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Brian EnoのAmbient 1: Music for Airportsを聴く

はじめに

 最近はすっかり在宅勤務が多くなり、作業用BGMをかけながら仕事することが習慣化している。歌詞が入っている曲だとそちらに気を取られてしまい、歌詞を聴き取るために脳のリソースを何パーセントかを割り当ててる気がする。そんなわけで歌詞がない音楽をかけることが主となり、Lo-fi Hip Hopだったり、Jazzを聴いたりしている。近頃はAnimals As LeadersというインストのDjentメタルバンドを頻繁に聴いている。変拍子とともに高揚感が掻き立てられ仕事が捗る。

Brian Enoを再発見する

 そんな作業中に聴く音楽を探求する動きが自分の中で去年あたりからあって、前述のLo-fi Hip HopをYouTubeの有名なストリーミング動画でよく聴いていた。

一定数の曲がループしているのに気がついてしまう程度には聴き込んで、そのあとは[bsd.u]Elijah WhoIdealismといったお気に入りのアーティストたちを掘っていった。そこからNujabesに辿り着いたのが去年だった。

音声が入っているものの、聴いていて心地よく、作業に集中できる。そんなLo-fi Hip Hopの始祖ともいえるNujabesやJ Dillaに行き着いて、次に開拓する地を探し始めたのが今年。Brian Enoをまた聴くようになったのもLo-fi Hip Hopの文脈上に存在する音楽だから、と言ってしまえばそう。

 こうして、長らく聴いていなかったBrian Enoに辿り着いた。正確には、もともと音源自体は所有していたので辿り着いたというよりは再発見した形に近い。あと、Brian Enoとは疎遠だったわけではなく、2017年に出たアルバム"Reflection"も出た当初に聴いていた。

このストリーミング全盛の時代、幾多のアーティストたちが3分以内の曲、そしてイントロの掴み・フックに命がけで取り組んでいる一方で、このような1時間超のトラックが1つだけ収録された作品を発表するブレなさは称賛に値する。また、2020年に出た兄Roger Enoとのコラボ作"Mixing Colors"もきちんと聴いている。

つまり、なんだかんだ彼に対してアンテナを張っていた。

アンビエントとは

 Brian EnoのAmbientシリーズとは何か?そもそもアンビエントとはどんな音楽なのか?以下に英語版のウィキペディアから定義を引用する:

"Ambient music is a genre of music that emphasizes tone and atmosphere over traditional musical structure or rhythm" - Wikipedia

つまり、意訳ではあるが「音色や音像を従来の音楽的な構造やリズム以上に意識した音楽」ということである。ここでいう”従来の音楽的な構造”はソナタ形式やよくポピュラー音楽で用いられるAメロやBメロ、サビ等のことを指すと考えられる。
 確かに、アンビエントには明確に構成がはっきりしている作品は少ない。リズム面に目を向けると、アンビエントはリズムセクション、すなわちビートが存在しないことも多い。ただ、ビートが存在しなければそれはアンビエントかというとそれも違うと思う。Brian Eno自身の言葉を借りるなら、「無視できるが同時に興味深い音楽」、それがアンビエントである。

"(Ambient music) must be as ignorable as it is interesting" - Brian Eno

 この定義に則れば、Sunn O)))に代表されるドローンもリズム隊が存在することも多々あるが、Brian Enoの定義するアンビエントの枠に収まると思う("ignorable"かはおいておくとして)。定義はともかく、Sunn O)))は爆音で聴くと最高なのでぜひ聴いてほしい。

Brian Enoのアンビエント作品 

 本稿を書いているときは"Music for Installations"を聴いていた。

一聴するだけでわかるが、もはや音楽というよりもただ音が流れている。分析すれば明確な構造があるのかもしれないが、単にシンセサイザを適当に間延びしながら弾くではなく押しているような印象明らかにポピュラー音楽とは一線を画す、「本人も曲ごとの区別付いてるの?」と疑いたくなる作品。それがBrian Enoのアンビエントである。
 感覚的にはネームバリューのある作り手にのみ許される、現代アートにおける白い絵(White Paintings)のような芸術に近い。

実は、最初に紹介したBrian Enoのアンビエントの定義には続きがあって、前述に加えて落ち着いて考える空間を与える音楽(意訳)としている。なので、方向性としては白い絵と似ているといってもいい。

"(Ambient music) must be as ignorable as it is interesting, (which) induce calm and a space to think." - Brian Eno

上記の定義は1978年の"Ambient 1: Music for Airports"が出た時のライナーノーツからの抜粋なので、気になった人は原文を読んでほしい(リンク)。難解で取っつきにくい、ある意味エクストリームな音楽。しかし、そういうものに自分のようなひねくれ者が引き寄せられているのだと思う。

 「どういったときに聴くんじゃい」と聞かれたら、「何か音を耳に入力していたい、無音は集中できない、そんなときに聴く」と答える。作業中はもちろん、自分の場合は無音だとよく寝付けないから夜に聴くことが多い。雑念を生じさせない音を提供することに特化しており、眠気を誘うヒーリング音楽のような押し付け感はなく、ただただ耳を介して音が脳に供給される。向き合い方として集中してきちんと聴くことを要求せず、中断したり寝落ちしても許される緩さがそこにある。

Ambient 1: Music for Airports

 Brian Enoも最初から"Music for Installation"のような極地にいたわけではなく、それこそ本稿の題材であるAmbientシリーズの一作目などはまだ取っつきやすいと思う。

 起伏はないし、曲名の付け方も雑だ。しかし、テーマである「空港のための音楽」にはそんなものは必要ない。なぜなら、トラックリストを確認するような人はいないし、ただ再生される環境に即していれば良いから。実際にドイツの空港で着想を得た"Ambient 1: Music for Airports"は、「アンビエント」作品と明確にラベリングされた最初の作品だった。
 "Ambient 1: Music for Airports"は、おそらくアンビエントを聴こうと思った人が真っ先に手を出すアルバムだと思う。ただ、真面目にこのアルバムから聴くこと自体が実は罠で、作品単位で聴くなら"Ambient 2: The Plateaux of Mirror"や、Brian EnoがプロデュースしたLaraajiの"Ambient 3: Day of Radiance"の方が相対的に取っつきやすかったりする。

曲単位の感想 

 1曲目の"1/1"は明確なピアノのテーマが存在しループする曲で、個人的には「空港のための音楽」の趣旨に最も沿っていると思う。おそらく、Brian Enoのアンビエント作品の中で最も有名な曲。大抵、これを聴いてみて合わなかった人は振り落とされ、アンビエント自体を聴かなくなる。

 2曲目の"2/1"は3人の女性+Eno自身の声がフィーチャーされているが、もはやそこには楽器としての声が存在するだけであり、メロディというものは皆無。声が延々とループして時間の感覚がなくなっていく。1曲目を乗り越え選別を経たリスナーはこの曲でまた振り落とされる。

 3曲目の"1/2"は1曲目と2曲目を組み合わせた形に近く、"1/1"のように短いピアノのテーマを繰り返しているわけではないけど、ピアノ+声の構成になっている。ピアノの要素という2曲目との差分が重要で、ピアノがあることに伴う安心感が3曲目にはある。

 4曲目の"2/2"はARP 2600シンセサイザで構成された曲で、アルバムの最後の締めくくる曲としてふさわしくどっしりと構えている。映画の終わりに主人公が夜明けを眺めながら戦いを振り返る情景が浮かぶ。あるいは、夕日が沈んでいくのを一日を振り返りながら眺めている場面。どちらにしろ、「今日も一日頑張ったな、明日も頑張ろう」という気分になる。

結び

 以上が、最近"Ambient 1: Music for Airports"を聴き直した感想である。今後、ほかのAmbientシリーズをレビューしていくつもりではあるが、正直なところわからない。もしかしたら、今度はAphex TwinのSelected Ambient Works 2のレビューをするかもしれない。

そもそもアンビエントに限らず、文章を書くリハビリとして今後も記事を投稿する予定である。


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