴族であるアーシノからの「他人を信用するな」という忠告。だがその言葉は、現実主義の言葉は理想主義のクリスには届かない
そういった敗北を予感させ不安を煽る展開に加え、リセルート特有の先の見えなさ。トルタに守られていることも知らず、嘘の箱庭で生きているクリスが自分より弱いリセを守ろうとするという無謀さ。そういった先が見えないからこその閉塞感は非常に素晴らしい。
リセは弱い人間である、生きる過程でグラーヴェに抑圧されたことでそうなってしまった結果だ。クリスは自己防衛の為に無意識にアルのことを受け入れないことを選んだ。
だがリセは旧校舎でこっそり歌を歌っていた。グラーヴェの黙認する範囲で好きな歌を捨てずにいた。対してクリスは現実を捨て、まだ元気なアルと交際している理想の世界に閉じこもっている。2人のどちらが真に弱者かは言うまでもない。
そんなクリスがリセのことを弱い存在だと思い込み、守ろうとする。あまりにも滑稽が過ぎる、だがその滑稽さもまたストーリーと構成の巧さが成せるものだ。

リセルートは総じて他のルートでは守られ、あるいは手綱を引かれて生きることでなんとかなっていたクリスが守る側になる、という点に面白さが詰まっている。
先も見えないのにリセを匿い、明確なビジョンもなくふんわりと一緒に生きていこうと考える。卒業公演もグラーヴェのこともなんとかしないといけないのになにもできない、しない。そういった閉塞感と焦燥感のアンサンブルはリセルートならではの魅力だ。

クリスの視点から見た、自分より弱い存在というリセとの関わりに焦点を当てたストーリーは他とは毛色が違い非常に面白かった。また傍から見ればバッドエンドだが刹那を、今だけにスポットを当てて生きているクリスたちから見ればハッピーエンド、という彼らなりの幸せの価値観によるグッドエンドもとても良かった。
トルタが最後に言った「贖罪のつもり?」という皮肉もクリスには届かない。なぜならば彼はもうアルとのことを決別してすっかり忘れているから。今までアルのことを忘れ、最後のリセのように眠り続けていたアルに付き添ってやれなかった。アルにしてやれなかったからリセにそうしている、それが贖罪のつもりか。そういった意味合いでトルタはクリスにその言葉をかけたのであろう。
だがクリスにとって今はリセが全てなのだ。アルのことはもういないものとして別れを告げた、すっかり忘れるという割り切りを選ぶことで彼の止まない雨は止む。そもそもクリスはこのルートではアルが死んだことすら知らないであろう。
だからトルタのその皮肉も今までの報われない想いと努力を勝手に行い、勝手に踏みにじられたトルタの負け惜しみに過ぎない。
そういった誰の目から見ても色々な視点で報われない話がリセルートの魅力であり、その中でクリスとリセが2人だけの幸せを希望を見つけたという終わりがとても面白い。

最後に

今一度になるが、本当にとても面白いゲームだった。フォーニルートだけ否定的だが、それ以外のルートはどれもそれぞれの良さと好きなところが溢れている。なので総合的に見てとても良かったと思える。特にファルとの話はなかなか他で見ない徹底ぶりだったのでここまでやるかと感動すら覚えた。ここまでやるかというのはメイン3ルート全てに言えることだが。

嗚呼美しき00年代のギャルゲーといった救いのない鬱展開と登場人物感のどろどろはただ面白いだけでなくノスタルジックな気持ちにすらしてくれた。
かねてより評判の良さだけは耳にしていたのでこうして初見でプレイでき、幸運にもネタバレなしで新鮮な感動を多く味わうことができたのも良かった。やはりal fine初見における序盤の感情の震えはネタバレなしだからこそ得られるものがあり良かった。

このゲーム全般、登場人物だけでなくそれを見るプレイヤーにしてもなにかしら消化不良を感じる構成になっている。だからこそ、何が幸せなのか、これは幸せなのか、これでよかったのか。そういった疑問と向き合い、考察していくことに楽しさと意義がある。
起こった出来事の表面だけを受け入れるのではなく、読み込むことによる発見、考察の楽しさをこのゲームは強く持っている。そういった面も含め、クリアして消化不良に思うこともあるであろう。このゲームはクリアして考察するところまでとても楽しめるのでぜひ考えてみてほしい。

なので、私の作中歌において最も好きなフレーズでこの記事を締め括る。

報われない想いを どうするの

【秘密】 岡崎律子

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