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◆ 63円の絆 ◆



2021年元旦、年賀状が今年も届いた。SNSで「年始の賀状ご挨拶を控えます」と前もって言えたら、どんなに楽になるだろう。

小学6年の時、好きな男の子に年賀状を出した。年賀状は年始の挨拶であり、ラブレターではないと自分に言い聞かせ、一大決心をして書いた。冬休みに入り、クリスマスを過ぎてから、親に隠れて自分で郵便局まで行き投函した。元旦の朝、何回も郵便受けを見に行った。雪が多い年だった。待ちに待った年賀状が届いたのは、御節も食べ終わり、炬燵で両親は昼寝をしていた午後2時頃だったろうか。郵便受けに入らず、輪ゴムで一纏めになった束が、玄関前に置いてあった。一番上の年賀状は、水性マジックで住所が滲んでいた。
昼寝中の両親に気づかれないように、家族に届いた年賀状を仕分けする。友達からの年賀状に目を通す。「今年もヨロシクね」「中学生になっても仲良くしてね」可愛い申のイラストと文章を、素早く読む。私が一番期待した男の子からの年賀状は、元旦に届かなかった。カッコいい彼は今頃、私からの年賀状を、どんな状況で読みどんな気持ちになっているか気になった。クラスメイトの女子も、彼に年賀状を出しているだろう。下手な猿の絵と「もうすぐ卒業だね。中学へ行っても、サッカー頑張ってね」と書いた私からの年賀状が紛れているかと思うと恥ずかしかった。でも、好きなんて事は書いてない、恥ずかしくないと自分に言い聞かせた。
元旦を過ぎても毎日郵便受けを見に行った。冬休みが終わり始業式までに彼から年賀状が届かなかったら、どんな顔して学校へ行けばいいだろう。元旦から5日目、5枚の年賀葉書が届いた。朱色の年賀状に紛れて、緑色の30円の普通郵便葉書の表面に『年賀』と手書きされているのが1枚あった。彼からの年賀状だ。お餅の絵が描いてあり「今年もヨロシク。お餅の食べすぎに注意!」と書かれていた。卒業式まで彼との距離は縮まる事なく、小学校の初恋は終わった。

今は、年賀状を送る事、届く事が嫌いになっている。今年も「元気にしてますか?」「久しぶりに会いたいね」と一言添えてた年賀状が届いた。こんな言葉を並べて、会った試しがない。本当に会いたいと思ったら私は行動しているよ。
学生時代に仲が悪かった同級生から年賀状が届いた。
「SNSでブロックしているみたいなので、年賀状を書きました。同窓会の出欠確認は葉書にしますね」
年賀状は元旦の儀式なのか。何を以て年始の挨拶とするのだろう。シュレッダーに通し、切り刻まれた同級生の年賀状に、一方通行で流れる紙の行方を重ねて考えた。
お付き合いしたい相手とは、年賀状が無くても元旦でなくても連絡が取れる。63円以上の人間関係を築くことができる。

2021年元旦の夜、用意してあった無地の年賀葉書をプリンターにセットする。元旦に届いた年賀状に目を通し、「今年は会いたいね」「元気にしてますか?」と同じレスポンスを手書きする。

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