バスでおでかけ
「そろそろ行きましょうか」お母さんがリュックを背負いながら言った僕らは時々、路線バスに乗ってお出かけする。
バス停へ向かう足はいつもより早く動く。だって僕たちがバス停につく前に出発するんじゃないかと思うから。途中、僕が通っている歯医者さんの前を通る。ぼくはもっと早足になる。
バス停につくと
「あと十分したら来るよ」
お母さんが教えてくれた。バスを待っている間
「お母さんは赤色の車が何台通るか数えるね」
「じゃあ、僕は青色の車にする!」
僕たちはバスを待つ間よくこの遊びをする。
「あ、青だ! いち、に・・」
「赤も来たよ。一台」
青色の車の後ろからバスが来るのが見えた。整理券を取るのは僕の役。好きな席があるんだ。外がよく見える少し高い位置にある席。座ると整理券をお母さんに渡す。
「発車します。」
シャッターが降りたままのお店がみえた。
「お店閉まってるよ。あ、ここのお店も」
「今準備中なのよ。もうすぐしたら開くよ」
と、お母さんが教えてくれた。
「次のバス停で降りるよ」
僕は右手に整理券、左手にお金を受け取る。
「郵便局前―、停車します」
プシュ―・・・・
バスが停まってから立ち上がる。バスの運転手さんにお礼を伝えて、まずお母さんが降りてから僕も降りる。振り返って手を振る。手を振り返してくれる運転手さんもいるし、手を振らない運転手さんもいる。今日の運転手さんは手を振ってくれた。
まず手芸屋さんに行く。僕の帽子に付けるゴムひもを買う。それから次のお店へ向かう。いつもここでお煎餅を買うんだ。バスに乗ってきた時だけね。
次は帰りのバスを待つ待合所へ向かう。
僕はお煎餅が気になって仕方ない。待合所の椅子に座ってからも、お母さんのリュックの中でお煎餅が割れていないか考えちゃう。僕がすごく心配しているのに、お母さんは隣に座っているあ婆さんと笑いながらおしゃべりしている。
帰りのバスが来た。僕はまた整理券を取って少し高い位置の席に座り、お母さんに整理券を渡す。
行きのバスの中で見たお店に人が入っていくのが見えた。
帰りのバスの中はいつももっと長く乗っていたいなあと思う。いつも『はつのりうんちん』ていうのでしか行かないから直ぐ着いちゃう。
お母さんがいうには、僕がバスの中で寝たら帰れなくなるからだって。僕は絶対、バスの中では寝ないのに。
「次で降りるよ。」そう言いながらお母さんはお金の準備をしている。
「嫌だあ、もっと乗る」
「おうち過ぎちゃよ。降りよう」
「嫌だ!乗るの!」
僕は少し声が大きくなった。
お母さんは少し黙って、
「じゃあ、もうひとつ先のバス停までね。歩く距離長くなるけどそれでもいいの?」
「いいの!」
ひとつ先のバス停は思ったより早く着いた。帰りの運転手さんは手を振らなったけど、おばあちゃんのお客さんが手を振ってくれた。いつもと違う景色が見えてなんだか冒険をしているようだった。
僕とお母さんは家へ向かって歩いた。
おひさまが僕たちを真上から見ている。雲は空の下のほうに少しあるだけだった。
いつもと違う橋の上を通った。魚がいないかと下を見たけど、小さい水たまりみたいなのがふたつあるだけだった。
「おうちまだー?」
「もう少しだよ。バスの中で言ったでしょう。歩く距離長くなるよって。」
しばらく歩いた。相変わらずおひさまは真上から僕たちを見ている。
「まだー」
ばくは座り込んだ。こんなに長くなるなんて思ってなかった。もう歩きたくなかった。僕の前を歩いていたお母さんが振り返った。
「もうちょっと」
と言いながらぼくを抱っこした。ほんとうにもうちょっとだった。角を曲がるといつもの歯医者さんが見えた。
お母さんが僕をおろしてカギを開ける。
「ただいまー」
リュックからお煎餅をだす。
お煎餅はきれいな丸のままだった。