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天ぷらが遅れてやってきた話


先日、夫と定食屋で食事をした。
お腹が空いてふらっと入ったので前情報がなかったが、席に案内されてからちらっとネットで調べてみると魚介類が美味しいらしい。
メニューには海鮮丼やお寿司セット、お刺身定食などが並ぶ。
その中の天丼と焼き魚定食で迷う私に、夫は
「じゃあ天丼にするから、焼き魚定食にしなよ」
と提案してくれる。優しい。夫はよくこうやって私が迷ったメニューを選んでくれる。
店員さんを呼んで注文すると、「焼き魚定食の焼き魚は3つから選べます」とのこと。
ぶりカマの塩焼き・かんぱちの塩焼き・鰆の西京焼き
どれも魅力的!今度は、ぶりカマとかんぱちで迷う私。
すると夫が今度は、「じゃあやっぱり焼き魚定食2つで。ぶりカマとかんぱちでお願いします」とさらっと注文を変えてくれる。優しい。
店員さんが立ち去ってから、夫がメニューを指差して
「下に写真が載ってるんだけど、定食には天ぷらが少しついてるみたい。
天丼じゃないけど食べたい焼き魚と天ぷらが食べられるならこっちが良さそうだよ」と
教えてくれた。
このお店のメニューは上部にメニュー名が、下部にいくつかのメニューの写真が載っているタイプで、確かによく見ると天ぷらがついているように見えた。
(写真の画質があまり良くなく、はっきりと見えなかった)

料理が来るのを待つ間にも続々とお客さんが入ってくる。
年配の方が多く、憩いの場にもなっているようだ。
斜め後ろの席には8名ほどのおじいちゃんたちが、町内会の旅行について相談していた。
飛行機に乗って長崎に行くらしい。
朝6:30に最寄り駅に集合。電車では乾杯しようと盛り上がっていた。楽しそう。
通路を挟んだ向かいのおばあちゃん2人はあんみつをつつきながら、
どこの病院がおすすめか情報交換中。
1人が、〇〇医院は先生がイケメンよ、と熱っぽく語っていた。気になる。

しばらくすると、定食の小鉢が先に運ばれてきた。
大根と白身魚の団子、ひじきの煮物、茶わん蒸し。
どれも味付けが控えめで体に優しい味。年配の方に人気な理由が分かった気がした。
飲み物がお冷ではなくあたたかいお茶なのもポイントが高い。しかも急須ごとテーブルに運ばれてくるのだ。
茶わん蒸しが具沢山で特に美味しかった。筍、シイタケ、ニンジン、銀杏、三つ葉。
思わず数えながら口にした。
少し間をあけて、ご飯、味噌汁、お漬物、焼き魚が運ばれてくる。
ご飯は若干少なめだが1回までお替りができるとのことで張り切る夫。
熱々焼き立てのお魚は、ぶりカマ、かんぱち、どちらも身が柔らかく皮まで美味しかった。やはり味付けが上品なところも良い。
夫と半分ずつ2種のお魚を食べながら、大正解だったねとメニューの選択を褒めたたえた。

完食して、少し物足りないし甘いものでも食べようか、という話になる。
あんみつ、ようかんなど和菓子に惹かれるが家に柿があることを思い出す。
帰って柿を剥くのが良いかもね、と話がまとまりご馳走様でしたと手を合わせた。
脱いでいた上着を羽織り、荷物まで手にしたところで、ふと夫が気付く。
「天ぷら、まだ来てないよね?」
確かに。天丼を食べたかったのは私なのに、焼き魚があんまりにもおいしくてすっかり忘れてしまっていた。
もう十分お腹は満たされているが、確かにまだ天ぷらは来ていない。
夫が再度メニューを確認すると、やっぱり写真には天ぷららしきものがうつっていた。
普通、こういう場合、焼き魚がメインの定食なのだから天ぷらが先に来るのでは?
もしくは、この写真はイメージであって必ずすべてのメニューを提供するわけではないとか?
夫とあれこれ話しながら、聞ける店員さんはいないかと見渡すが、店内が混んできたからか忙しない雰囲気で聞きづらい。
そのまま5分くらい逡巡したが、結局、お腹いっぱいになったしもう帰ろうか、と席を立とうとした瞬間。本当に立ち上がる寸前。
「天ぷらをお持ちいたしました」と店員さんが天ぷら2皿を手に席にやってきた。
私たちの目の前のお皿はすべて空、ごみもまとめ、完全なる「ご馳走様」状態だったものの、慌てる様子も、申し訳なさそうな様子もなく、平然とした態度だったので、私たちもそのまま受け取ってしまった。

なんとなく、言及するのもはばかられ、2人とも再び箸を取り、天ぷらを口に運んだ。
正直、絶対に天ぷらは忘れられていたと思った。焦って揚げたに違いない。
普通は「お待たせしました」とか、「遅くなり申し訳ございません」なんかの言葉が付け加えられるのではないか。などと思ってしまった。

が、火傷しそうなほど熱い揚げたての天ぷらはものすごく美味しかった。
衣はサクサク、油っぽすぎず、適度にジューシー。
写真ではほんの少しの天ぷらに見えたのに、茄子、ししとう、れんこん、海老、かぼちゃと盛りだくさん。
もみじおろしがついていて、このピリ辛具合が丁度良い。
天つゆもついていたけれどお塩をちょこっとつけて食べるのが好き。
焼き魚で大満足、と思っていたが、完全に天ぷらに持って行かれた。
夫は途中でご飯のお替りも頼み、最後には満腹で苦しくなっていた。

最終的には天ぷらが遅れてやってきたことはどうでもよくなり、大満足でお会計を済ませてお店を出た。
2人で交互に、焼き魚もおいしかったけど天ぷらも絶品だったね、と盛り上がった。
もしかしたら遅れて提供したお詫び?として少し多い天ぷらの種類を足して出してくれたのかもしれないね、と前向きに捉えることにする。

もしこれが焼き魚より前、もしくは焼き魚と同時に来ていた場合、熱々の焼き魚を食べたいあまり、天ぷらは後回しにしていたかもしれず、2品の熱々をどちらも堪能することはできなかったかもしれない。
先に天ぷらを食べてしまったら、あっさりとした焼き魚の美味しさが半減してしまったかもしれない。
もしかしてこれが計算し尽された提供時間??
(とはいえ、絶対に天ぷらを出すタイミングとしては正式ではなかったとは思うけど…)

なんとなく思い出深い出来事となった食事だった。
次に行った時はどのタイミングで天ぷらが出てくるのか楽しみにしようと思う。


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