18.お粥大嫌いな高齢者はどうすりゃいい?
「ばあちゃん!お米落ちてる!ああっ!流しにもこんなにこぼしてるよっ!」
最初の脳梗塞したあとのリハビリを終えて、戻ってきたばあちゃんは、それなりに家のことを自分でやれるぐらい回復していました。
そのため、介護といってもほぼ見守りです。
しかしながら、祖父が亡くなってからは一人暮らししていたため、私たちにはばあちゃんの基本的な日常生活は謎のベールに包まれていました。
果たしてこのお米をやたらと、あちこちにこぼしているのは病気のせいなのか、本人が単なる大雑把な性格なのか、まったく判断がつきませんでした。
こぼすくせに、水加減は多めなんですから、必然的にご飯は柔らかめに炊き上がります。
けれども、お粥が大嫌いなんです。
おじやとか雑炊、お茶漬けも嫌いらしいのです。
「高齢者には柔らかいもの、誤嚥しないように喉を通りやすいものを」
介護について勉強したことないので、詳しくないけれどこれぐらいはなんとなく知識として知っています。
ですが、本人が嫌いなんですから、特に晩年の大腸癌のステント手術をしてからはほとほと困りました。
施設での食事は、プロが作るため、やはり病状に合わせてお粥だったようです。
施設スタッフさんからの連絡では、毎回の食事を残さず食べているとのことでした。
「さすがに年取ってお粥食べようになったんかねぇ?」
私たちも、ばあちゃんががんの手術後に初めて自宅に戻った際の食事は、柔らかめとかキザミ食にするよう指導がありました。
とりあえず、レトルトのお粥をいくつか購入して、最初のうちはそれを食べてもらうことにしました。
案の定、うどんやラーメンなどより食は進みません。
なにしろ、デイサービスでばあちゃんの夕飯用に頼んでいたお弁当の味が気に入らず食べたくなくて、「これはおばあちゃんのじゃなくて、むーちゃんの弁当だろ!」と言ってのけた人です。
「ばあちゃん、明日の朝はお粥じゃなくて、少し柔らかく炊いたご飯にしようか?」
試しに聞いてみたら、顔がパァーっと明るくなりました。
それからばあちゃんが話し出したことを聞いて、私は驚いたのですが、曰く。
「施設のご飯な、お粥ばっかりで食べたくねぇからみんな残すんさ」
ちょっと待て…
施設の人は、ちゃんと食べてるって言ってたような⁈
雑で面倒くさがりの私ができる料理は限られていますが、とりあえずご飯を柔らかめに炊いて出してみたら、見事に完食でした。
ご飯をしっかり食べることで、足腰もしっかりして、シルバーカーを押して歩くにも力があります。
そうなると、「黙ってればわかんない」とばかりに、普通のご飯を柔らかめに炊いて、ばあちゃんが食べ切る量でラップに包んで冷凍という新たな手抜きを始めました。
これまた掟破りですが、昆布の佃煮や鯨の缶詰などを添えたら食べる食べる!
「家に帰りたい」と度々言っていたのは、このご飯にありつきたいからだったのかな…そんな自負もほんのちょっとだけありました。
時々、うっかり自分好みに硬めに炊いてしまい、とぼけて出して即バレました。
「あのさ、今朝のご飯、かてぇんだけどさ」
「じゃ、ヤダろうけど、お湯入れてやらっかくする?」
「いい、このまんまで」という答えを予測してはいたけれど、さすがにそんな時は茶碗を私に差し出しました。
お湯を入れて、少しだけ電子レンジでチンして、インチキお粥にしてあげると、ちゃんと完食してくれました。
そんな時は、心でガッツポーズしていました。
いろいろばあちゃん介護用に編み出した技やアイデアはもう試すことができません。
そして、「次に戻ってきたらこうしてあげると私が楽かも!」と考えたところで、「そうだ、もういなかった!」と思い出して苦笑いする日もあります。
あの世で食べたかった硬めのご飯、たくさん食べてるかな。
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