悪性リンパ腫になった話②腸閉塞
1.お腹がはる
お粥の病院食が出ましたが、腸はまだじゅうぶんに働いていませんでした。
おなかが張り、ムカムカした胸焼けが出てきて、嘔吐するようになりました。
食事は中断となり、24時間点滴に戻りました。
手術して1週間経った頃。
その日も朝から気持ち悪くて、トイレへ。
しかし、空っぽの胃からは何も出てきません。
何も出ないのに、胃を下から押し上げるようなえずきが続きます。何度か胃が大きく波打ったあと、絞り出すように出てきたのは、緑の細長いかたまり。
腸閉塞でした。
ピッコロ先生から提案されたのは、鼻からイレウス管というチューブを挿入し、数日間入れっぱなしにして、保存的に腸管減圧・排液を図るというもの。
「30分くらいで終わるから、ちょっとしんどいけど、それすると楽になるから。」と告げられました。
2.はじめてのイレウス管体験
鼻からチューブ。それも数日間入れっぱなし…。
胃カメラが一瞬入っただけでもつらいのに、
想像もつきません。
でも、ヘトヘトに弱っていた私は覚悟を決めました。
「先生やります。」
イレウスチューブ挿入作業は、X線透視下で行われました。
胃カメラなら、通常、身体は横向きになりますが、今回は胃と腸を映しながらやるので、体勢は仰向けでと指示されました。
鼻の穴から管が挿入されました。
スターバックスの太いストローくらいあるチューブが容赦なく入ってきます。
喉を通ったあとは、とめどなく嘔吐反射が起こり、私の身体は入ってくる侵入者を一生懸命外に排出しようと波打ちます。
仰向けが耐えられず、横向きになります。
しかし横を向くとX線透視下出来ず、チューブの位置が確認出来ません。
すぐさま仰向けにされました。
①仰向けでチューブが挿入される。
②仰向けのまま、嘔吐反射で「オエッ!オエッ!」を身体を波打たせながらも、頑張ってチューブを飲み込む
③「もう無理ー!」と横を向いてエビになる。
その繰り返しです。
そのうち、「ちょっと我慢しよう」と数人がかりで私を仰向けのまま抑え込み、管が挿入されます。
「先生!もう嫌や!もうやめるー!」
私は渾身の力を振り絞って全力で中止を求めます
後から聞いた話ですが、私の叫び声は、処置室の外まで聞こえており、外で待っていた妹が、
「もうやめたげてー!」と扉を叩いていたらしい。
胃までは到達するのですが、その先の胃から十二指腸に入る幽門輪なかなか通らなくて苦戦されてました。
すでに30分経過。
「一旦休もか」
せっかく胃まで入れたチューブでしたが、全て抜き、一時の安息時間。
「もうこのまま入れなくていい」
心底そう思いました。
3.私服のおっさん登場
そこに突如私服のおっさんが登場。
どうやら帰宅するところを、呼ばれて来たらしい。
もしかして救世主?
皆がモニターをみながら作戦会議中だというのに
私服のおっさんは、「はい、上向いてー」と言って休息中の私に、再び容赦なくチューブ挿入。
仰向けのまま、身体を波打たせながらえずき、横をむこうとする私を、「おさえておさえてー!」と指示を出し、複数人で抑え込み。
マグロの解体ショーのマグロになった気持ちで、もう無になるしかないと、目鼻口から涙を流しながら、全てをあきらめ、横たわっていました。
「あれ?こっから通らへんな?」
私服のおっさんも同じ場所でつまづく。。。
私服のおっさんは、傍若無人にあれやこれやと角度を変えてチューブを動かすので、私は苦しすぎて、抑え込んだ手を押しのけ、横向けエビ状態に。
そしたら、「はい、横向かない、上向くー!」
「先生、もう辞めよ。もうこの管抜いてー!」
ピッコロ先生に助けを求めるものの、
「もうちょっと頑張ろ」と激励されるばかり。
そのうち、私服のおっさん、あきらめていつの間にか帰ってました。
何しに来たんやー!
偉い先生だったのかもしれませんが、私にとっては体力を奪うだけ奪って、何も成果を残さず帰って行った私服のおっさんです。
入れ替わりに来た先生の助言で、最終的に鎮静剤を打って、気づいたら終わってました。
最初から眠らせて欲しかった…。
そして結局2時間かかりました。
イレウス管。
素晴らしい拷問器具です。
4.イレウス管を入れたあと
・胸のムカつきで嘔吐
・常に喉に異物があって気持ち悪い
・管を入れてるせいか耳が痛い
状態で1週間過ごしました
管が取れた時、身体に何も入ってない状態がこんなにも幸せなんだと、心から感謝しました。
今でもあの苦しみは昨日のように思い出せますし、人生でナンバーワンの苦しい経験でした。
管が取れて、少し元気になった私は、
この調子だと近々退院して仕事復帰出来るかな?
自分の現状を知らない私は、のんきにそんな事を考えていました。
お見舞いに来た家族にも、
「いつ退院出来るんやろ?」
「1ヶ月半くらいはかかるんちゃうか?」
「そんなかからんやろ!結構元気になったで!」
なんて会話をしてました。
家族はまだ、私に、
悪性リンパ腫だということ
治療に時間がかかること
伝えてはいけませんでした。私に聞かれても濁す事しか出来ず、大変だったと思います。
5.大腸検査へ
イレウス管の効果で腸も少しずつ動き出したので、手術後の腸の状態を見る為、大腸検査をすることになりました。
しかし、私に襲いかかる災難はこれで終わりではなかったのです。
次回に続く