インタビュー|ヨルダンの工房で働く難民スタッフ
皆さんは、もうすぐ開催されるパリ五輪に206の国・地域に加えて「難民選手団」が参加するのをご存知でしょうか…?「難民選手団」は2016年のリオ五輪から始まった取組みで、パリ五輪では36名の選手が参加します。選手の出身地はシリアやイラン、スーダン等、11ヶ国に上ります。
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は、難民選手団の選手たちに対して「オリンピックに参加することによって、皆さんは再起力と卓越性という人間の持つ可能性を示すことになるでしょう。これは、世界中で1億人を超える難民に希望のメッセージを送ることになります」と語りました。また「(難民選手団の)皆さんは、私たちの社会を豊かにしてくれます」とも語っています。
「難民」と聞くと、可哀想な人たちというイメージがあるかもしれません。確かに、私たちの想像を超えるような辛い経験をしてきた人たちです。しかしながら、彼らはそうした経験を乗り越えてオリンピックを戦い、世界に勇気と希望、そして豊かさを届けてくれるのではないかと思います。
MUUTのヨルダンの工房では現在「難民」のバックグラウンドを持つスタッフが3名働いています。規模は異なりますが、自分の母国を離れて同じように新しい国・分野で挑戦する彼らにインタビューしましたので、ぜひご覧ください!
ムハンマドさん(シリア人)
Q:どうしてMUUTの工房で働き始めたのですか?
A:約10年前に内戦が続くシリアから逃れて隣国ヨルダンに来ました。同じアラビア語の国とはいえ、初めは仕事がなく困っていましたが、今はこうしてオリーブ製品を作れることを神様に感謝しています。
Q:お仕事内容を教えてください。
A:オリーブウッドの材木を切断・乾燥した後、工作機械で成形や厚みの調整も行なっています。扱う商品は、しゃもじ、木べら、カッティングボード等、多岐にわたります。
Q:故郷シリアが恋しくなることはありますか。
A:母国や自分が元住んでいた家を恋しく思わない人はいないと思います。どうしても辛くなります。。(聞き手:辛いことを伺ってしまい、ごめんなさい。シェアして下さり、ありがとうございます。)
Q:最後に、今の工房での働きがいを教えて頂けますか?
A:シリアでは電気の配線工の仕事をしていましたが、ヨルダンに来てMUUTの工房で新しく木工の仕事を学びました。MUUTの工房で働いていると、色々な人と出会えることも魅力です。今は、新しい工作機械の導入等も通じて工房の生産効率をより一層向上させることが目標です!
ムハンマドさんは社会人経験が豊富ということもあって、木材調達の際に材木屋さんとスムーズに連絡を取ってくれたり、工作機械の歯や部品の追加調達を業者さんとアレンジしてくれたり、外部とのやり取りで「潤滑油」として活躍してくれています。以前は電気の配線工だったため、MUUTの工房の照明も手際良く設置してくれる等、みんなから頼られる存在です。
ナジュラさん(スーダン人)
Q:どうしてMUUTで働き始めたのですか?
A:スーダンではハルツームに住んでいましたが、事情があってヨルダンに逃れてきました。MUUTで働けることになり、新たなスキルを得て自分の手仕事で収入を得ることができるようになり嬉しいです。
Q:お仕事内容を教えてください。
A:ムハンマドさん(前述)の後工程で、オリーブウッドのサンディング(やすりがけ)、コーティング、発送準備を担当しています。
ナジュラさんは、アフリカのスーダンから逃れてきました。ヨルダンと同じアラビア語を話しますが、ヨルダンの人たちは少しアクセントを感じるようです。物腰が柔らかで柔軟性があり、工房メンバーの中で「緩衝材」の役割を果たしてくれることも。真面目な性格で、いつも丁寧に仕事に向き合っています。
ミリアムさん(シリア人)
Q:どうしてMUUTの工房で働き始めたのですか?
A:約10年前に内戦が続くシリアの首都ダマスカス近郊から逃れてきました。MUUTでは、働き始めるときに木工作業のトレーニングを受け、作業を覚えました。
Q:お仕事内容を教えてください。
A:ナジュラさんと一緒に、オリーブウッドのサンディング(やすりがけ)、コーティング、発送準備を担当しています。
Q:工房での働きがいや、今後の目標を教えてください!
A:自分の技術が向上したことを実感できるとき、やりがいを感じます。公私共に、周囲に貢献できる人になりたいと思っています。
そして、世界が平和で誰もが安心して暮らせる場所になることを心から願っています。
ミリアムさんは工房で一番新しいメンバーですが、手先がとても器用で、オリーブ製品の厚さやカーブの調整が得意なので、商品のクオリティ・コントロールをしてくれています。元々デザイン系の勉強をしていたこともあり、新しい商品のアイディアを出してくれることもあります。今後、商品開発の仕事をお願いできればと思っています。
ヨルダンの難民の現状
ヨルダンには、現在70万人以上の難民が暮らしています。ヨルダンは2011年にシリア内戦が始まって以来多くの難民を受け入れており、国民一人当たりの難民受入れ数は世界2位と非常に多いです。シリア人が8割以上で最多ですが、他にもイラク人、イエメン人、スーダン人等、多くの人々が中東/アラビア語圏で政情が安定しているヨルダンに逃れています(歴史的に受け入れてきたパレスチナ難民は多くがヨルダン国籍を取得しています)。
これらの難民のうち、8割以上が難民キャンプの外、首都アンマン等の都市部に暮らしていますが、失業率が20%を超えるヨルダンで難民が職探しをするのは簡単ではありません。
木工職人として、胸を張って
MUUTは、そうした中で「難民の方々に雇用を届けたい」という思いで2021年に構想を開始し、現在では上記の通り3名のメンバーが工房で働いています。彼らはモチベーション高く「良い商品を効率よく作りたい」という価値観を共有してくれて一緒にアイディアを出し合いながら工房を運営しています。
冒頭でオリンピックに参加する難民選手団についてお話ししましたが、彼らが一人のアスリートとして世界の舞台に立っているように、MUUTの工房でも一人一人が木工職人として胸を張って働いています。将来的には彼らが自分自身で工房を運営できるよう、少しずつ製造だけではなく、生産管理などの工房のマネジメント業務も教えています。
人数は3名とまだまだ少ないですが、一人でも多くの難民の人たちにこうした機会を提供し、お客様に心のこもった、より良い商品をお届けすることがMUUTの目標です。応援の程、どうぞよろしくお願いいたします。
▼株式会社qaraqとは
2021年コロナ禍をきっかけに、代表大橋がヨルダンに渡航。生きるために国から逃れた、何万人といる難民に雇用を生むため、起業を決意。現地で大量に余っているオリーブの木で木製食器をつくるブランド「MUUT」を立ち上げ中。立ち上げのストーリーはこちらから。
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