見出し画像

大企業で働く人々と考えたい:越境と人的ネットワークはキャリアに何をもたらすか

この記事は 大企業スキル勉強会 Advent Calendar 2024 にエントリーしています♫

こんにちは!谷口ちさと申します。今年2月から、高知大学でキャリア開発の教員をしています。専門分野は経営学・組織行動論やキャリア論、ときどき地方創生などの研究もやっています。

私はずっと研究職だったわけではなく、新卒から15年ほどは、会社員をしていました。ざっくりと、外資系IT企業11.5年国内一部上場企業2.5年国内中小企業1.5年、基本的には教育・採用に関わる人事部門のキャリアを歩んできました。はい、大企業経験者です。

その後、約6年間、人事経験×キャリアコンサルタント×研究者の知見を生かしたフリーランス活動を経て、現職に至ります。はい、いろんな働き方を経験してきました。詳細はLinkedInをご確認ください。

このnoteでは、長期的なキャリアを考えたときに、大企業にいる今のうちにやっておきたい越境と人的ネットワーク構築について、書いてみたいと思います。



1.越境と人的ネットワーク

あつみんの #大企業スキル勉強会 関連のnoteを拝読していると、この勉強会の目的には越境が含まれています。特に、「スキルを活かせる環境を探す」からあとの行動促進がそれにあたると思います。

■大企業スキル勉強会の目的
「大企業にいる人が自分のスキルを認識して自信を持てるようになる」

<知見共有、言語化の場>
・自分のスキルを棚卸し、言語化する
・スキルの活かし方を考える
・スキルを活かせる環境を探す

2024.4.1 あつみんのnoteより抜粋

でも何より、大企業スキル勉強会そのものが越境の場になっていますよね。ステキです♬

また、昨今の組織行動論やキャリア論において、多くの理論で重要とされているのが人的ネットワークです。越境学習はもちろんのこと、キャリア自律、メンタリング、組織社会化、ジョブ・クラフティング等の理論の解説を読むと、それぞれの理論にとっての人的ネットワークの重要性が述べられています。

そこでこのnoteでは、これからのキャリア開発において越境と人的ネットワークがなぜ重要なのかについて、お話してみたいと思います。

なお、資料は大学の私の授業で使っているものを寄せ集めていますので、右下ページ番号はバラバラです。ご容赦ください。


2.100年ライフが働く人にもたらす影響

「人生100年時代」というフレーズが登場したのは2016年。
『ライフシフト 100年時代の人生戦略』という書籍で提唱され、瞬く間に日本にもその旋風を巻き起こしました。

では、100年ライフが働く人にもたらす影響は何でしょうか。

2021年4月、高年齢者雇用安定法が改正され、企業は従業員を65歳まで雇用する努力義務が発生しました(2025年より義務へ)。
さらに厚生労働省は、70歳定年を見据えています。75歳定年になるのも時間の問題でしょう。

大学を卒業してすぐに就職した場合、75歳まで働くとすれば、人は50年以上働き続けることになります。

だから、自分がワクワクすることって何だろう?を考え続けることは重要!

そして、50年以上キャリアを開発し続けるためには、目に見えない3つの資産が重要とされています。
おもしろいことに、すべての資産に「仲間」「人間関係」「人的ネットワーク」等、人とのつながりに関するキーワードが入っています。

これからの時代は、人とのつながりが満足のいくキャリアをもたらすのかもしれません。


3.良質な「弱い紐帯」の構築

キャリアと人的ネットワークについては、100年ライフが提唱される43年も前に、「弱い紐帯ちゅうたいの強み(The strength of weak ties)」理論が提唱されていました。紐帯とは、人的ネットワークを指します。

自分のキャリアにとって有用な情報をもたらすのは、家族や同僚のような「強い紐帯」ではなく、SNSや勉強会などで数回会っただけのちょっとした知り合い(弱い紐帯)からである、という理論です。

考えてみれば、そりゃそうです。隣の席の同僚がいきなり「いい転職先あるよ」とオススメしてくるとは、ちょっと考えにくいです。

弱い紐帯をたくさん持っておくと、強いんです!

では、自分のキャリアにとって良質な弱い紐帯とは何でしょうか。
おそらくその多くは、自分にとって興味のあること・夢中になれることに通じるコミュニティのメンバーだと思います。

僭越ながら、『越境学習入門』の調査・分析に関わらせていただきました。

本業では、自分の仕事に熟達するために、多くの人は「経験学習」を行なっています。これはこれで、重要。
しかし、深掘りして獲得したスキルの市場価値がどの程度のものかは、自社内ではなかなか分かりません。だからこそ、越境が必要となるのです。

越境は、企業の中で培われた前提や固定概念を見直すチャンス。自社の常識は他社の非常識。共通する前提がないためにゼロから説明し直す等、面倒くささは正直あります。
しかし、そうした自分を支える根幹を揺さぶられるようなプロセスを経るからこそ、自社の良さに気づいたり、自分が誇れるスキルが見えてきたりするのです。

縦の糸は組織、横の糸は越境♬

これまでアウェイだった越境先が、だんだんとホームになってくることもあれば、いつまでも馴染めない場もあるでしょう。それでOK。
すべてを強い紐帯にしなくても良くて、いくつかのネットワークに参加してみて、SNSなどでゆるくつながり続けることが大事なのです。


4.気づいたら「唯一無二」の存在へ

自分にとって興味のあるコミュニティ(ネットワーク)にいくつか参加しているうちに、あなたはいつの間にか「唯一無二の存在」になっているかもしれません。
それが「構造的空隙くうげき(structual hole)」理論です。

以下に例を示します。

ネットワークA:大学院のゼミ仲間
ネットワークB:企業人事仲間の勉強会

ネットワークAには、組織行動論やキャリア論を学ぶ大学院生がたくさんいます。しかし、ネットワークBにはアカデミックに学んでいる人がほとんどいません。
唯一、ZさんだけがネットワークAとBの接点(構造的空隙)にいます。
その場合、「企業で理論を使った研修をやりたい」というオファーは、Zさんに集中することになります。

左の図で言えば、赤い丸がZさんであり、構造的空隙です。

実際、私もフリーランス時代、いつの間にか構造的空隙にいて、お仕事をもらえたことが多々ありました。
依頼してくださる方のほとんどは、これまで接点はあったもののあまりじっくりとお話したことがない「弱い紐帯」の方でした。

なぜ「弱い紐帯」なのに依頼が来るのか?
やはり、SNSでの発信の力は大きいと思います。
弱い紐帯でも、発信によって、この人はどんな人か、何をしているのかがわかれば、困ったときに思い出して声をかけてもらえます。
ただつながっているだけでは、声をかけられることもありません。

関心のあるコミュニティを複数持つ、そしてSNSで自分の興味や得意を発信し続ける。私の経験上、この2点が「いつの間にか構造的空隙にいる」秘訣だと思います。


5.大企業にいるからこそ広げやすい「夢中になれる世界」

私は、会社員を辞めてからこれらのことに気づきました。
でも、大企業にいるうちに「夢中になれる世界」を広げられていたらなぁ、と今でも思います。

安定した給与を得ながら、「好き」の世界を広げられるのは、このうえないメリットです。そのうえ大企業であれば、肩書きも味方してくれます。

忙しい方は多いでしょうが、時間はやりくりすれば必ずなんとかなる。
出産を経て職場復帰を経験したことがある人はわかると思います。時間なんて、自分でなんとかするしかないんだってことを。
夢中になって越境している人もまた、その時間を捻出するためにがんばれるから、時間を生み出す達人になれるのです。

このnoteを読んでくださっている方の多くは、すでに越境を経験済みの方が多いかもしれません。

ぜひ次は「構造的空隙」に自分がすっぽり入ることを狙っていただきたい。……のですが、これは狙ってできることでもなく、ある日突然、気がついたら……という感じになろうかと思います。

夢中になれる世界を広げていれば、気づいたら唯一無二になっている。例えば私のようにフリーランスになってから種をまくのではなく、大企業にいる今が、種まきには最適だと思うのです。

いいなと思ったら応援しよう!