気持ちのいいお産は存在するのか
「鼻からスイカ」ってホント?
これって、未だに良く聞かれたりしますが、私自身は鼻からスイカを出したことはないし、出産の経験がないので分かりませんとお応えするしかありません。
この表現や、ドラマや映画の出産シーン、SNS体験談によって、陣痛・出産は非常に大変なもの、痛みとの闘いであるものと、残念ながら私たちの「無意識」に刷り込まれてしまっています。
私ももれなくその一人でしたし、この職業に就いてからもしばらくそう信じ、痛みと闘う女性をサポートして安全な出産へ導くことが使命だとすら思っていました。
けれどそれは、ある産婦さんにとの出会いによって覆されたのです。
気持ちのいい出産は存在する
今日は、それを私に教えてくれた産婦さんのお話をしましょう。
出産が怖くて仕方がないという方や、怖いイメージしか持っていない方はぜひご覧ください。
不思議な雰囲気の産婦さん
実は私たち助産師の間では、ちょっとした天然系や不思議ちゃん系の方ってお産の進みが早いというまことしやかな定説があります。
あれ?これって陣痛だったんですか?的な感じで病院に来たら、子宮口が全開だったなんて方も案外多くいらっしゃいます。私たちの方がビックリです。痛くなかったの?と聞くと、ちょっと変だとは思ったけど、まさか陣痛だとは思ってなかった・・・なぁ~んて、うらやましい限りですよね。
私が出会ったその方(Aさんとしましょう)も、直感的に感じたのですが、不思議な雰囲気を醸し出していました。Aさんは夜勤帯で入院していて、私が日勤で受け持った時には子宮口7~8センチくらいの進行状況。
出産された方はご経験があると思うのですか、子宮口が7~8センチの状況って、かなりキツイ。いきんではいけないと言われ、だけど陣痛の波がほぼMAXで、叫んでしまう・・・かなりしんどい時間なのです。
Aさんは、ご挨拶に伺った私に「よろしくお願いします」とニコッと笑顔。陣痛と陣痛の合間は痛みがないので、おだやかでいられるのですが、この時期はもうそれも無理なはず・・・。
けれどもAさんは、全く乱れていなかった。叫び声ひとつもなかった。眉間のシワさえない。そして陣痛がきたら、軽く目を閉じてフ~ッ、フ~ッとゆっくり呼吸をはじめました。反射的に腰をさすろうとした私の手を軽く制しながら・・・。
何が起こっている?
Aさんを担当した当時の私は助産師3年目くらいだったと思う。「腰をさすって!」「お尻抑えて!」「行かないで!」と産婦さんに言われることはあっても、傍にいること、サポートすることを、やんわりとではあるが制されるような経験はなかったんので、一瞬ひるみました。
なぜ?どうして?
自問自答しながら、Aさんをしばらく観察してみることにした私は、居心地の悪さと、不思議な空間にいるような気がしてならなりませんでした。
私、ここにいていいのかな?
陣痛室であるはずなのに、その空間はAさんだけのもので、Aさんの世界だったのです。
この温度差はなんだろう?Aさんにいったい何が起こってるの?と思う私ををしり目に、お産は順調に進んでいきました。
まさかのだんまりお産
子宮口も全開となり、赤ちゃんの頭もすぐそこまで降りてきました。いよいよ分娩室へ入室します。
Aさんの世界を壊してはいけないと、必要最低限の内診や声掛けを遠慮がちに行っていた私も、いよいよその時がきたと、いつもと違う感覚の緊張感を持ちつつAさんと分娩室に入りました。
いよいよ分娩台で出産という時をむかえます。
普段だと分娩台では、呼吸法やいきむタイミングの声掛けをするのですが、Aさんは陣痛室にいた時と同様の世界観で、陣痛が来たらフ~ッ、フ~ッ、陣痛の合間はうとうと眠るを繰り返しています。
あれ?私、声掛ける必要、全くないよね?
全てがAさんと赤ちゃんタイミング。私は会陰保護をし、赤ちゃんの娩出を待って支えるだけだよね?
そんなワケで、まさかの1年目・ド緊張時代以来のだんまりお産となったのです。
そして、出産
赤ちゃんが元気に産まれた瞬間に
「あぁ、気持ちいい」
Aさんは、至福の表情でそう言ったのです。耳を疑いました。気持ちがいいですって!?神々しく美しい彼女の表情は、それが紛れもない本心であったと物語っていました。
あの時何が起こってた?
まるでキツネにつままれたような話ですが、これは真実です。静か過ぎて神々しい出産。
お産中のAさんの表情が忘れられず、あの時Aさんの中では何が起こっていたのだろうかと、出産後にAさんに尋ねました。すると思いもしないこたえが返ってきたのです。
「私ね、お花畑にいたんですよ。すごくキレイでしあわせでした。」って。
え!?
お花畑って、どー言うこと!?
そんな出産ってできるの?というか、Aさんは天然を通り越した超不思議ちゃんなんだって思ったものでした。
1.000人近い出産をサポートし続けてきましたが、後にも先にも彼女を超える出産体験の方には、未だ出会っていません。
お産って気持ちがいい
それからというもの、私はAさんのように、いや、お花畑まにでいかなくとも「痛みを感じないお産」をするにはどうしたら良いんだろうと考えるようえなりました。
お産って気持ちいい、最高のエクスタシーなんだと言う方もいるそう。
そうまでいかなくとも、少しでも良い出産体験をして欲しい。良い体験はその後の育児への自信にもなるから、と。
そうして追い求め続け、私が出会ったのが、催眠出産(ヒプノバース)でした。ヒプノを学んでようやく理解することができました。あぁ、あの時Aさんは、ひとりヒプノ状態で、お花畑でお産しちゃったんだっていうことが。
お産は本能のままと言われます。Aさんに限らず、天然系・不思議系と言われる方は、潜在意識と顕在意識のクリティカルファクターを自由に行き来できるのでしょう。
そんな方はごく一部。
そうでない方がお産と向き合い、少しでもリラックスして、痛みに完全支配されることなく出産できるよう、私はきっとサポートし続けるでしょう。
気持ちのいいお産はある。できる。ということをAさんから教えてもらったから。
ー ヒプノバースはまたいずれお話します ー
パラレルキャリアをもつフリーランス助産師です。歩くパワースポットと呼ばれるくらい幸運体質な私が、妊娠/出産/子育て/女性の健康/の情報発信と日々のくらしのよしなごとをエッセイでつづっています。サポートしていただけたら最高にうれしいです!