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ゆる言語学ラジオは言語の話をしないからおもしろい

ゆる言語学ラジオを聞いていてふと思ったことを書いてみようと思います。

「させていただく」の回を観たときのことです。


「させていただく」=必要悪=田沼意次

敬語の「させていただく」についての回を観ました。

「させていただく」ってなにかと叩かれがちですよね。
敬語として間違っているとか、
過剰な表現だとか、
さまざまな批判を浴びています。

でもそんな「させていただく」、
実は日本語の敬語にとってなくてはならないものなのだそうです。
現代日本語に足りていない部分を補ってくれる、とっても便利な言葉なんですね。
(詳しくは動画を参照)

多くの批判を浴びながらも、実は便利で必要なものだから消えることがない。
これはいわば「必要悪」ともいえます。
みんなあまり使いたくないのだけど、やっぱり便利だから使ってしまう。
そんな言葉なんですね。

さて、水野さんと堀元さんの会話はこのへんから脱線していきます。

「なんかそんな人いるよね、歴史上の人物とか」
「田沼意次とかね」
「田沼意次って何した人だっけ?」
「いろいろ財政政策を打ち出したけど、裏で賄賂やってたんじゃなかったっけ?」

こんな感じで言語とは関係のない方向へと、話題が横すべりしていきます。

この会話を聞きながら、
「ああ、これがゆる言語学ラジオのおもしろさだよな」
と感じたのです。

キーワードは【散歩】

ここでちょっと一般的な話をします。
あるテーマについて話そうとするとき、大きく2つのやり方があると思います。
それは「目的地型」「散歩型」です。

①目的地型

たとえばあなたが仕事で取引先を往訪することを考えてください。
往訪先まではまっすぐ、ムダなく、最短距離で向かう必要があります。

変に遠回りをしたり、道中でおしゃれな雑貨屋さんにふらりと入る、
そんなことはできません。
上司に怒られてしまいます。

「目的地型」とは
ゴールへとまっすぐ、寄り道せずに進むやり方です。

これを会話に置き換えると、
結論に向かってムダなく一直線に話をする、
そんな会話になります。

途中でテーマと関係のないことを話したり、
同じ会話にもどったりしてはいけません。

結論を主張するために必要なロジックのみ、
ひとつひとつ繋げていく。
そんな感じの話し方です。

こういう話し方は論理展開が明快なので、
全体の構成がわかりやすいです。
言いたいことをストレートに伝えることができます。

これは仕事など生産性を求められるシーンでは有効です。

②散歩型

さて、「目的地型」の話し方は実に効率的であり、わかりやすいです。
しかしこういう話し方で、果たしてコンテンツはおもしろくなるのでしょうか?

そうではないような気がするのです。
少なくともぼくがおもしろいと感じるコンテンツはちがったものです。

ではどういうものがおもしろいのかというと、
ずばり「散歩」です。

散歩とは特に目的を持たずにぶらぶらと歩くことです。
職場や学校、待ち合わせの場所に向かっているわけでもなく、
病院や市役所など何か用事を済ませる、といった目的もありません。

目的を持たず、ただ歩くこと。

これを会話に置き換えると、
ざっくばらんな会話、ということになります。
そこには明快な論理展開というものは存在しません。

あるテーマAについて話していても、
そこから派生してテーマBへ、
テーマBからさらにテーマCへ、、
というようにどんどん逸脱していきます。

この話し方はムダが多い一方で、
ある副産物をもたらしてくれます。

それはたくさんの発見をくれるということです

まっすぐ歩いていたなら決して見つけられなかったであろう路地裏の雑貨屋さんや、道端に咲くちいさなタンポポの美しさに気づくことができるのです。

これはいわば「知の散歩」ですね。

堀元さんは「知の散歩」がうまい


ゆる言語学ラジオでは主に、
水野さんが進行役(話し役)、堀元さんが聞き役となります。

水野さんがその日話したいテーマについて調べ、まとめる。
まとめたことを堀元さんに話す。
話を聞いて堀元さんが思ったことをコメントする。
こんな形式をとっています。

このとき、メインとなって喋っているのは水野さんです。

一見すると、ゆる言語学ラジオのおもしろさのカギは
水野さんが握っているように思えますよね。
メインの話し役なのですからそう思えて当然です。

しかし、このチャンネルのカギを握っているのは
実は堀元さんなのではないかと思うのです。

堀元さんは相方の話をただ聞いて肯定しているわけではありません。
話を聞きながら、それに近いエピソードを持ってきたり、反例を出したり、あるいは話題を脱線させたりします。

「同じような事例が機械学習でもあるんですよね」
「うーん、それって18世紀のイギリスでは成り立たなさそうですね」
「それっていわばガウスですよね」

こんな感じで二人の会話は進みます。
ときに言語の話題から大きく脱線することもあります。
遠回りもあれば、まったく関係のない脇道へと迷い込むこともあります。

しかしそれによっていっそう会話がおもしろくなるのです。
この脱線=散歩こそが、ゆる言語学ラジオのおもしろさの本質なんじゃないでしょうか。

堀元さんのツッコミによって、
単線的な話は、複線的な談義へと昇華され、
豊かでのびのびとした知的散歩が完成するのです。

作品/批評

二人の関係ってなんとなく。
作品/批評
のような感じがします。

水野さん=作品
堀元さん=批評
ですね。

よい批評家は作家を育てると聞きます。

堀元さんの突っ込みは言語学の話題から逸脱することがあります。
しかしそれはけっして言語学の魅力を失わせるものではありません。
むしろ逆です。

堀元さんの脱線力・散歩力によって
水野さんの言語トークがよりいっそう生かされるのです。

これからもお二人のざっくばらんな言語トークを、
ゆるくたのしく聞いていきましょう。

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