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34歳会社員がラジオパーソナリティーに転職した話⑩フィジー編

会社員だった私が、34歳でラジオパーソナリティーに転職するようになった経緯をのんびりと書き連ねている。

病気を経験し、命は限りあるものと改めて感じた私は…
フィジーの海に浮かんでいた。

前回の記事はこちらから34歳会社員がラジオパーソナリティーに転職した話⑨フィジー編


私はカナヅチだ

金槌とは、泳げない人のこと。
これは金槌を水に入れると即座に沈み、浮かび上がらないことからきている。 

引用: 日本俗語辞書


即座に沈み、浮かび上がらない

なるほど納得。

さて、場所は南太平洋の島フィジーの海上。周りは一面どこを見渡しても海。ガイドのフィジー人男性が、顔を水面につけるよう私に促す。
私は即座に沈まないまでも、浮かぶので精一杯。
地に足がつかない浮遊感と不安感で、なかば呼吸もままならない気がしていた。

勇気を出せ私。顔を水につけるだけでいい。
大きく息を吸い込む。





眩しい…


海の中は光が満ちていた。
深さは2メートルくらいあっただろうか。大きな岩、白い砂。
色鮮やかな小さな魚たちが、楽しそうにあちらからこちらへこちらからあちらへと泳いでいる。

生まれてこの方、この目では見たことのない景色が広がっていた。

うわああ、勇気を出してよかった。フィジーに来てよかった!生きててよかった!!!



と喜びを爆発させるのもつかの間。
前出の「即座に沈み浮かび上がらない」を体現する時間がやってきた。

おお?おおお??うまいこと浮かんでいることができないぞ。
あれれ?息がうまくできないぞ。
ああああ… 手と足と顔とどうやって…
お母さんはどこへ…
意識が遠のく




国際派、誕生

「あ、沈むなこれは」
遠のく意識の中で覚悟した。

その瞬間、身体がふわっと軽くなる。
あの屈強なフィジー人男性が私を抱えて心配そうに顔を覗き込んでいた。

今まさに溺れかけていた私はようやく言葉を絞り出した。

「あ・・・ I Want to go back to the boart !!」

英文科ありがとう。いざという時に必要な英語が出てきたのはあなたのおかげです。野猿街道沿いの山の上の大学でギリギリで卒業したあの大学生活のおかげです!

フィジー人は笑顔で頷くと、私を抱きかかえたまま船に向かってすいすいと泳いでいく。助かった・・・なによりあなたのおかげです。



船に乗せられた私はバスタオルを肩にかけ、しばらく呆然としていた。

ほんの一瞬見た海の中は天国そのものだった。長く楽しむことはできなかったものの、自分の拙い英語がフィジー人男性に伝わったことが予想外に嬉しかった。どうも英文科です!どうも国際派です!

言葉が通じることに気を良くした私は、同じく船上に座り海を眺めている外国人女性が気になっていた。
歳は40代くらいだろうか。繊細そうな知的な横顔が印象的だ。
私の英語、通じるんじゃね?
失敗を恐れず、勇気を出して。

「 Where are you from ??」

彼女は一度私を見やると、再び海に目を移した。
あまりに華麗な無視。

私も同じく海に目をやる。
湘南(大磯)生まれの母は大勢の中で海をスイスイ泳いでいた。


国際派フィジーの海に散る。

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