PublicとPrivateの間 〜地域とのかかわりを考える〜
今日は、法政大学経営学部・長岡ゼミの「アトリエタイム ONLINE」にお邪魔して、「地域×学び」のデザインについてお話しました。
今回お声がけいただいたきっかけは、私の所属する石山研究室のメンバーと共著で出版した『地域とゆるくつながろう』です。もともと長岡先生と石山先生も仲良しですし、私も以前より長岡ゼミ主催の誰でも参加できる「カフェゼミ」などにお邪魔していたことがご縁となりました。ありがたい。
今日の「アトリエタイム ONLINE」、私は20番目のゲストだそうです。およそ30分間の長岡先生とのラジオ風対談ののち、学生たちとの質疑応答という流れです。
長岡ゼミは必ず学生がゼミ運営に主体的に関わっている点がスゴイところ。今日も司会進行役の方に導かれてスタートしました。
全体像は、ゼミ生のみかんさんがグラレコにまとめてくださったので、こちらでご確認ください。みかんさん、すてきなグラレコありがとうございます♡
1. 土佐山地域の特徴的な取り組みとは?
私が著書の第5章で取り上げた事例”世界最速!? そうめん流し”をもとに「地域×学び」のデザインについてお話ししました。「地域資源」である竹や急斜面を生かしてそうめん流しをするだけでなく、そこから流体力学を学ぶべくJALのエンジニアもお招きします。これは吉冨さんが大切にしている「遊びと学びの境界線をなくす」「学び方を学ぶ」「大人の才能を無駄遣いする」にもつながります。
また、イベントが新聞などのメディアに掲載されるところまで見据えて企画をするというのも吉冨さんのすごいところ。発信されることにより、地域の人の士気も高まって、次のイベントにも協力してもらえるという好循環を生み出していることがまさに「デザイン」だと思います。
2. 地域活動と私の実践するキャリア教育はつながっているのか?
「アトリエタイム ONLINE」の冒頭で、長岡先生からこのような問いをいただきました。私の地域活動とキャリア教育の活動はつながっているのか、それとも全く別の活動としてやっているのか。私ははっきりと「つながっている」と答えました。しかしその理由は、今日の「アトリエタイム ONLINE」に参加させていただいたことでより明確になったように思います。
私は高知にある母校の小学校でキャリア教育をさせていただいています。そこでやっていることは「自分の気持ちを自分の言葉で話すこと」そして「相手の気持ちに耳を傾けること」です。今年は状況的にも開催できませんでしたが、2年間、Points of Youというコーチングツールを用いて年に5-6回ほど高知に帰り、授業をさせていただいていました。(日本語サイトがうまく添付できないので、英語のURLで失礼します...。)
土佐山地域を研究させていただいて興味深かったことの一つに、土佐山アカデミーが移住者と地元の方の橋渡しをしている点がありました。たとえば「祭りの準備は手伝ったほうが良い」とか「お宮の掃除は参加したほうが良い」というように、地域によって抑えておくべき事項は異なると思います。参与観察を通じて、そうした「抑えておくべきポイント」をそれとなく伝える役割を土佐山アカデミーが担っていると感じました。地元に馴染みきる移住というよりは、ポイントを抑えて自分らしく暮らす移住をされているという発見は、私にとっては新鮮でした。そしてとても現実的で、どちらの暮らしもうまくいく方法に思えました。
長岡先生からご質問をいただいたことで上記のお話をしたところ、学生から、地域活動に対する負担感について質問が出ました。それに対する私の答えは「やりたくないことはそうはっきり言えばいい」。人には得意・不得意もあれば、好き・嫌いもあります。地域で長く、そしてうまく生活していくためには、無理しないことも大切です。そのかわり、得意なことは積極的にやっていくことで、コミュニティにおける自分の存在価値が出ると思います。
こうした場面でも、私が小学校でやっているキャリア教育は役に立つというのは、新しい発見でした。自分の気持ちを伝えること、相手の思いを汲むことはコミュニケーションの基本であり、地域でも活かせる基本スキルだと実感できました。
3. 地域と「ゆるく」つながれるのか?
地域活動を「負担」に感じるのは、そもそもコミットメントするか・しないかという二つに一つの選択を迫られている(あるいは自分で勝手にそう感じている)からではないか、という話題になりました。
母校の隣の御畳瀬小学校は10年ほど前に廃校になっており、その校舎を活用した地域づくり学校「こうちみませ楽舎」のプレオープンに吉冨さんが講師として参画しています。私は今、高知市の広報ボランティア活動もしているのですが、そこでまた、吉冨さんへのインタビューをさせていただく機会がありました。吉冨さんが大切にしていることの一つに「ゆるいつながり」がありました。「こういう関わり方でないと仲間になれない」というルールではハードルが上がり、誰もがいつでも参画できる活動にならない、ということです。私が関東からオンラインで高知市の広報ボランティアに参加することが許容されるように、こうちみませ楽舎にもさまざまな関わり方を許容する文化を作りたいとのこと。
「アトリエタイム ONLINE」の最後は参加者一人ひとりが30秒ずつコメント、それを受けてゲストがコメントをして、最後に長岡先生がスライド1枚を使って締めくくります。多くの学生が「ゆるいつながりで良いんだ」「意思表示をすることも大切だとわかった」とコメントをくださり、私のキャリア教育と地域活動のつながりを理解してもらえたような気持ちになってうれしく思いました。
それを受けて私は、ゆるいつながりはやらない言い訳にもなり得る、ということをお伝えしました。何かに関わる時には、自分がそこにいる意味(得たいこと、成し遂げたいこと等)を意図しておくことが大切で、そうすることで場に対する適切な責任感と、ゆるい時・ガッツリやる時のメリハリを自分でつけることができるようになると思います。また、若い頃は特に、自分は何が得意で何が苦手なのか、どんなことをどのくらいがんばれるのか、ということが体得できていない時期でもあります。だからこそ自由な時間の多い大学時代には興味の赴くままにチャレンジし、「好き・嫌い」や「得意・不得意」、さらには自分の気力・体力的な限界値を体得してほしいとお伝えしました。
長岡先生からの締めくくりは「公 Public」と「私 Private」の間にある「共 Common」のお話でした。地域活動とは、ルールや決まりのある「公 Public」でもなく、自分の好きなようにやれる「私 Private」でもない。「共 Common」は人と人とが関わることで創られるからこそ、相手を理解し自分を理解してもらうことで、多様な価値観を認め合う。それを主体的にやらなければならないからこそ、難しくもあるのだ、というお話でした。
そして通常は1枚のスライドらしいのですが、今日はもう1枚ありました。ソーシャル・デザインはコミュニケーションに通ずるというメッセージ。”わたし”と"あなた"の1 on 1の関係を大切にすることが基本で、そうした直接的な関わりを広げることで仲間を作り、それが広がって「共 Common」になる、ということです。たとえば、ゼミでもアルバイトでもどんな場でも「Aさんのためになら頑張れるが、Bさんのためには頑張れない」ということは普通に起きます。自分にとって頑張れる相手がいるのなら、その人のために見返りを求めずやるというのが「共 Common」の基本だというお話に深くうなづきました。もちろん、嫌いな人の権利も守ること、いかなるときも誰とでもオープンな関係を持つ準備をしておくことも大切だ、という視点の大切さも強調されました。
濃密な90分。ゲストとして学生にどれだけ貢献できたのかはわかりませんが、私自身はたっぷりと学ばせていただきました。
長岡先生、長岡ゼミの皆様、ありがとうございました!またゼミに遊びに行かせてください。