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世界のカルトカルチャーレポートvol.2 / ミツバチ好みの庭がつくる都市の生態系

20xx年の伝説を想像することをミッションとした組織 MVMNTが、世界中で起こっているまだ生まれたばかりだけれどこれから大きな変化に繋がるかもしれないムーブメントを取り上げます。
 
第2回は、ミツバチを取り巻く現象をピックアップ。花粉媒介者のためにデザインされた庭、ミツバチと人間が運営する分散型自律組織 (DAO)の「Bee DAO」と暗号通貨「Beecoin」などを紹介します。


ミツバチの好みに合わせた庭がつくる都市の生態系

ヨーロッパの春はとても気持ちがいい。太陽の光と新緑がまぶしく、爽やかな風を感じる季節だ。筆者は、今年ベルリンとパリでこの季節を過ごしているが、多くの人が公園や川沿いでまったりしている光景が街中で見られる。
特に、ベルリンは都市の中に緑が多い印象だが、そんなベルリンで6月に公開が予定されている都市の生態系に関わるアートプロジェクトを紹介したい。

https://www.instagram.com/p/CtGubVNI7Vr/

アーティスト、アレキサンドラ・デイジー・ギンズバーグによる「Pollinator Pathmaker」は、地域ごとに生息する受粉を促す昆虫のニーズに合わせてカスタムデザインされたガーデンプロジェクトである。ミツバチ、チョウ、ガ、スズメバチ、カブトムシなどの花粉媒介者は、植物の繁殖をはじめ、生態系の繁栄に欠かせない存在である。しかし、農薬、外来種、気候変動など人為的要因による生息地の喪失が引き金となり、世界中で、その個体数が著しく減少しているという。花粉媒介者がいなければ、多くの植物は繁殖できず、種を作ることができない。種子がなければ、私たちを含む地球上の生物の生存に不可欠な木や花、作物などといった植物は存在することができない。

こうした問題に対して、「人間ではなく花粉媒介者の視点から、庭をデザインしたらどうなるか」という問いを投げかけている。



ギンズバーグは、花粉媒介種の多様性をサポートするために、園芸家、花粉媒介者に関する専門家、AI科学者と協力し、その土地の地質・気候条件を分析し、花粉媒介者にとって最適な植栽設計を行う独自のアルゴリズムツールを考案。
アルゴリズムツールボックスで条件を選択し生成される庭は、大規模な公共庭園からベランダ庭園まで、それぞれの栽培環境や花粉媒介種の生態に応じており、季節ごとに適した植物とそれらをどのように配置し、育てていくかの提案をしてくれる。

https://www.instagram.com/p/CsJO9gfokyF/

生きたアートワークであるPollinator Pathmakerは、危険にさらされている花粉媒介者の視点から庭を体験し、手入れをとおして、花粉媒介者の保護に参加するようにわたしたちに呼びかけている。

今年6月には、ベルリン自然科学博物館をはじめ、ベルリンの街の各所で様々な庭がパブリックインスタレーションとして公開されるという。もし、個人の庭から窓辺、公共の敷地が花粉媒介者のニーズにあわせてデザインされたら、どんな生態系がそこに現れるのだろう。庭をとおして、人間と他種のあり方や関わり方に対する想像力を喚起するだけでなく、一人一人のアクションが重なることで、生態系の繁栄の貢献に繋がる事例であろう。


DAOと暗号通貨を用いてミツバチの生活環境を改善

5年に一度、ドイツ・カッセルで開催される世界的にも注目される国際美術展「ドクメンタ」。昨年開催された「ドクメンタ15 」で紹介された「Beeholder – Beecoin」はミツバチを取り巻く複雑な生態系の問題に取り組むプロジェクトだ。先のトピックでも挙げた世界中で発生している花粉媒介種の減少の中には、ミツバチの数やコロニーが減少している問題も含まれている。

(c) PHILIP HORST_2022
(c) Saki Hibino_2022

ベルリンのアーティスト/リサーチレジデンシー「ZK/U」(Zentrum für Kunst und Urbanistik)は、「Beeholder – Beecoin」プロジェクトをとおし、ミツバチと人間が運営する分散型自律組織 (DAO)の「Bee DAO」と暗号通貨「Beecoin」を用いて、ミツバチの生活環境の改善を図り、コミュニティや種を超えた共生関係の再構築に挑んでいる。
ミツバチの生態環境の改善を図るため、オープンソースのセンサリングキットを使ってミツバチの巣の温度や湿度、ミツバチの出入りで変化する巣箱の重さなどのデータを生成するという。

(c) Tomaschko
(c) Tomaschko

ドクメンタ15 では、ミツバチを取り巻く複雑な生態系の問題にいかに取り組むかという難問に、ドイツ カッセル周辺地域の15軒の養蜂家とZK/Uが協力した実験的プロジェクトが公開された。プロジェクトのプロトタイプでは、参加者がメンバーシップとなる「Beecoin」を購入し、ミツバチの研究などを通じて、ミツバチの生活をどのように改善したいかを提案し、オンラインやオフラインでの総会で、これらの提案の実用化や資金配分などを決定する「Bee DAO」の構築に取り組んでいる。

ミツバチが人間の生活に与える経済的、文化的、社会的な影響は計り知れないが、ミツバチには人間とミツバチの共通の価値や生活環境、領土などについて発言や決定権がないという状況を変えたいとBeeDAOは考えているという。異種間における民主主義的な取り組みを行うこのプロジェクトでは、人間と非人間のあいだにおける価値の創造や知識の共有といった事例を見出すことができる。

「Pollinator Pathmaker」と「Beeholder – Beecoin」の両事例は、都市の生態系の改善を目指すべく、各個人(非人間的エージェントも含めて)が貢献し、集団で答えを見出す興味深い実践ともいえよう。



text / Saki Hibino
https://www.instagram.com/saki.hibino/
ベルリン・パリなどヨーロッパを拠点に活動するリサーチャー、エクスペリエンスデザイナーキュレーター 、ライター/コーディネーター。 Hasso-Plattner-Institut Design Thinking修了。デザイン・IT業界を経て、LINEにてエクペリエンスデザイナーとして勤務後、2017年に渡独。現在は、アート、デザイン、カルチャー、テクノロジー&サイエンス、エコロジーなどの領域を横断しながら、国内外のさまざまなプロジェクトに携わる。

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