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書く練習

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短編小説をジャンルレスで。
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《短編》名前を呼んで

《短編》名前を呼んで

「笠原優奈」
自販機の前で不意にフルネームを呼ばれて思わず振り返ると、同じ営業部の先輩の瀬木幸太だった。

「あの、、なぜフルネームなんですか?」
「いや、いつもと違う風を入れたくて」
「入れんでいいですから」

私はいつもの缶コーヒーを買い、先輩はサイダーを買った。
先輩とは軽口をきける仲だけど、一応わきまえる所はわきまえる分別はあるつもりだ。
それにしたって、フルネームはいきなり距離を取り過ぎ

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《短編》夜ふかし

《短編》夜ふかし

夜活動するのが性に合っている。

誰もが寝静まった時間で集中できるし、何より落ち着く。

(そろそろ寝ないとマズイよな……)

時計はもうすぐ深夜2時になろうとしていた。
映画に読書、そしてゲーム。いつもやり始めたら止まらない。

(何で朝早い仕事にしちゃったかな〜…)

自分の勤めている会社の就業時間は9:00〜17:00の、いわゆる世間の皆様のお勤めタイムだ。

前は午後出のスーパーの品出しを

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《短編》線香花火

《短編》線香花火

8月の終わり。
久しぶりに彼と穏やかな午後を過ごしている。
外はまだまだ熱気が立ち込めていて、日差しもキツく、出掛けるには厳しい。

だから彼の家で各々涼んでいる。
彼は本を読み、その隣で私は映画を。

アクション映画のやかましい音の中でも、彼は涼しい顔で文字を追い続けていた。

「ねぇ裕(ゆう)、よく読めるね。こんなうるさいのに」
「集中してたら音消えるし」
本から目を離さないまま、彼は言う。

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