
【連載小説】ワイバーンの影を追え ③

剣がかすかに光を放ち、次の瞬間、町全体が奇妙な感覚に包まれた。霧は一瞬にして晴れ、カイランたちは見覚えのある町の広場に立っているように見えた。しかし、広場の雰囲気はどこか異質だった。空気が重く、色彩がぼやけ、現実感が希薄になっている。
リリスが戸惑った声で言った。「ここ…まるで夢の中みたい」
ライヴラの声が再び響く。「今、お前たちはカイランの意識の世界に包まれている。そしてこの町もまた、その意識に飲み込まれた」
ライヴラは鋭い声で説明した。「幻術使いよ。もし貴様がこの田舎騎士に手を出せば、それはすなわち此奴の意識下にあるこの町への攻撃となる。こやつを切り刻もうものなら、町へは雷や嵐が降り注ぐだろう。さてどうする?お前が幻術を解かねば町ごと此奴の夢の中で時を止めることになるが?」
その通り、幻術使いは分身に隠れたままカイランたちを見つめ、苛立った様子を見せていた。「貴様ら、私の幻術を利用してこのような仕掛けをするとは…!」
次の瞬間、幻術使いが小さく指を動かし、カイランへ向けて雷撃を放った。しかし、雷撃はカイランの体を通り抜けると、町全体を覆う嵐となり、建物を破壊し始めた。町の住人たちは混乱し、悲鳴を上げる。
「やめろ! この町は私が作り上げたものだ!」幻術使いは怒りに震えながら叫んだ。
カイランは冷静に言い放った。「ならば、俺たちを無事に町の外へ送り出せ。それが唯一の方法だ」
幻術使いはしばらく逡巡していたが、ついに深いため息をついた。「わかった…お前たちの勝ちだ。この町を守るために、お前たちを見逃そう」
町の景色が再び歪み始め、蜃気楼のように消えていく。カイランたちは砂漠の真ん中に戻され、後ろを振り返ると、そこにはもう町の影すら残っていなかった。
エリスがほっとしたように言った。「本当に蜃気楼だったのね」
カイランは疲れた様子で頷いた。「それでも、ただの幻ではなかった。この町にも、幻術使いにも実体はあった。だが、これで少しは前に進めるだろう」
一行は再び馬に乗り、砂漠の旅を続けた。その背後には、消え去った蜃気楼の町が静かに沈むように存在感を失っていった。
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