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25.介護中のお出掛けランチ

料理の味付けが、かなり個性的なばあちゃんは、外食も大好きでした。
元気な頃は、お友達としょっちゅう回転寿司ランチしていたようです。
ばあちゃん自身が脳梗塞になった前後に、やはりばあちゃんのお友達や兄弟姉妹も病気になったり、残念ながら亡くなられたりして、リハビリ退院した後のばあちゃんの家を訪れる方々もめっきり減りました。
それは仕方ないことでしたが、本人は自分が仲間外れになったような気分で、毎日愚痴や文句を言うようになりました。

「仕方ないでしょ!お友達も動けなかったり、もういないんだから!」

私たちがそう言ってなだめても、仲間はずれと思い込む被害妄想は止まりません。
それでよく気分転換に、お花見程度の軽いお出かけとか買い物やランチにも連れて行きました。
私はたいていランチと買い物担当でしたが、ばあちゃんを連れて行くとなると、普段友達と行くような洋食よりも、和食の店がメインとなります。
美味しいと思える店ほど和食店は、ばあちゃんにとって難関になります。
ゲームでいうなら、負傷してFランクに落ちた冒険者が、いきなりまたAランクダンジョンに潜ることになっちゃった感じでしょうか。

もしかしたら、今はバリアフリーのお店も多いかもしれませんが、和食のお店というのは案外段差が多いのです。
おそらく内装をおしゃれな作りにするには、2.3段の階段がある上り框の方が見栄えがいいのかもしれませんが、それがばあちゃんには試練になります。
蕎麦屋さんやお寿司屋さん、ラーメン屋さんなどのカウンターにあるちょっと座高が高い椅子はほぼ無理。
トイレのスリッパに履き替えるための簀子も、目を離した瞬間、足が引っかかります。
もちろん、介助で付き添って歩くので、キャットウォークのような廊下もなかなか大変でした。

「ここ、美味しいから、連れてきてあげたいよね」

「友達と行ったこの店なら、なんとかばあちゃん連れて行けそうだよ」

いつも悪口ばっかり言ってるばあちゃんの娘である我が母ですが、文句言う割に、ばあちゃんに美味しいものを食べさせたい心に溢れていたので、こんな会話をよくしていました。
そして、いざ連れていこうという時は、私が予め事前に店へ連絡して事情を話し、ばあちゃんを連れて行きやすい部屋を予約させてもらいました。

連れて行く時は嬉しそうなばあちゃんですが、やはりお友達と行くのとは訳が違うので、食べはするものの、会話の内容が自分中心からズレると不機嫌になります。
そして、サラダや添えられた野菜を残します。
それを見てまた、周りはブツブツ文句を言います。
お互い、大変な思いをして出向き、不機嫌になられて感謝されず、なんとなく文句で終わるこのランチタイムは、果たして私たちにとって幸せなものだったといえるのかはわかりません。

だけど、何人かのお元気なばあちゃんのお友達に会ってお話しする機会があると、必ず誰もがこうおっしゃってくれました。

「娘と孫に、こんなにいろいろしてもらえて本当に幸せな人だよ」

自慢好きのばあちゃんは、私たちにわかる形ではほとんど感謝を示してくれなかったけれど、お友達やデイサービス、介護施設の人たちには、私たちの自慢をしていたのでした。

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