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ソウルメイトと2年越しに再会した話〜前編〜

『たった一人のグレー。』の続編です。
なんの連絡もなく2年が経過した頃の話。
まずは、こちらからお読み下さい。


時は1年前に遡る。
梅雨が明け、肌にまとわりつくような夏の始まりを感じさせるような蒸し暑い日だった。

この日は休みで、花火デートに行く準備をしているとラインの通知音が鳴った。久しぶりに見るアイコンが1番上に並んでいた。ゆうや(仮名)だった。

<元気ー?>

たったそれだけだった。
トーク画面を開かずとも確認できる短文に、私は心拍数が上がるのを感じた。ドキドキとは違う、なんとも言えない感情だった。『どうして今?』
突然の連絡に困惑しながらも、一旦見なかったことにしてそのまま家を飛び出した。

ゆうやのラインのホーム画面はまだ、一緒に行った『メガネ屋さんの写真』のままだった。


その日の帰り道、体の火照りと酔いが少し残ってる状態で当たり障りのない返信をした。

<久しぶりだね。どうしたの?>

<友達の整理してて、元気かなーて>

わたしも物だけでなく人の断捨離をするタイプなので、特にその理由に違和感を抱かなかった。

<元気だよ!ゆーやも元気にしてる?>

<元気だよ!!彼氏さんはいるの?>

セックスしてる男ならいるんですけどね、とは当然言えず「いないよ〜」と返信をする。ほとんど質問されて答えるようなやり取りをそこから繰り返したが、正直焦れったかった。会いたいならさっさと誘えばいいのにと思いつつゆうやのペースに合わせた。

<会おうよ!>

ようやく誘われた時には4日経っていた。
平日の仕事終わりに会う約束をした。

当日、私の方が先に着きそうだったのでどこかで1杯飲もうかな(少しでも空き時間があると飲まなければという酒カス思考)と考えているとお店のリンクが送られてきた。カフェ・ド・クリエだった。お酒飲めないじゃん!

<ここのカフェで待っててもらえたら!〇分には到着できると思う!>

彼なりの気遣いだったのだろう、むしろ紳士的だ。
2年前ならそこまで考えてくれるのね(キュンッ)だったのかもしれないが、ゆーや私あの頃より酒飲みなんだぜ??

<自由にしとくからいいよ〜ありがとう。
ゆっくりきて!笑>

その提案を一切無視して、立ち飲み屋で一杯飲んでから目的の居酒屋に向かった。

「お待たせ!久しぶり!」

先に店の中で待っていたゆうやに声を掛ける。
そこは、ちょっと声を張らないと相手に聞こえないくらいサラリーマンのおじちゃん達の笑い声が響き渡る大衆居酒屋だった。ゆっくり落ち着いて会話をする雰囲気とは程遠かったが、嫌ではなかった。今更ムードを気にするような間柄でもない。

破格的に安いハイボールで乾杯をする。
目の前にいる人を見て思う。ホントはさ、ちょっとは期待してたんだ。あの頃より素敵になってたら?いい男になってたら?私の中でLove so sweetが流れ出しちゃうかも〜なんて思ってたわけよ、なかった。全然なかった。

2年ぶりにあった恋焦がれた男は、あの頃より身も心も包容力があった。要は、物理的なサイズ感が増していたのだ。
恋愛対象にはもう見れなかったけれど、人として尊敬できる存在なのは変わらなかった。彼はお店を経営していてもっと頑張っていることを聞いて素直に応援したいと思った。なんせ会話の波長が合うので楽しいのはやっぱり変わらなかった。

ゆうやからは少し緊張感が伝わってきた。
私のことまだ好きなんだろうなというのも何となくわかった。でも、何にも気づいていないフリをした。なんだが意地悪なことをしている気がして、そんな自分が少し嫌になった。お酒も進み、あの頃のふたりの話になった。

「付き合えなかったけど、本当に好きだったよ」

「俺も好きだった。あの頃、家族の問題で大変で、今一緒にいてもまいを幸せにできないと思ったから離れたんだ。ごめん。」

「そうだったんだ。言ってくれたら連絡待てたのに。何も言われず黙って待ってるのは私には無理だった。」

「そうだよね、まだ俺が未熟だった」

「私のこと考えて離れたってことだね。それがわかって良かったよ。」

2年ぶりに答え合わせができた瞬間だった。
誰にでも通じる安易な言葉で例えるなら、エモい。エモい時間が二人の間に流れた。私はきっと、答え合わせがしたかったんだ。だからゆうやにまた会いたかった。

<今日は、ありがと!元気そうでよかったよ!>

<こちらこそありがとう!楽しかったー!
今度シーシャ行こうね。>

さっきまでシーシャの話をしていて、色々お店に詳しいというので、今度行こうよと話をしていたのだ。でも、なかなかタイミングが合わずそのまま時間が過ぎた。


日が暮れると風が吹き抜け、ひんやりとした空気が肌を包んだ。夜の銀座を背に、私はひとり大通り沿いを歩く。

さっきまで4年勤めた会社にいて辞めることを告げてきた。引き止められたが、私の決意が固いことが伝わったようで、了承を得た。そして、ついていた役職も降りた。
とても人のことを考えられる精神状態ではなくなってしまったからだ。

「もっと早く相談してよ、何のために俺らがいるの?残業もしなくていいから帰ったらゆっくり休んで」

今まで全然尊敬してなくて頼りなかった上司(やめなさい)からの温かい言葉に泣きそうになった。別に大したこと言われなかったけどそれぐらい弱っていた。上司と取締役ふたりに見送られ、もう来ることの無いだろう会社を後にした。

歩く気力もなく、外にあるベンチに座ると、涙が零れた。それは、壊れた蛇口から溢れる水ように止まらなかった。

誰かに話を聞いてほしかった。この先どうすればいいのか、自分の選択が正しかったのか――答えが見えなかった。
そんな想いで連絡したのは、会いたい人ではなくてゆうやだった。なぜ彼を選んだのか、自分でもわからない。ただ、そのときの自分には、彼の存在が必要だった気がした。

<おつかれ!今日は遅くまで仕事?>

<今日は終わったよ!>

<飲みたい気分なんだけど付き合ってくれる?もう〇〇にいないか>

<大丈夫だよ!連絡ありがとう!>

<お店で飲む?サロンのバルコニーで飲む?>

ん??サロン!??
どういうこと!!!!?????
ゆうやは、美容サロンを経営していた。
店か俺の店かと言う選択肢を与えてきた。
ガヤガヤした雰囲気で話す気分では到底なかったので、引っかかるものを感じながらも彼の店で会うことになった。まさかあんなことになるなんて思いもしなかった。


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