義両親と仲よくなる努力の話
このたび妻が臨月を迎えました。
お腹は大きく、腹囲98cm。かかりつけのお医者さんにはいつ生まれてきても大丈夫、と言われています。いよいよ、ですね。
彼女はひと月前から徐々に仕事を減らし、5月から正式に産休をとって埼玉県の実家に里帰りしていました。
そして今週からわたしも、妻の実家で居候生活をはじめています。お世話になる産院の規定で「出産の立ち会いは、同居5日以上の方 1名だけ」とされているため、予定日に余裕をもって埼玉入り。久しぶりにあった彼女は、わたしと暮らしていたときより肌ツヤがよく、健やかに大きくなっていました。
妻とわたし、それから妻のご両親との4人での暮らしがスタート。
実を言うと妻のご両親とはこれまで、年に一度会うか会わないかの距離感だったので、未だに仲よくなれていません。むしろ少し身構えてしまいます。
振り返ると初めて親父さんと会ったのが、まだ二十歳の学生時代。ご両親の目を盗んで旅行に連れて行ったところ「あれれ、おかしいですねぇ。この新幹線のチケット領収書が二人分ですねぇ」という古畑任三郎級の推理で、お義母さんにバレて呼び出しをくらったことがきっかけです。緊張しながら家を訪れると親父さんが「なんだ思ってたより小柄だな」と笑いながら、ビールを飲んでいました━。
出会いがそんな形ですから、未だに緊張感がぬけず、気づくと視線をテレビに逃がしてしまう自分がいます。喋らない分、必要以上にご飯をおかわりしたり、慣れないビールも毎食飲んだりして。いい加減状況を打破して距離を縮めなければまずい。
仲よくならなきゃと焦る理由はもうひとつあります。妻がこの後無事出産したら、一週間ほど入院するようです。その間、家では、わたしとご両親の3人生活が営まれることになるのです。入院中の面会は禁止されているので、一度も妻の力を借りずに、3人が円満に暮らしていかなければなりません。
居候初日は偶然IPPONグランプリがやっていました。これをチャンスと捉えたわたしは、大きな声でハキハキとテレビに向かって話しかけることにしました。ゲーム実況動画と同じ要領ですね。
「さすがバカリズムですねー。」
「これは一本いったんじゃないですかー!!」
普段めったにリアクションをしない私ですが、この日は家庭を温めようと終始、努力を重ねました。
「山内が実はすごい一本取ってる!!」
「ザコシが考えすぎてますね。もっと面白いのに。」
だれからも返事はないが、たまにうなずいたりしてるのをみて安心しながら、この作戦を続けます。次第に場が温まったからか、親父さんもテレビにむかって喋り始めました。
「こいつ頭いいな。」
「だめだよ、意味わかんねぇよ。」
わたしは小さな手応えを感じ、IPPONをとった粗品と一緒に心の中でバンザイしました。
いけるぞ!今日で氷は溶け切る。
そうわたしが油断したとき、、ドン。
わたしだけが大笑いしていました。
周りを見渡すと、親父さんは何もなかったようにテレビをみつめ続け、お義母さんはテレビさえ観ていません。やっかいな妻は「どこがおもしろかった?」と聞いてきます。
日本では、親子で観るテレビに下ネタはご法度なんですよね。忘れていました。妻がいることで油断がすぎました。悔やまれるミス。
「・・・。あー笑った笑った。お腹いっぱいだ。」
そう言い残し、大悟に八つ当たりのガンをとばして、私はリビングをあとにしました。明日からがんばろう。
父親になるまであと22日。